野田・岡田改造内閣と「身を削れ」大合唱の感情論を考察する
野田改造内閣が発足した。
岡田克也副総理との二人三脚。
というよりも、岡田総理の観すらある。
岡田克也という政治家。
いつもいつも損をしている。
しかし「損得より善悪」は、
商人だけではなく、
政治家にこそ当てはまる。
岡田は「原理主義」と表現されるが、
むしろ原則主義者だと思う。
党で決まったことを、
決まった通りに実行する。
ルール通りに事を成そうとする。
派閥解消といえば、
それらしき組織はつくらない。
原理主義とは、
「何らかの主義や命題を至上のものとすることにより、
他のそれを排他、駆逐しようとする姿勢、価値観」。
私は今、どんな場合にも、
どんな組織でも、
原則主義は必要だと思う。
まさに「実践躬行」(じっせんきゅうこう)。
今回の内閣の平均年齢58.3歳。
岡田克也58歳だから、内閣の平均。
私は一つ上だから、
「ああ、大臣の平均年齢が一つ下なのか」と、
感慨深いものがある。
「最善・最強」と野田佳彦総理は語る。
それを揶揄したり、茶化したりはやめたい。
とにかく、これが現時点の最強なのだろう。
「最悪を覚悟して、最善を尽くす」
それしかない。
日経新聞『大機小機』に、
コラムニスト隅田川氏が、
「身を削ることの意味」を書いているが、
これが面白い。
「誰もが『消費税増税を提案する前に、
身を削る努力をせよ』と言う」
新聞各紙の社説は、「身を削れ」論の大合唱。
コラムニストは言う。
「誰も異論をはさまない議論こそ
疑ってみる必要がある」
この姿勢、ほんとうに大事だ。
あなたの会社でも、
あなたの店でも、
あなたの組織でも、
「反論がないこと」に、
一番危険がある。
コラムニストは「身を削れ論」を「点検」する。
まず、「身を削れ論」とは何か。
「消費税という国民に痛みを強いる政策を取る時には、
提案する側の政治家や官僚がまず痛みを負うべきであり、
国会議員の定数削減や公務員の人件費削減が必要だ」
隅田川氏の点検は三つの視点から。
第1に、これは感情論であるという視点。
「自分の所得が減るのだから、
他人の所得も減らさないと気が済まない」
そんな感情論。
第2は、「消費税を通すための便法」とされている点。
「そうしないと国民の理解を得られない」と言うが、
それなら「国民の理解が得られれば、
身を削らなくてもいいということになる」
第3に、「なぜ同時ではいけないのか」という視点。
「身を削り終わるのを待つことなく、
身を削ることと消費税率の引き上げを
同時に行えばいい」
私も前職の社長時代、
会社の大改革を試みた時、
まず自分自身や役員の大幅減俸をしておいてから、
改革に取り組んだ。
しかし今になって考えてみると、
それは全く意味はなかったと思う。
もちろん社内外の人々の感情には訴えたかもしれないが、
そんな感情論は、あっという間に消えてなくなる。
自分たちの気持ちを奮い立たせることにはなる。
しかし他人はすぐに忘れる。
私はもちろん「便法」に使うつもりもまったくなかったが、
もしそれが構造的に便法のようなことになっていたら、
上手くはいかない。
改革そのものの意義や有効性、
やり方こそが、何よりも重要なのだ。
そして私は今でも、
あの改革は唯一のチャンスであったと、
信じている。
このあたり野田・岡田と、
同じかもしれない。
だからといって、私が、
国会議員の定数削減や公務員の人件費削減が、
必要ないと考えているわけではない。
コラムニストは最後に述懐する。
「誰もがそう言うからといって、
安易に『身を削れ』と主張するのは
考えものである」
さて、東京商工リサーチの調査。
2011年の全国企業倒産状況。
件数は前年比4.4%減の1万2734件。
これは3年連続の減少。
年間負債総額も3兆5929億円。
これは前年に比べて半減。
1990年以来、21年ぶりに5兆円を下回った。
何はともあれ、良かった。
倒産が起こると、
人々が仕事を失う。
これが一番つらい。
東日本大震災に絡んだ倒産は543件。
阪神大震災の1995年の約4倍。
この点では早く手を打たねばならない。
倒産は、赤字が続いても起らない。
資金繰りが回らなくなって、
企業は倒産する。
経営者が資金を繋ぎつづける限り、
企業は倒産しない。
中小企業では、
ある意味で、経営者の「あきらめない執念」こそが、
倒産を避ける唯一の理由となる。
昨年の傾向を日経新聞の記事は、
以下のように報告する。
「一時的に資金繰りが改善しても、
業績回復が伴わず、
新たな資金調達が難しくなって、
倒産に至るケースが目立ち始めた」
一方、セブン&アイ・ホールディングスは、
営業利益が過去最高の2900億円超。
3000億円に迫る勢い。
村田紀敏社長が日本経済新聞の取材に答えた。
「2012年2月期の連結営業利益は
(前期比19%増の)2900億円を突破」
セブン-イレブンとヨークベニマルが貢献。
前者は1800億円で前期比6%増。
東北地盤の後者は復興需要を受けて、
通期営業利益予想の125億円を20億円程度上回る。
総合スーパーのイトーヨーカ堂も、
「120億円の黒字は達成できる」
全国的に倒産は半減し、
セブン&アイは過去最高の利益。
しかし東日本大震災で受けた痛手、
失った人命、
社会的損失、
私たちは忘れてはならない。
「身を削れ」大合唱の感情論が高まるごとに、
「震災の忘却」が進んではいないかと危惧するものだ。
あっという間に1週間が過ぎた。
みなさん、良い週末を。
<結城義晴>