日本と米国の小売業や消費産業を学ぶときに必須の「抽象化と具象化」、「鳥の目・虫の目・魚の目」
枝野幸男官房長官や岡田克也民主党幹事長が発言して、
管直人首相の退任の時期が、「夏頃」と明確化したようだ。
それにしても迷走した。
さらにまだ迷走は、
終わっていないのかもしれない。
管直人自身にも、
何が何だかわからなかったと思う。
不信任案決議の日、
完全に、眼が泳いでいた。
朝日新聞のコラム『経済気象台』は最後の決め台詞を、
「涙に迷う」と私にはわからない言い回し。
意味はどうも「涙の海にさ迷う」というところを、
簡略化した表現らしい。
そういえば最近の若い人の表現は、
頭の部分を使って略す。
『もしドラ』が典型で、
「就活・婚活」「アラフォー」なども、
同じ傾向を示した略語。
何でも詰めて簡略化するのが流行っていて、
想像力豊かに感じ取っていれば、
クイズのようで結構楽しめるが、
にわかにはわかりにくいことも多い。
しかしそれに慣れると、
便利で使いやすい。
「鳩菅」などもそれだが、
今回は、両者は離反した。
さて、週初めにアメリカから帰ってきて、もう週末。
かの地の主要小売業の5月売上高が発表された。
既存店売上高は前年同月比でプラス5.4%。
前年同月比の数値は18カ月連続で増加。
国際ショッピングセンター協会が毎月初めに、
小売業27社の集計を発表している。
その集計値。
4月はプラス8.5%だったから、
3.1ポイントのマイナス。
業態別ではメイシーやノードストロームなど百貨店がプラス10.4%。
メンバーシップホールセールクラブのコストコがプラス12.3%。
衣料品チェーンのギャップはマイナス4.0%、
GMSのJCペニーもマイナス1.0%。
価格帯の高い業態フォーマット、圧倒的な低価格の業態フォーマット、
そしてその業態特性を徹底的に生かした企業が成績良好。
中価格帯を狙った業態やフォーマットは、
軒並み悪い。
アメリカ人の所得はもともと二極化しているが、
それが日本の次元とは比べられないほど極端だ。
この人口動態が業態やフォーマットの盛衰に大きく影響を与える。
残念ながらウォルマートは月別決算を発表していないので、
正確には分からない。
それにしても前年同月比5.4%増。
東日本大震災をこうむった我が国とは、
ずいぶん違う。
今回、私と同行してくれた人々に、
帰国後1週間が経過する前に、
もう一度、確認のためにコメントしておこう。
日米の違い、
そして日欧の違い、
欧と米の違い。
それぞれの基本的な差異を理解したうえで、
自国、自社、自分の役に立てるという姿勢がなければならない。
その時に役立つのが、
「鳥の目」「魚の目」であり、
「虫の目」である。
何度も何度も書く。
「鳥の目」は、大局を見る力。
全体像を俯瞰しながら、「見渡す能力」。
これを支えるのが、情報量と知識。
「魚の目」は、流れを見る力。
時間の経過の中で、現在と未来を「見通す能力」。
これを支えるのは、経験と見識。
「虫の目」とは、現場を見る力。
細部まで丁寧に「見極める能力」。
これを支えるのが、専門性と現場主義。
鳥の目や魚の目は、
抽象化の能力である。
抽象化の後でこそ、
具象化が役に立つ。
抽象化の欠けた観察は、
それはそれでいいが、
間違いを起こしやすい。
だから例えば日本在住の主婦が、
アメリカのスーパーマーケットを見て、
好き嫌いを云々するのはまだしも、
経営や品揃えを語ってはいけない。
かの地の現象を一度、抽象化する。
そのうえで、こちらの条件を入れてから、
具象化する。
このプロセスが必須である。
例えばもともとアメリカ小売業の1店舗当たりの客数は、
それほど多くはないから、
大繁盛店などめったにお目にかかれない。
それでもきちんと利益は出していて、
アメリカに慣れない人々にとっては、
何とも珍しい現象に見えるらしい。
だから単位当たり売上高や単位当たり営業利益、
単位当たりSKUに抽象化し、
それを業態別に比較検討することで、
業態やフォーマットの差異の説明に使うことができる。
