結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2011年09月29日(木曜日)

ダラス地区の定点観測「ウォルマート・プラノ店」のなりふり構わぬ4つの「売り方」イノベーション

Homecoming?
USA Todayの今朝の記事。

オークランド・アスレティックスの松井秀樹。
来年の開幕戦がイチローのシアトル・マリナーズと、
東京ドームで開催される。
松井は里帰りできるのに、
それは大丈夫?

松井の去就がはっきりしないというニュース。
日本の朝日『天声人語』や日経『春秋』が、
イチローの200本安打が途絶えた話題を扱ったのに、
こちらは松井への皮肉。

松井の注目度も大したものだが、
皮肉っぽい切り口こそが、
米国メディアの真骨頂なのかもしれない。

一方、商業販売統計速報。
8月の日本小売販売額、
10兆9480億円。
前年同月比2.6%マイナス。
3カ月ぶりの減少となった。

しかし落ち込みの主因は、
自動車小売販売のマイナス18.8%や、
家電など機械器具小売業のマイナス19.3%。

とはいっても、
車は昨年の買い替え補助制度終了前の駆け込み需要の反動、
家電は地上デジタル放送移行前の駆け込みの反動。

百貨店や総合スーパーなど、
大型小売店は1兆5573億円の売上げで、
これは前年比マイナス1.8%。

日本の小売りはマイナストレンドだが、
アメリカも決してよくはない。

だからイノベーションへのチャレンジが、
様々に展開されている。

昨日は夜遅くダラスのヒルトンホテルに到着して、
今日から実質的な研修。

朝一番で、私の講義。
2時間10分ほど。
20110929190221.jpg
私はいつも、
儲かる作戦や目先のトレンドを語ることはない。

「鳥の目、虫の目、魚の目」を強調しつつ、
データや事実を積み重ねながら、
小売業やチェーンストアの体系を整理する。

「虫の目」とは、現場を見る力。
細部まで丁寧に「見極める能力」。
これを支えるのが、専門性と現場主義。

「鳥の目」は、大局を見る力。
全体像を俯瞰しながら、「見渡す能力」。
これを支えるのが、情報量と知識。

「魚の目」は、流れを見る力。
時間の経過の中で、現在と未来を「見通す能力」。
これを支えるのは、経験と見識。

そして、四つ目の目は、

謙虚で、真摯で、真っ正直な「心の目」。

そのうえで今回のスローガン、
「着眼大局 着手小局」。

しっかり聞いてくれて、
全員に活力がみなぎっているのがわかった。
20110929190235.jpg

イノベーションを起こす。
それも持続的、継続的、自発的、自律的に。

そのための考え方、モノの見方。
それが身につかねば、
持続的イノベーションとはならない。
20110929190249.jpg
講義には終わりがない。
続きは1日中、バスの中で。

最初に訪れたウォルマート・プラノ店。
20110929190312.jpg
ダラス地区、テキサス州に限らず、
全米の最注目店を定点観測する。

この店でウォルマートの実験が行われる。
この店で成功すれば全米に展開する。
失敗すればすぐに止めて、
次のイノベーションに臨む。

今回、様々な新しい試みが、
プラノ店に出現していた。

私は驚いた。
20110929190328.jpg

ロープライス・エブリデー。
オン・エブリシング。

20110929190533.jpg
ウォルマートのキャッチフレーズ。

インタビューに答えてくれたのは、
コ・マネジャーのシェイさん。

この店にはストアマネジャーのマーカス氏のほかに、
3人のコ・マネジャーがいる。
20110929190354.jpg
インタープリターは五十嵐ゆう子さん。
的確な質問と的確な通訳。

全員がメモをとりながら、
熱心に聴講。
20110929190412.jpg

さてプラノ店イノベーションの第1は、
「アプライアンス・マーケット」の新設。
20110929190430.jpg
このショップは、
以前マクドナルドがはいっていたスペースをあけて、
設けられた。
20110929190501.jpg
白物家電のショップ。

今年5月にプレストン・ロードの店で実験し、
その結果がよろしかったと見えて、
いよいよプラノ店にお目見えした。

10日前のこと。
20110929190639.jpg

商品供給は、主にゼネラルエレクトリック社。
冷蔵庫、洗濯機、洗浄機などなど。

商品陳列は少ないが、
カタログがあって、その品ぞろえは豊富。
しかもコンサルティングセールスのために、
GEから派遣された人員が、
ふたり配置されている。
20110929201324.jpg

