「21世紀の商業界精神」の正義・革新と米国の「消費者の権利」
9月1日に「商業界精神」を語る。
昨日、そのレジュメをつくっていて、
考えたことがある。
講演タイトルは、
「21世紀の商業界精神」。
「商業界精神」を簡潔に表す文章はないか。
探してみるまでもなく、ある。
「商業界五十年宣言」
1997年7月に書かれている。
起草者は結城義晴。
当時、取締役編集担当だった。
商業界は真の商人とともに生きてきた。
志をもった商業人とともに歩んできた。
はじめはみな、小さな店だった。
小さな店はまず、一人のお客さまを満足させた。
店の中には、人の心の美しさがいっぱいに満たされていた。
やがて多くのお客さまたちに、さまざまな地域に、
小さな満足は広められていった。
店は客のためにある。
損得よりも善悪を先に考える。
そのために滅びてもよし、断じて滅びず
――この商業界精神を貫いた店々に繁盛がもたらされ、
この商業界精神に基づく技術を獲得した企業に利益が与えられた。
五十年――業態間、異業種間の、
さらには国際間の激烈な競争が日常のこととなった。
この競争に参画する意志と資格を有するものが、自らを革新させ、
競争の中で正義のために切磋琢磨するものが、
新たなる商業を創出させる。
商業界は宣言する。
商業の精神と技術を、永遠に高め続けることを。
これらに、科学と論理の裏づけを供し続けることを。
そして、平和国家日本における商業基幹産業化の
歴史の証人であり続けることを。
すべての商業者たちよ、いま一度、高き志をもて。
人々の暮らしは、いまだ、満たされてはいない。
この文章は商業界50周年記念の宣言として、
同社の6つの月刊誌の巻頭を飾り、
日経MJにも広告掲載された。
倉本長治の金言。
「店は客のためにある」
岡田徹の詩集から、
「小さな店であることを恥じることはないよ。
その小さなあなたのお店に、
人の心の美しさを、
いっぱいに満たそうよ」
そして新保民八の絶叫。
「正しきによりて滅ぶる店あらば
滅びてもよし。
断じて滅びず」
商業界精神の全てが込められた文章が、
「商業界50年宣言」。
そしてこの文章こそ、
21世紀の商業を語っている。
この中で新保民八の言葉に、
私はこだわる。
結城義晴著『メッセージ』(商業界刊)より、
「本当の正義」
正しきによりて滅ぶる店あらば
滅びてもよし。
断じて滅びず。
21世紀という時代、
この言葉は、ますます重みを増し、
輝いてくるに違いない。
なぜならば、
滅び行く者たちが次々、明らかになってくるからだ。
滅亡する機能、役に立たなくなる仕事が露になってくるからだ。
正義は、時代によって反転のごとき様相を呈する。
古い正義を振りかざす者たちは、
新保民八の言葉を声高に叫びつつ、滅びてゆく。
新しい正義は、
古い正義と闘争を繰り広げつつ、
同じように新保民八の言葉を叫ぶに違いない。
正しきによりて滅ぶる店あらば
滅びてもよし。
断じて滅びず。
この言葉を信じる者も、
この言葉をまやかしに使う者も、
この言葉によって裁かれる。
滅びるか、滅びないか。その事実によって。
21世紀という時の流れが、
本当の正義を証明してくれる。
< 商業界創立50周年を迎える年の初めに>
私はこの新保の言葉に、
イノベーションを見出す。
「正きによりて滅ぶる店あらば、滅びてもよし。
断じて滅びず」
新保はまず、正しくあれ、と諭す。
『商売十訓』の第一訓「損得より先に善悪を考えよう」と同意である。
そして正しくあるならば、滅びてもよし、と言い切る。
現実を顧みると、
正しくないものは即座に、滅びる。
しかし、正しさを唱えるものが滅びてしまうことも、ままある。
なぜか。
なぜ、正しくあることを目指しているのに滅びるのか。
それはイノベーションがないからである。
イノベーションとは、不断の自己革新である。
「店が客のためにある」ことに向けた自己変革である。
『商売十訓』の第二訓「創意を尊びつつ良いことは真似ろ」は、
イノベーションの考え方を明らかにしている。
「良いことを学び、実行する」
「創造力を働かせ、実践する」
両方を実現させ続けることが、自己革新である。
原点を貫くための原則を新保は、
「滅びてもよし。断じて滅びず」
と、心意気を示すように訴える。
だが私は「滅びてもよし」と「断じて滅びず」の間に、
「自ら、変われ」「自己革新せよ」
という強い意志が横たわっていると考える。
経営の革新と技術の革新は、
滅びぬために不可欠だからである。
倉本長治著『商店経営の技術と精神』は、
「技術の革新」と「精神の正義」とを謳う。
21世紀の商人の原点と原則は、
「正義」を貫き、「革新」を続けることにあるのだ。
<2007年2月 第75回商業界ゼミナール基調講和から>
2012年の夏の終わり。
私は「21世紀の商業界精神」に関して、
ジャスティスとイノベーションを思った。
さて、今、成田空港第1ターミナル北ウィング。
デルタ航空622便に乗り込んで、
テキサス州ダラスに向かう。
アメリカでも、同じく、
ジャスティスとイノベーションを考える。
そのアメリカのジャスティスのひとつが、
「コンシューマー・ドクトリン」
米国大統領ジョン・F・ケネディが、
1962年3月に提案した。
第一に、安全である権利。
第二に、知らされる権利。
第三に、選択できる権利。
第四に、意見を聞き遂げられる権利。
アメリカは消費者天国。
その消費者の権利。
これが正義。
そのアメリカ流の正義を実感しつつ、
商業界精神の正義を噛みしめる。
私のこれからの1週間は、
そんな日々になる。
では、行ってきます。
<結城義晴>