バークレーボウル、ナゲット、ウィンコ、フレッシュ&イージー歴訪
アメリカ米商務省発表の5月小売業売上高。
季節調整済みで前月比マイナス0.2%。
これは11カ月ぶり。
4月はプラス0.3%だった。
こちらにも東日本大震災の影響があった。
すなわち自動車売上高の減少。
ただし自動車を除く小売売上高はプラス0.3%。
4月はプラス0.5%だった。
それでも昨2010年7月以来の小幅増加率。
さらにガソリンを除く小売売上高はマイナス0.3%。
4月はプラス0.1%だった。
ガソリンスタンドの売上げはプラス0.3%。
食品・飲料はマイナス0.5%、
スポーツ用品・趣味関連マイナス0.4%、
電子製品・機器マイナス1.3%。
衣料・装身具はプラス0.2%、
建設資材・庭用設備はプラス1.2%。
消費意欲の減退が見られる。
一方、日本の経済産業省発表の5月商業販売統計速報。
小売業販売額は、
前年同月比マイナス1.3%。
10兆9170億円。
日本は前年同月比で出してくる。
東日本大震災発生の3月以降、減少が続く。
それでも救いは、マイナス幅の減少。
4月はマイナス4.8%だった。
扇風機やクールビズ衣料など節電関連の売り上げが好調だった。
飲食料品小売業はプラス1.7%、
その中で コンビニエンスストアがプラス7.3%。
特に東北地方のコンビニはプラス10.9%だった。
代わりに大型小売店はマイナス1.3%。
日米ともに消費が減退。
ともに東日本大震災の影響がある。
しかし、だからこそ、
「元気を出そうよ、
それがあなたの仕事です」
さて、サンフランシスコでの3日目。
宿泊はホテル日航サンフランシスコ。
よく利用するが、とても快適。
近くにユニオンスクェアがあって、
ケーブルカーが走り、
いつもにぎわっている。
そのホテル日航の3階会議室で、
朝からセミナー。
団長から個人課題レポートやチーム別発表の要請があってから、
私の2時間講義。
今回のテキストは201ページ。
事前テキストが25ページあったから、
226ページになる。
そのテキストを2回の早朝講義とバスの中での講義で、
すべて語りつくす。
だから最後は、ビデオテープの早回しのようになる。
ご清聴を感謝したい。
今回、強調したのは競争局面での闘い方。
もちろん、フォーマットとポジショニング、
クリティカル・マスや範囲の経済、
コモディティとノンコモディティなどの概念は、
アメリカ小売業を理解し、学習し、
日本に帰ってから仮説を構築するために、
必須の理論体系。
日本でも同じ課題がくっきりとしてきたからだ。
ただし、日本ではこの考え方、
しっかり理解されていない。
アメリカを見ると、それが鮮明で、
驚くほど、理解度が高まる。
講義の後は、最後の視察。
「話題の店舗を訪れる」というのが今日の趣旨。
まずバークレー・ボウル(Berkeley Bowl)。
店舗数は2だが、
総売上高1億2000万ドル。
これは前年対比でプラスの20.0%。
2009年にバークレー・ボウル・ウェスト店を開店した。
そのウェストを訪問。
私は今年、3月、5月に続いて3度目の訪問。
日系人のグレン・ヤスダさんが経営するインディペンデント企業。
それでも圧倒的な青果部門によって、
大繁盛店となっている。
超大型の八百屋。
それにフルラインのスーパーマーケット商品構成が付設されている。
まるで青果市場のような売り場。
珍しい野菜や果物、
季節の野菜や果物が満載された売り場。
カリフォルニアは青果物の大産地だから、
この生産力を背景に全米第1を誇る品ぞろえが実現できる。
ヤスダさんはその1品1品を、
丁寧に育ててきた。
新しい品種の商品、
珍しい商品は、
食べ方を教えながら、
試食を多用し、
安く提供し続ける。
そうすると顧客がその商品を、
よく知るようになる。
そしてこのアイテムがヒットすると、
バークレー・ボウルのオリジナル商品のようになる。
この店で売られる青果物はみな、
ノンコモディティ・グッズ。
それがいわば、
バークレー・ボウルのプライベートブランドと化している。
ポケットに一昨夜のレストランの爪楊枝が入っていたので、
それを使って試食の青果物はすべて食べた。
まさに「サンプル・ライフ」。
鮮魚・精肉は対面売り場。
青果ほどの圧倒的な品ぞろえはないが、
青果部門と商品レベルが統一されている。
それが最も重要なこと。
「大型八百屋」がスーパーマーケットの商品構成をつくると、
青果はいいが、あとはからきしダメな売り場になることが多い。
野球選手で言えば、打撃はいいが、
守備、走塁は全くダメな選手。
バークレー・ボウルはそうはなっていない。
ここがこの店のカギを握るところ。
もちろん青果部門は間違いなく全米第一。
店舗入り口の生花のコーナー。
レジ前のグロサリーのエンド。
月曜日の朝にもかかわらず、
開店前から顧客が並んでいた。
バークレー・ボウル健在なり。
私は無性にうれしかった。
続いて、フリーウェイを1時間以上も飛ばして、
ナゲット・マーケットNugget Marketへ。
ご存知、「インポッシブル」な店。
店舗数9で、年商2億8800万ドル。
これは前年比プラス0.3%。
「フォーチュン」誌の働きたい企業ランキング100で、
2011年は堂々の第8位。
昨年は5位だった。
この店も青果部門が圧巻。
品ぞろえはバークレーボウルが勝るが、
芸術的な出来栄えは、
これまた全米第一。
店舗をアートの世界に引き上げた。
それがナゲット・マーケット。
店舗入り口の何気ない特売陳列も、芸術的。
もちろん青果部門だけでなく、
対面の精肉・鮮魚、サービス・デリも、
セルフサービスの乳製品、冷凍食品、グロサリーも、