家電販売は、シアーズローバックの得意分野だ。
「ケンモア」というブランドを持っている。

いまやシアーズと兄弟会社になってしまったKマートにも、
ケンモアの売り場がある。

そのシアーズ・Kマート連合軍、
大きく客数を落としている。

ウォルマートは、このシアーズから、
白物家電を奪い取る作戦に出た。

パートナーは、LED電球を共同開発したGE。
それがこのショップとなった。
20110929190639.jpg

ウォルマートは家電においても、
専門店のベストバイに負けない売上げを上げてきた。
しかしそれはオーディオビジュアルやパソコンにおける売上げだった。
洗濯機、冷蔵庫、洗浄機といった白物家電は扱わなかった。

シアーズがあまりに強かったからだ。

しかしなりふり構わず、
弱りつつあるシアーズを叩きに出た。

私はそう感じた。
20110929190703.jpg

しかしただ白物家電を並べて売るだけではない。
三つの販売政策を加えた。

第1がリース・トゥ・オン。

家電は価格が高い。
だから自家用車と同じ売り方を導入した。
まずリースしてもらって、
それを最後に買い取る方式。

第2は、レイ・アウェイ。
頭金だけ入れてもらって、
支払いの先払いをする方式。
1930年代に採用していたやり方だそうだが、
クレジット・カードが激減した今のアメリカのクリスマス商戦に向けて、
レイ・アウェイは、有効な購買動機となる。

第3は、オンライン特売との連動。
「ピック・アップ・トゥ・デー」と呼ぶ。
オンラインで販売する場合、
何%か安く価格設定する。
顧客は、オンラインで申し込んで、
受け取りだけ指定の店舗でする。
そうすると店舗で購買するよりも、
安くなる。
20110929190725.jpg

この三つの売り方、買い方を提案するために、
コンサルティング・セールスマン、セールスウーマンが配置されている。
20110929190738.jpg

シアーズの売り場には、
そんな仕組みやコンサルティングセールスはない。

真ん中にカタログのカウンターがある。
20110929190753.jpg
何しろウォルマート&GEの最強コンビ。
しかもウィンウィンの関係が構築されている。

白物家電のマーケットシェアが変わることになりそうだ。
ダラス地区で、年末までに30店のウォルマートに、
アプライアンス・マーケットが導入される。

一方、本体の家電売り場は、
テレビなどオーディオビジュアル中心。
20110929190849.jpg
そのそばのコンコース沿いの島陳列にも、
洗濯機が置かれていて、
アプライアンス・マーケットとの関連付けがなされている。
20110929190811.jpg

もちろんその隣の島陳列は、
薄型テレビの目玉商品。
20110929190832.jpg

iPadのコンサルティング売り場も、
急きょ設けられて、
万全の態勢。
20110929190909.jpg

プラノ店の第二の大変化は、
島陳列の販促が全面復活したこと。
20110929190941.jpg
これをウォルマートでは、
「アクション・アレー」と呼ぶ。
20110929190957.jpg

かつてはウォルマートの象徴のように見られたアクション・アレー。
2005年のこのプラノ店から影を潜め、
それがプロジェクト・インパクトの大改革につながった。

失敗だったという総括がもっぱらだが、
私は「一つのステップ」だったと思う。

小売業経営はいつも、
アコーディオンのように、
開いたり閉じたりする。

プロジェクト・インパクトで、
ぜい肉を落とした。

ちょっと落としすぎたかもしれないが、
以前のままよりもずっと良くなった。
なりふり構わずのウォルマート。

それはかつての姿をほうふつとさせるところもあるが、
しかし、振子は、戻ってきたものの、
元の位置と同じではない。

それが2011年9月末のウォルマートである。

全員で集合写真。
20110929192216.jpg
このチーム、大きな成果をあげそうだ。
(つつきます、あと二つのイノベーションがあります)

<結城義晴>


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

「月刊商人舎」購読者専用サイト
月刊商人舎 今月号
商人舎 流通スーパーニュース
月刊商人舎magazine Facebook

ウレコン

今月の標語
商人舎インフォメーション
商人舎スペシャルメンバー
商人舎発起人

東北関東大震災へのメッセージ

ミドルマネジメント研修会
商人舎ミドルマネジメント研修会
海外視察研修会
商人舎の新刊
チェーンストア産業ビジョン

結城義晴・著


コロナは時間を早める

結城義晴・著


流通RE戦略―EC時代の店舗と売場を科学する

鈴木哲男・著

結城義晴の著書の紹介

新装版 出来‼︎

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》
(イーストプレス刊)

新着ブログ
毎日更新宣言カレンダー
指定月の記事を読む
毎日更新宣言カテゴリー
毎日更新宣言最新記事
毎日更新宣言最新コメント
知識商人のためのリンク集

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。商人舎サイトについて
Copyright © 2008- Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.