しかしこの抽象化を経ずにストレートに紹介してしまうと、
客数の多寡や売上高の大小が、
理解できないことになる。
売価に関しても、日本のレートと比較して、
高いの安いのと評することは危険である。
だから渥美俊一先生が多用した「商品構成グラフ」が役に立つ。
価格と在庫との折れ線の「形」で、
それぞれの店や企業の政策を抽象化しつつ、
理解できるからだ。
マーチャンダイジングに関しても同様。
代表的な例が、牛肉の「赤身嗜好」。
アメリカ人の主食は赤身牛肉といってよい。
さしの入った霜降りなど大量に食べられるものではない。
だから100年も前から赤身中心。
ラウンドやランプなどモモの部位も、
フランクやブリスケットも、チャックも、
そしてリブやロインも、
赤身中心に肥育され、商品化される。
それを知らないと、
最近急に赤身肉が増えたように見える。
アメリカと日本の違いだけではない。
私がこの世界に入った30数年前には、
牛肉と豚肉の比率が、
関東と関西では正反対だった。
関西は牛が7割、豚が3割。
反対に関東は豚が7割、牛が3割。
日本の関東と関西でこれだけ違うのだから、
アメリカと日本ではさらに次元の違いがある。
これは牛肉と鶏肉の価格の違いにも出ている。
私は、1979年にアメリカ牛肉産業を、
肥育から解体、流通、消費まで、
バーチカルに徹底取材した。
まさにアメリカの牛肉産業は、
巨大な工業のようなもので、
だから一般の牛肉はコモディティ・グッズとなった。
したがって同じくブロイラーに代表される工業型鶏肉も、
当然、コモディティ・グッズとなる。
ただし「ケージ・フリー」などの鶏肉が工業型牛肉よりも、
価格が高くなるのは当たり前。
これに驚いていてはいけない。
商品構成は、
その店の顧客の嗜好に合わせる。
これは日米の違いに限らず、
マーケティングの鉄則だ。
そして顧客の嗜好に合わせることを学ぶ必要はあるが、
「アメリカがこうだから日本もこうなる」というのは間違いだ。
もちろんピーター・ドラッカー教授が言う如く、
「ノンカスタマー」こそ「未来のお客」ではある。
これは断っておかねばならない。
アメリカから帰って、
ものを考えたり、
報告をしたり。
その際、
今一度、
思い出してほしい。
「鳥の目」
「魚の目」
「虫の目」
「心の目」
ではよい週末を。
<結城義晴>
2 件のコメント
「だから例えば日本在住の主婦が、アメリカのスーパーマーケットを見て、好き嫌いを云々するのはまだしも、経営や品揃えを語ってはいけない。」なんと、すかっとするお言葉でしょうか。そうなんです。そのとおりです。さすが結城先生。このくらい、はっきりと言ってくれる方は今まで有りませんでした。たとえばアメリカは、宗教・人種・所得格差など、日本とは比べ物にならないくらい「差別」の壁は大きいのです。しかしながら、表面上ではそれが見えない、語らない。アメリカがこうだから、日本もこうあるべきだと一言で語りつくされるほど簡単なもではないと思います。かつてのローファットも、ミールソリューションも、日本では「瞬間」の言葉でした。なぜ、ローファットなのか?なぜ、ミールソリューションなのか?やはりそのためには、小売業のアカデミックな分析が必要です。結果だけではなく、そうなっていくプロセスを事実のもとに解明していく姿勢が、今の小売業に携わる者には不可欠です。そうすることが、小売業の地位の向上につながる気がします。商売は本当に不可解ですから。
inoueさま、ご賛同、感謝します。
アメリカやヨーロッパを見て、感じて、
素直に感動することは大事です。
そこで働く人々と接することも貴重です。
しかし日本の自分の仕事に当てはめようとするとき、
抽象化や冷静な分析は必須です。
アメリカでこうだから、日本もこうだ。
これはあまりに短絡すぎます。
ただしアメリカの小売業は規制が少なかった分、
シャーレやビーカーでの実験のように、
分析しやすい条件があります。
それを観察し続け、抽象化の努力をしてから、
日本で具体化する作業が必要だと私は考えるのです。
ほんとうにご賛同に、感謝します。
うれしかったです。