いずれも芸術的。
コスメティクス売り場はとりわけて、
アーティスティック・レベルが高い。
考えてみると、
女性の顔や体は、
まさに芸術品であるし、
そのレベルを高める商品群を売る場が、
芸術的でなければならないことは、
自明の理。
ウォルマートのネイバーフッド・マーケットでも、
コスメティクスの売り場は異常に美しい。
ナゲットではレジ後ろに「価格調査結果」を掲示している。
セーフウェイ、レイリーズなど競合店と、
25品目の価格比較をしてその結果を月別に示している。
この価格調査には顧客も参加する。
調査に参加してくれた顧客に対して、
月間一人だけ1000ドルを進呈する。
調査結果はナゲットが圧勝している。
良い品が安い。
そして店は芸術的。
これを「インポシブル(不可能)なことを可能にする店」と、
自ら称する。
さらにホスピタリティ。
アルバイトが顧客のカートを押し、
車に運ぶサービス。
インディペンデントやローカルチェーンが採用するサービス。
競争がますます激しくなり、ナゲットにも気合が入ってきた。
そんな印象を受けた。
サービス&クォリティ・スーパーマーケットの次は、
ディスカウント・タイプの代表。
ウィンコ・フーズWinco Foods。
年商50億ドル(約5000億円)。
この企業が1年に16.3%伸びている。
店舗数も78になった。
スーパー・ウェアハウス・ストアと称するフォーマット。
倉庫型ディスカウント・スーパーマーケット。
単品大量販売を基本とするが、
鮮度も品質も良好。
精肉部門は長い陳列線が続く。
一般の消費者も来店するが、
飲食店などの業者も多い。
グロサリーはラックで高く積み上げてある。
出店エリアは、カリフォルニア州が30店舗と中核で、
ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、
さらにネバダ州、ユタ州に店がある。
商品は全品センターから供給されるが、
そのセンターは4カ所。
オレゴンに2カ所、カリフォルニア、アイダホにそれぞれ1カ所。
この店も極めて高いレベルのウェアハウス・ストアで、
前年比16%増にも納得させられる。
周辺のレギュラータイプのスーパーマーケットはもとより、
ウォルマートにも打撃を与えているに違いない。
ウォルマートは敵だらけになってしまった。
そんな感慨を持つ。
ウィンコはウォルマートと似ている。
第1は、従業員持ち株制度がウォルマート以上であること。
第2は、以前の店名、社名がWaremartだったこと。
社名変更し、Winning Companyを略して「Winco」とした。
従業員もウォルマートに対しては、
燃えるに違いない。
最後の最後の訪問店は、
フレッシュ&イージーFresh & Easy。
イギリスのテスコがアメリカに進出した1万平方フィートの新フォーマット。
店舗数は176、年商は4億9500万ポンド(7億4300万ドル 1.5ドル換算)、
743億円のチェーンストアになってきた。
吉幾三似の店長ジョンさんがインタビューに応じてくれた。
ジョンさんは、健康や安全面で、
フレッシュ&イージーがセーフウェイなどよりも、
まじめで誠実であることを強調した。
私はいつもこの店の店頭をチェックしている。
フレッシュ&イージーのプライベートブランドが、
やっと店外でアピールされるようになってきた。
少しずつブランドが定着してきた証拠。
ただし、店舗入り口にはまだ、
ペプシコーラとドクターペッパーがうずたかく積まれている。
ここもプライベートブランドになってきたら、
フレッシュ&イージーは本物になる。
CEOのティム・メイソンは、発言しているようだ。
「400店になったら損益分岐点をクリアする」
いまだ道半ば。
しかしそれでも確実に小さなイノベーションを続けている。
特に青果部門がよくなった。
品種が増えたし、品質も確かになった。
働く女性やコンビニエンス志向の顧客に対応する商品開発は、
むしろスピードアップした。
「NEW」のスポッターがついているのが、新商品。
簡便でおいしそう。
対面の試食サービス・コーナーも充実。
店舗奥の主通路。
店づくりもクレンリネスも、
少しずつ洗練されてきた。
ワインをはじめリカーコーナーも、レベルアップ。
レジ前の冷蔵ケースには「エクストラ・ロー・プライス」のコーナー。
簡便・健康、そのうえ低価格。
実に欲張ったコンセプトだが、
一歩ずつ実現に向かう。
実現のバロメーターは店数。
400店が目安だろうが、
まずは200店。
その200店が目前。
収益性も高まるだろうし、
この店に必須の「立地選定」も、
これからは吟味するようになるに違いない。
「サンドイッチ・すし」などのコーナー。
これもレジ前で、コンビニエンスな売り場となっている。
レジの後ろにメッセージ。
「あなたが何を考えているか教えてください」
今月の商人舎標語。
「顧客からのスタート」
こんなところでお目にかかって、
ちょっと感激。
フレッシュ&イージーの小型店作戦が軌道に乗ると、
アメリカの小型店競争は、
ますます激化する。
現在の両横綱はトレーダージョーとアルディ。
これらはどちらもドイツのアルブレヒト・ファミリー傘下。
フレッシュ&イージーは、この二つのフォーマットを、
足して二で割った欲張りなフォーマット。
そしてウォルマートはまた、新フォーマットを開発した。
「ウォルマート・エクスプレス」。
「マーケット・サイド」の実験は芳しい結果をもたらしていないようだが、
それでもその修正版としての「エクスプレス」の登場。
役者がそろって、
ますます面白くなる。
役者の中にテスコはいてほしいと思うのは、
私だけだろうか。
<結城義晴>