「欧州危機、どう見るか」仏独対論とベルギーの「売らない手法」、そしてRMLCのディスカッション
朝日新聞の国際面に、
「欧州危機 どう見るか」
フランスとドイツの反対の論客を並べた。
まずフランスからは、
エマニュエル・トッド。
1951年生まれの人類学者、歴史学者。
のっけから言い切る。
「塔から転落するように
ユーロはつぶれる」
ヨーロッパ連合の共通通貨ユーロが、
崩壊し、消えてなくなる、と給う。
しかし「最終的にはどこの国も
ユーロ消滅でよくなるだろう」
なぜか。
「国の大小にかかわらず平等であることが
欧州の理念だったのに、
自由貿易とユーロのせいで
不平等や優劣が生じている」
トッドは、ユーロ消滅のメリットを、
庶民の目線で、分かりやすく表現する。
「ユーロがなくなったほうが、人々は、
イタリア人はいいやつじゃないかと思うだろうし、
ドイツ人はちょっと違うけども
まともな人たちだと気づくだろう。
ユーロに縛られた状態のままだと、
ドイツを憎むことになる」
そして結論づける。
「ユーロは憎しみの製造機になっている」
皮肉屋のフランス人の真骨頂。
一方、ドイツからは、
テオ・ゾンマー。
1930年生まれのジャーナリスト。
西ドイツ国防省計画局長、
週間紙ツァイト編集主幹、
同紙共同発行人を歴任。
「今回の危機から教訓を得て、
さらなる統合へ進むと信じる」
どんな教訓か。
「単一通貨を導入しながら、
税制や退職年齢といったものをそろえず、
財政と政治の統合を置き去りにしたこと」
「この二つの柱を築いて欧州連合(EU)の
建設を完成させねばならない」
前向きに方針を提示し、決意表明する。
「『多様性における統一』が欧州であり、
それが我々を強くする」
これ、オクシモロン。
「一つの国では対処できない問題が増えていることを見ても、
欧州の分裂はない」
「気候変動、安全保障、経済などに
我々は共に取り組まなくてはいけない。
地域で孤立する日本よりも恵まれている」
最後は日本に刃を向けて、
ドイツ人は意気軒高。
私は朝日新聞のこの対比手法、
大好きだ。
物事がよく見えてくる。
そしてフランスとドイツのEUリーダー国の、
見解の対立こそ、
ヨーローパの柔らかさ、強さ、広さを表していると思う。
ユーロは消滅しないし、
また一段と「統一的多様性」を、
紡ぎ出し、描き出すことになる。
ヨーロッパ・ベルギーのネタを日経MJからもうひとつ。
「『売らない』手法で客誘引」
こちらは商売に役立つ。
「どうか、クリスマスの週末、
我々の製品を使わないでください!」
スカーレット社の宣伝文句。
インターネットプロバイダーと携帯・固定電話事業を手掛ける会社。
昨年、この「殺し文句」で大成功。
今年、クリスマスを控えた現在、
この戦略が語り草になっている。
スカーレット社のメッセージはつづく。
「クリスマスは家族や友達の集まる日です。
中東でさえ、武器を置いて休戦するのです。
我々も電話・インターネット・テレビという『三種の神器』を、
クリスマスの週末ぐらい、しまいましょう」
自社製品を「使わない」おすすめ。
しかしこれは表向きのメッセージ。
メッセージを発しておいて、
プレゼント・キャンペーンを展開。
「『電話、ネット、テレビなしの耐久コンテスト』に賛同する人に、
ホームページで名前や電話番号などを登録させ、
この3つを本当に我慢できた人に
抽選で最新型のテレビ、ラップトップ、スマートフォンを贈る」
「この情報はツイッター、フェイスブック、
口コミで瞬く間に広まった」
しかしそれだけでは終わらない。
昨年のクリスマスの週末、
「スカーレット社は『インチキ発見スタッフ』を配置し、
登録者におとりメールを送ったり、
おとり電話をかけたりした」
商道徳としてみるとどうか、なんて、
ドイツ人しか言わない。
「メールを送り返してしまった途端に、
『あなたはアウト!』というサインが出て
資格が剥奪される」
このキャンペーンに乗ったのは3000人。
900人が「おとり電話」に出て、
1500人が「おとりメール」に返事をした。
そして失格。
しかし、面白味のない世の中。
