「東北関東大津波大震災」結城義晴渾身の現地ルポ「三章 盛岡ジョイス/ベルプラス編」
“Think unthinkable!”
「考えられないようなことまで考えよ」
それから、
“Never say, never”
「絶対に起こらないなどとは、金輪際言うな!」
日経新聞国際面で編集委員の高坂哲郎さんが、
欧米の安全保障や危機管理の専門家の合言葉を紹介している。
中部銀次郎の言葉にすれば、
「最悪を覚悟して最善を尽くせ!」
中部さんはストイックなスポーツマンだったから、
「最善を尽くせ」と結論づけるが、
欧米人のリスクマネジメントはリアリズムだから、
「最悪を覚悟せよ」としか言わない。
しかし最善を尽くしても、
それでも人間の力ではどうにもならないことがある。
昨日の日経新聞一面コラム『春秋』。
災害社会学の第一人者・広井脩の著書『災害と日本人』から引いた。
「日本人の伝統的な災害観」の三つ。
①「天譴(てんけん)論」
「人間社会への天の戒めとみる」
関東大震災の時の渋沢栄一や内村鑑三の考え方。
石原慎太郎東京都知事がこの天譴論者。
②「精神論」
「災害に科学的に対処するよりも心構えを強調する考え方」
これは「最終的に神仏依存に通じる」
今回も振興宗教がはびこるだろう。
③「運命論」
「災害とそれによる生死を運命として受け入れる」
「そう割り切ることで悲劇性を心理的に抑える効用がある一方で、
あきらめにつながる恐れもある」
これは、広井さんの指摘。
このコラムは最後に、
東京都三宅村の平野祐康村長の言葉を出す。
「火山噴火で4年半の全島避難を経験した」ひと。
「誇れることがあったとすれば、
自殺者を出さなかったことだ」
そして結びは、「人と人のつながりがますます大切になる」。
私はそれに付け加えたい。
これから必要なのは、
「一心に仕事をすること」。
その日経の投資・財務欄。
「小売り・外食、震災が影」
セブン&アイは381億円の営業利益マイナス、
そして260億円の特別損失。
高島屋は3月、売り上げ減90億円。
ダイエーは店舗の被害などで15億円の特損。
ファミリーマートは営業利益25億円のマイナス、
40億~60億円の特損。
しまむらは90億円の売上げマイナス、
30億円の特損。
ファーストリテイリングは30億円の売り上げ減、
10億円の特損。
売上げマイナスと特別損失の、
オンパレード。
この数字の世界は、
天譴論でも精神論でも運命論でも、
逃れられないし、解決しない。
一昨昨日、
ベルプラス会長の遠藤須美夫さんとじっくり話した。
共同仕入れ機構CGCジャパンの重鎮で、
東北CGC のリーダー。
「今回はCGCの役割が大きかったし、
今後はCGCブランドがもっともっと重要になる」
私も同感。
いわきのマルトも大船渡のマイヤも、
CGCジャパンに加盟していて、
その商品供給と仲間企業の助力に、
大いに励まされ、助けられた。
東北と北関東の広範な震災は、
ナショナルチェーンの「機能」の強さを、
再認識させた。
イオンはナショナルチェーンだし、
セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートのコンビニも、
ナショナルチェーン。
しまむらもユニクロも、
ニトリもコメリも、
ナショナルチェーン。
ナショナルチェーンとは、
全国規模のチェーンストアであるということ。
だから東北北関東の震災に対しても、
健全な西日本の店や部門が奮起して、
東日本の店や部門を自助することができる。
CGCジャパンも全日食チェーンも、
ボランタリーチェーンのナショナルチェーン。
遠藤さんの言うCGCの役割の強さは、
地域地域のローカルチェーンが集まって、
「ナショナルチェーン」を形成していることを意味する。
ベルプラスもジョイスも、
CGCジャパン加盟のナショナルチェーンで、
まあ東北はCGCジャパンだらけということになる。
ジョイスの小苅米英樹社長は、言う。
「営業本部の全店では、
店長が中心となって店頭販売を始めたし、
総務部門はガソリンの補給をいち早く確保した。
開発本部は被害状況を素早く調べ、
商品本部はトラックで商品を集めに回った」
「組織ごとに機能を果たし、
自動的に動くことができた」
震災が起こったときにいちばん、
やってはいけない態度。
それは「指示待ち」。
行政には未だにその傾向が顕著だが、
小売業に、それがあってはならない。
小苅米さんが言うのは、
「指示待ち」がなかったということ。
それでも営業本部の佐々木寧さんは、述懐する。
「この20日間ほどはまともに眠っていない」
組織で役割・機能分担して動くと言っても、
その組織ごとのトップは、不眠不休である。
ジョイス専務の青木洋一さんは、
この会社の懐刀だが、
「これからは体力勝負になる」と見る。
私の「寡占化が進む」という見方にも、
賛成してくれた。
それはジョイスが、リージョナルチェーンを志向しながら、
ナショナルチェーンのCGCジャパンにも加盟していることの、
バックボーンを意識した見解だと思う。
東北関東大震災の後、
日本の小売りマーケットの様相は、
確実に変わる。
私は、強く実感した。
しかしナショナルチェーンが、
重要な機能を果たしたことは確かだが、
店舗の価値が個店にあることは、
絶対的な要素である。
ここは、間違えてはいけない。
強い個店がナショナルチェーンの力によって、
さらに強くなることが起こる。
弱い個店はナショナルチェーンだろうが、
リージョナルチェーンだろうが、弱い。
小苅米さんは震災後全社にメッセージを発した。
毎週月曜日に「社長からの手紙」を出しているが、
その震災特別版。
それには呼びかけがあった。
「早く通常に戻そう」
いち早く通常に戻した者が、
顧客の支持を得る。
顧客こそが、
「はやく日常を取り戻したい」と、
熱望しているに違いないのだから。
<結城義晴>