「小売業元旦営業」の是非の”identify strengths”と「自分を泥まみれにして社会に貢献する喜び」
2010年12月30日。
今日から明日にかけて、
西日本と北日本を中心に大しけ。
平野部でも大雪が降る。
さらに年明けの1月元旦から2日にかけて、
冬型の強い気圧配置が続く。
元旦のニューイヤー駅伝や2日、3日の箱根駅伝、
サッカーの天皇杯決勝、ラグビー大学選手権準決勝など、
もしかしたら雪の舞い散る中での激闘となるかもしれない。
いつだったか、雪の中の早稲田・明治戦、
スクラムの熱気で湯気が上がった。
あんな感動を期待したいものだ。
さて今日は、帰省ラッシュのピーク。
東京発の東海道新幹線、
指定席は満席、自由席も乗車率100%を超える列車が相次ぐ。
東北、長野、上越新幹線なども指定席はほぼ満席。
空路も、羽田発国内線はほぼ満席。
正月を故郷で過ごす。
いいことです。
これでなければ、日本の正月ではない。
一方、Uターンラッシュのピークは、
正月の3日から4日となる。
ピークだけ勘定すると、
30日に帰省し、
31日、1日、2日と実家で過ごし、
3日か4日にUターン。
これでは実質の休息日3日間か4日間。
正月ぐらいもっと休んでもいい。
そう考えていたら、
小売業の「元旦の初売り」にも見直しが始まった。
朝日新聞が報道している。
理由は「人件費がかさむのに、十分な売上高が期待できないから」と同時に、
「従業員に福利厚生の充実をアピールするねらいもある」とのこと。
いかにも朝日新聞らしいを理由付けだが、
ここには企業のアイデンティティが出ている。
ピーター・ドラッカー先生のいう「自分の強み」。
英語で“identify strengths”と表現する。
まず百貨店は、例年通り1日は休み。
2日に初売りする店が多い。
福袋の販売が眼目。
ヤマダ電機は昨2009年から、「元日は休み」。
「従業員のワーク・ライフ・バランスの実現が目的」。
今回も元旦は全店休業。
首都圏のスーパーマーケット「サミット」は、
2011年の元旦営業を止める。
1998年から13年間、元日営業をしてきたが、
「経費の割に売上げが少ない」。
田尻一社長は言う。
「社員が家族と過ごす時間を増やしたい」。
特に食品スーパーマーケットは、
31日大晦日まで、これでもかと正月商品を売る。
そのうえで1月1日に店を開けても、
「福袋」くらいしか売れない。
ならば、30日、31日に社員、従業員ともに、
目いっぱい売りまくって、今年を終わらせ、
元旦は一斉に休み、
2日から新年スタートと言うのも、
これはいい考え方だ。
首都圏の東急ストアも、
来年は元旦営業店舗を18店にとどめる。
昨2009年には92店で展開していたが、
今年2010年には14店に減らした。
一方、1月1日から営業するのは総合スーパーなど大型店。
もともと、「元旦営業」を先駆けたのは「ダイエー」。
それも故中内功さんが元気な時だった。
「なんでも破壊者」「イノベーター」の中内ダイエーは、
1996年から元旦営業をスタートさせ、
ダイエーがやると影響を受ける他者が追随した。
「指をくわえて見ている」ことに我慢できなかったのだと思う。
2011年もイオンリテールのジャスコやイトーヨーカ堂を始め、
総合スーパー各社はほとんどの店で「元旦営業」。
非食品の「福袋」など、百貨店に先駆けて売り込む。
ヨドバシカメラ、ビックカメラも元旦営業するし、
ユニクロもキャッシュバックくじを発行して営業。
「3000円以上買えば3000円が当たるチャンスがある」。
それぞれの元旦営業でよろしい。
それが”identify strengths”であれば。
中内ダイエーが日本で初めて「元旦営業」を始めた。
これは中内ダイエーの”identify strengths”だった。
だから顧客から喝さいを受けた。
今、ヤマダもサミットも東急ストアも「元旦営業」を止めたり縮小したり。
それが”identify strengths”ならば、
従業員も顧客も歓迎するに違いない。
すべての小売店が元旦営業するならば、
12月30日、31日の意味は薄れる。
うちはやる。
うちはやらない。
それが”identify strengths”である。
来年からの2011年代、
「自らの強み」を発揮する企業が、
残っていくに違いない。
他に追随するだけの者には、
アイデンティティがない。
そしてそこにはイノベーションがない。
最後に一つ。
日経新聞のスポーツ欄の「チェンジ・アップ」。
野球評論家・豊田泰光のコラム。
「何か景気付けの道具はないか……」と呼びかけておいて、
「ないことはない。スライディングである」と答える。
「威勢のいい滑り込みほどチームを活気づけるものはない」
なぜか。
「捨て身の技である滑り込みは、
究極の自己犠牲の姿でもある」
ここにあるのは、
「自分を泥まみれにし、
組織に貢献する喜び」
帰省ラッシュの今日も明日も、
そしてUターンラッシュの3日も4日も、
小売業・サービス業は、
「自分を泥まみれにして社会に貢献する」
だから、おそらく中内ダイエーの「元旦営業」にも、
それがあったに違いない。
豊田は指摘する。
「野球界だけでなく、
この1年の日本はどこもかしこもどんよりしていた」
だから提案する。
「ここはもうみんなが捨て身になって、
ガンガン滑り込むべし。
沈滞ムードも少しは変わろうというものだ」
今や「小売業の元旦営業」が即、
「野球におけるスライディング」とは言いがたいが、
「自分を泥まみれにして社会に貢献する喜び」は、
忘れてはならない。
<結城義晴>
2 件のコメント
中内さんの元旦営業ですが、それは確か、阪神大震災の次の年だったと思います。それまで、小売は大店法で年間25日くらいは休日がありましたが、震災特例で、休日撤廃や深夜営業などの束縛が一気に解き放たれて、時代の寵児になられました。でも、そこから小売業の「競合激化」が始まったのです。もし、震災がなければ、今のような過度な競争はなかったかもわかりません。そして、ダイエーが神戸本社でなかったら、今の深夜営業も、元旦営業もきっとなかったと思われます。個人的には、この業界に勤める人々の過重労働の原因を、中内さんが作ったと、今でも思っています。
いのうえ様、ご投稿感謝。
阪神大震災が1995年1月17日に起こりました。
その1年後に、おっしゃる通り中内ダイエーが元旦営業を始めました。
震災がなければ、深夜営業や元旦営業がなかったかもしれないという仮説も考えられます。
もちろんアメリカの小売業をみていると、
24時間営業をしている企業も多いですから、
それを学んだ日本企業のどこかが始めていたかもしれません。
ドンキホーテのような企業もありますからね。
ただしこの業界に従事する人たちの過重労働は、
私たち全員の問題として、必ず、解決していかねばなりません。
私の掲げる「商業の現代化」においては、
この問題は不可欠の解決事項です。
だから経営リーダーを養成するコーネル・ジャパンにも、
落合清四さんや木下潮音さんを招いて、
真剣にこの問題の解決に努めています。