このキャンペーンは大ヒット。
「同社のサイトのビジター数は、
前年の同時期に比べ68%増の118万4803人、
そのうち73%が新規客だった」
「クリスマスに我が社製品を使わないでください」
これだけではうまくはいかない。
第二第三の仕掛けがあった。
しかし、ネット社会が進む中で、
その便利さを生業(なりわい)にしながら、
それを否定して見せた心意気に、
共感が得られたんだと思う。
商人舎スペシャルメンバーの川勝利一さんは、
トレイメーカーのカリスマ営業マンの頃、
「わが社の製品は社会の必要悪」と、
言い切っていた。
そして凄い営業成績を上げていた。
ドイツ人にはこの感覚、わからないかもしれない。
しかしフランス人は、大いに好感を持つ。
ベルギー人は、両者を冷静に見ている。
そのベルギーで成功したキャンペーン。
あなたは、このケースをどう考え、
どう自分の仕事に活かすか。
さて日経MJの『身につく読書』欄に、
「1秒でわかる! 小売業ハンドブック」が、
とり上げられた。
「同書は小売業の仕事の特徴は
『結果がすぐにわかるという点である』と指摘する」
「顧客から『ありがとう』と言ってもらえる仕事が
小売業の醍醐味であるとも説く」
私の言いたいことをキリリと搾り取ってくれた。
心から感謝。
そして皆さんには、
ご愛読をお願いしたい。
私は、この「小売業ハンドブック」の編著者として名を連ねているが、
この本の著者は、商業経営問題研究会(RMLC)。
RMLCはRetail Management Learning Circleの略。
私が座長を仰せつかっている。
昨日は、そのRMLCの2012年最後の定例会。
この日の定例会の場所は、
虎ノ門の日本チェーンストア協会会議室。
今年は、日本スーパーマーケット協会会議室と、
交互に使用させてもらった。
さて今年最後のテーマは、
杉田幸夫さんの「小売業の〝サービス”を考えるⅡ」
杉田さんは、リテック商業技術研究所代表(手前から二人目)。
最初に小売業のサービスとは何かを再定義した上で、
顧客満足度を高めるためのサービスの体系づくり、
PDCAマネジメント・サイクルに基づくマネジメントの必要性を問題提起。
参加者の各メンバーからさまざまな意見が発せられた。
議論が一通り終わったところで、
日本チェーンストア協会協会長の清水信次さんが、
井上淳専務理事とともにご登場。
清水さんは先週12月2日に「生団連」こと、
国民生活産業・消費者団体連合会を発足させたばかり。
精力的に活動している清水さんに、一同、脱帽。
来年 1月20日(金)に、
日本チェーンストア協会の賀詞交歓会が開催される。
恒例のこと。
この交換会に先立って今回は、
パネルディスカションが行われる。
コーディネーターを、私、
この場で仰せつかってしまった。
パネリストは3名。
清水信次会長、
木下雄治副会長(㈱東急ストア社長)、
小濵裕正常任理事(㈱カスミ会長)。
テーマは、
「アメリカ・ヨーロッパ・アジア・日本の流通業の
現状と今後の予測(仮)」
今から楽しみだ。
みなさんぜひ、ご参加ください。
そのアメリカ・ヨーロッパ・アジアの小売業を、
私は9月から12月にかけて大忙しで視察して回ってきた。
この日のもうひとつの議題が、結城義晴の海外視察報告。
スライドを映しながら、ドイツ・アヌーガの報告、
そのドイツ小売業の寡占状況を解説した。
参加メンバーの中では、
㈱たいらやの村上篤三郎社長が、
今回のアヌーガを視察している。
定例会を終え、近くの小料理屋でRMLC忘年会。
1年を振り返りながらの楽しい会話で、
大いに盛り上がった。
神谷町から虎ノ門にかけて
雨にぬれた冬のイチョウ並木を見上げながら、
今日も、充実。
そのことに感謝。
しかしフランス人とドイツ人、
そしてベルギー人、オランダ人、
さらにイギリス人。
「統一的多様性」
あるいは「多様的統一性」
もしかしたら前者か後者かというところでも、
フランス人とドイツ人は論議するのだろうが、
「孤立している」と指摘された日本人として、
なんだか、うらやましい。
だから私は、
ワンアジア財団で、頑張ろう。
<結城義晴>