種田山頭火の「自由律俳句」と「菱食」廣田正の「商人の二つの条件」
心に残って、
風天の句を、
もうすこし。
昨日のつづき。
「風天」とは、
フーテンの寅さんこと、
故渥美清の俳号。
赤とんぼじっとしたまま明日どうする
これは、種田山頭火に通ずる。
続いて、風天。
コスモスひょろりふたおやもういない
ひょろり、がいい。
ベースボール遠く見ている野菊かな
私はこの視線が好きだ。
股ぐらに巻き込む布団眠れぬ夜
これは、寅さんのフーテンかと思いきや、
やはり風天だ。
寅さんには眠れぬ夜があるかしら、
いや、ないはずだ。
酒飲みの句もある。
一っ杯めのために飲んでるビールかな
とりあえずビールではじめて、どぶろくで終わる。
どぶろくやはらかく噛んで眠くなってくる
いいですね。
対して種田山頭火。
山頭火は尾崎放哉と並んで、
自由律俳句の秀作を溢れる如くつくった。
山頭火は家業の造り酒屋が破たんし、古本屋の商売も失敗し、
離婚し、出家し、後年は、山を歩き、放浪した。
造り酒屋だけあって、
酒飲みだった。
泥酔への過程。
「まず、ほろほろ、
それから、ふらふら、
そして、ぐでぐで、
ごろごろ、ぼろぼろ、
どろどろ」
「肉体に酒、心に句、
酒は肉体の句で、
句は心の酒だ」
山頭火は風天に通ずる。
しかし渥美清は、酒に関して、
「ぐでぐで、ごろごろ、
ぼろぼろ、どろどろ」では、
なかった。
山頭火の句で、もっとも知られているのが、これ。
分け入つて分け入つても青い山
挫折の句が、またいい。
まつすぐな道でさみしい
これもひとり山歩きの句。
すべつてころんで山がひつそり
しかし、うれしいこともある。
こんなにうまい水があふれている
小さな喜び、
ささやかな幸せ、
明日への希望。
いま、ちょっと大きな書店に行くと、
俳句コーナーには山頭火の本が連なっている。
お天気がよすぎる独りぼつち
自然と自分。
その対比。
こころ疲れて山が海が美しすぎる
何というか、常とは異なる残暑のいま、
自由律の俳句がぴったりの気分。
さて「リアルとネットの融合(?)」。
日経新聞に、記事。
「全国1200店の価格、グーグルで比較」
グーグル日本法人が、
「グーグルローカルショッピング」をスタートさせる。
「ローカル」と銘打っているところが味噌。
全国リアル店舗約1200店の商品価格や在庫情報を、
毎日、インターネット上に公開するサービス。
リアルはいまのところ、7社の店舗。
ヨドバシカメラ、マツモトキヨシホールディングス、良品計画、
東急ハンズ、ローソンHMVエンタテイメント、
「ブックファースト」の阪急リテールズ、
そして福岡のスーパーマーケット西鉄ストア。
7社は、商品情報を毎日、グーグルに提供。
消費者は検索サイトを通じて商品価格などを比較できる。
値決めや在庫情報がネットを通じて公開される。
パソコンやスマートフォンでの利用を想定する。
「当初は数百万点の商品が検索可能」。
「併せてネット通販サイトでの価格・在庫情報も表示」される。
手順はシンプル。
小売企業は基本的に、毎日1回以上、
売価と在庫のデータをグーグルにインターネットで送る。
小売企業の参加費用はない。無料。
逆に、グーグルに情報提供するのだから、
小売業に「チャリン」と代金が入るかというと、
それはない。
グーグルは、
コンビニやカジュアル・ファッションチェーンなどとも交渉中。
「来年末までに参加企業を100社程度」に増やしたい意向。
もちろんこのサイトにはリスティング広告などが入って、
検索件数が増えれば増えるほど、
広告収入は高くなるし、広告本数は増える。
つまりグーグルが儲かる。
問題は小売業側。
記事では、こう表現されている。
「流通側にとってはグーグルを通じて非公開だった情報を流す形になる」
そして「自社サイトだけで価格情報などを公開するより、
消費者の利用が格段に期待できるグーグルと組むことで、
『新しい消費者に来店してもらう機会につながる』メリットがある」
インターネット・モールの楽天などと同様に、
「胴元儲かる」の図式。
小売業側には「乗り遅れたらまずい」の意識が生まれるかもしれない。
記事はまとめる。
「参加企業が増えれば、
従来以上に価格競争にさらされる可能性もある」
ある消費者が、ある商品名を打ち込む。
するとこのサイトに協力している店の売価が比較される。
サイトに出ていない店は、存在しないかのごときものとなる。
ただし、それも、このサイトを、
どれだけの消費者が、どんな時に、
見るかにかかっている。
韓国ではもう、10年以上も前から、
「割引店」や「スーパーマーケット」の価格が、
ネット上で公開されて、使われていた。
価格を上げたり下げたりの商売、
すなわち「ハイ&ロー」の場合は、
これも役に立つかもしれない。
家電のように新製品が次々に出て、
価格競争する場合も、このサイトの意味はある。
しかしエブリデーロープライスの企業や店の場合、
顧客にとってどれだけの意味を持つか。
グーグルは昨年末、アメリカでこのサービスを始めた。
百貨店メーシーズや家電量販店ベスト・バイなど数十社が参加。
一定以上の成果が上がっているというが、
やはり高額品ならば、ニーズがあるということだ。
さて今日は、大阪からとんぼ返って、
東京・平和島の三菱食品本社。
最高顧問の廣田正さんと面談。
「廣田の前に廣田なく、
廣田の後に廣田なし」
菱食という会社はまさに、
そうなってしまって、
いま、三菱食品。
食品産業のこと、
スーパーマーケット産業のこと、
卸売産業のこと。
今日は廣田さんから、
いつも以上に辛口のコメントが発せられて、
私はすべて、同感。
産業化するときには、
ビジョンが必須です。
それがないと、
産業とは呼べない。
大きくなっても、
統合しても、
烏合の衆では、
意味がない。
学習院大学院長だった故田島義博先生の有名な言葉。
「膨張と成長は異なる」
私は、日本産業全体の空洞化が叫ばれる中で、
むしろ、流通業・サービス業の基幹産業化の軌道が、
明確になったと、意見を述べた。
コーネル大学ジャパンについても、
廣田さんは率直に語ってくださった。
最後に、廣田さんは提唱する。
「商人の二つの条件」。
第1にプレゼンス。
すなわち存在価値、存在の意義。
それがない商人は、残らない。
社会にお役立ちする存在。
それがなんなのか。
変わっていく社会の中で、
いかに存在の意味を見出していくのか。
流通業やサービス業だけではない。
すべての企業、すべての人間が、
自らの存在価値を明確にしなければいけない。
そのうえで、
第2はベネフィット。
つまりは利益を出すこと、
しかし相手に、顧客に、
その自分の利益以上のベネフィットを提供すること。
これなくしては、
存在することはできない。
こんなにうまい水があふれている
山頭火の視点は、
商売にも当てはまる。
<結城義晴>