「小さく、狭く、濃く、深く」と「セブンプレミアムMALT」のポピュリズム
今日は朝一番で、名古屋へ。
富士が美しい。
雲の上に、浮き上がるような姿。
まったく不思議な感覚になる。
大きく、広く、高く、雄々しく。
今日の名古屋行は、
㈱折兼主催の「白熱教室」の講演が目的。
詳細は明日報告するが、
ここでは、ご清聴を感謝しておきたい。
富士を見ていて、思い出した。
㈱商業界発行の月刊『販売革新』。
「チェーンストアの経営専門誌」
その巻頭言「Editor’s Voice」。
今はもう、なくなってしまったが、
創刊以来、定評のあるコラムだった。
2001年10月号「Editor’s Voice」は、
当時取締役編集統括で編集長兼務の私が書いた。
そのタイトルは、
「小さく、狭く、濃く、深く。」
アメリカ・ブッシュ政権下で、
同時多発ハイジャックテロ。
日本の小泉首相のもとでは、
株価1万円割れとマイカル1兆7400億円の破綻。
世界恐慌には至らぬまでも、
世界同時不況の観はある。
このグローバルエコノミーを立て直す切り札が、
軍需景気と石油高騰では、悲しすぎる。
あちらを立てれば、こちらが立たず。
こちらを立てれば、あちらが立たず。
皿回し芸人と揶揄していた自分たちまでが、
揃いもそろって素人皿回し。
あちらを立てて、こちらも立てる。
こちらを立てて、あちらも立てる。
それにはネイバーフッドマーケティング。
それにはマス・カスタマイゼーション。
前者はネイバーフッド[近隣]という、
小さく狭いコミュニティを対象とする。
それは決して、従来の小商圏主義ではない。
小さく、狭いマーケットを揺り動かす経済行為は、
濃く、深く展開されねばならない。
後者はカスタマイズ[特注]という、
小さく狭いニーズ・ウォンツに対応する。
それがマス[固まり]に仕組み化されていく。
小さく、狭いカスタマイズが、
濃く、深くマスになっていく。
小さく、狭く、濃く、深く。
重厚長大を凌駕する。
小さく、狭く、濃く、深く。
軽薄短小を圧倒する。
ほんとうに懐かしい。
この「小さく、狭く、濃く、深く」のスローガンを、
2002年の商業界ゼミナールのメインテーマにした。
私は㈱商業界専務取締役だった。
その後、2007年8月に商業界社長を退任し、
2008年2月1日、㈱商人舎設立。
このとき私は、新しい会社によって、
「小さく、狭く、濃く、深く」の機能を、
果たしていきたいと書いた。
今また、このコンセプトの貴重さを認識しつつ、
商人舎最高顧問・杉山昭次郎先生の単行本制作に勤しむ。
タイトルは『マス・カスタマイゼ―ション』。
来春、発売予定。
㈱商人舎初の単行本の発刊です。
さて、今日の日経新聞経済コラム『大機小機』。
私の大好きなコラムニスト渾沌氏が断じる。
タイトルは「市場迎合のポピュリズム」。
「安倍晋三・自民党総裁の
金融政策での突出した発言が際立つ」
いま、円高を誘発している例の発言。
「インフレ目標を設定し
目標達成まで無制限の金融緩和を続ける、
マイナス金利もあり得る」
コラムニストは言う。
「政府と日銀がデフレ脱却で協力することに異論はない。
しかし、金融政策の中身に踏み込んで
中央銀行の独立性を侵す政治家の発言は自制を欠き、
市場の反応への自画自賛にも違和感を覚える」
「金融政策はデフレ脱却の決め手にならず、
自民党は財政出動を主張している。
すると、日銀批判に同調する安倍発言は、
自国通貨の信用の毀損を通じて
円安誘導を意図しているように思える」
ここが需要なポイント。
「通貨戦争の現実は厳しくても、
経常収支が黒字基調の世界最大の債権国の経済政策は、
構造改革と内需振興による不均衡の是正が基本になる」
構造改革と内需振興。
それによる不均衡の是正。
内需振興の場面では、もちろん、
小売りサービス業が活躍せねばならない。
「金融危機後の世界は政治主導の時代に移行し、
政治は正当な民意の反映と大衆迎合のポピュリズムの間で揺れている」
今回の総選挙の特異性は、
まさしくこの「揺れ」が表面化している点だ。
そして「大衆迎合のポピュリズム」が横行している。
「経済のグローバル化、市場化、金融化の反省期の現在は
市場迎合のポピュリズムにも警戒が必要だ」
同感。
「政治家の発言は
歴史の検証に堪えるものでなければならない」
このコメントは、
安倍晋三はもとより、
野田佳彦、そして石原慎太郎、橋下徹、
全てに向けられている。
ところで、昨日のニュースで、
見落としてはならないことが一つ。
各紙が取り上げたが、
日経新聞の記事が一番詳しい。
「セブンプレミアム 100%MALT」。
セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド。
サッポロビールが製造する缶ビール。
11月27日発売。
350ミリリットルで198円、
500ミリリットルで258円。
メーカー品より約1割安い。
味は辛口仕上げ。
国内メーカーのPB受諾は初めてのこと。
サッポロも決断した。
初年度目標売上高は72万ケースで51億円。
1ケースは大瓶20本換算というところが酒類業界の古さを示しているが、
72万ケースはアサヒビール・スーパードライに次いで二番手になる。
セブン‐イレブン店頭では、12月商戦で、
このサッポロのPB以外にも、
キリンビール、アサヒビール、サントリー、
それぞれと取り組んだ独自商品が出そろう。
セブン&アイの年間ビール類売上高は約1200億円。
この売上げは小売業界最大。
もちろん単体最大小売企業のセブン‐イレブンが、
セブン&アイのビール類の75%を占める。
そのセブン‐イレブンのビール類売上げ、
PBと独自商品の割合は現在9%弱。
「今後、数年で15%に伸ばす」と記事にあるが、
これは確実だろう。
12月商戦に入ったら、
セブン‐イレブンのビール売り場のゴールデンラインに注目。
ズラリ、そんな商品が並ぶ。
しかし私は思う。
イオンも必ず、
このセブン&アイへの対抗策を、
打ち出してくるに違いない。
11月の終わりまでに、
イオンのインパクトある政策が発表されるだろう。
これは私の「当たらぬも八卦」。
しかし、プライベートブランドが、
ナショナルブランドを超えてしまう現象。
国家の経済政策と違って、商売では、
「大衆に受けるポピュリズム」は、
必須なのだ。
<結城義晴>