「窮して変ず」のイノベーションと「誰がマックを食らったか」
第46回衆議院議員総選挙、
今日、公示。
投開票日は16日(日曜日)。
12日間の選挙戦。
2009年に政権与党となった民主党と、
その政権奪還を狙う自民・公明両党。
そして合従連衡を繰り返した「第三極」。
12政党の乱立。
小選挙区300、比例代表180の合計480の議席。
日経新聞によると、2日現在、
「1400人超が立候補を予定」。
選択がひどく難しい選挙だが、
明日から期日前投票ができる。
小売業・サービス業従事者は、
相対的に投票率が低い。
理由は明白。
投票日の日曜に、
店を開けて営業しているからだ。
しかしその投票率が低い人々が、
投票行動にでたら、
結果は変わる。
選挙に行こう!
投票しよう!
呼びかけたい。
投票行動を起こしたら、
その後の政治に関心が深まる。
そしてまた次に、投票する。
小売りサービス業従事者の多くが、
これを繰り返したら、
必ず日本が変わる。
小売りサービス業の人々の投票行動は、
無党派層のそれととともに、
日本の将来を握っている。
選挙に行こう!
投票しよう!
そしてその結果に責任を持とう。
これが良い国づくりの第一歩だ。
さて昨日の日経新聞オピニオン欄。
「核心『成長の限界』再び?」
コラムニストの土谷英夫さんが担当。
「イノベーションの停滞」説を披歴する。
タイラー・コーエンの著書『大停滞』。
米ジョージ・メイソン大学教授。
中心メッセージは、
「“容易に収穫できる果実”はほぼすべて摘み取られてしまい、
現在は経済成長をもたらす果実が手に入らなくなっている」
ロバート・ゴードン米ノースウエスタン大学教授は、
「米国の成長は終わったか?」と問う。
18世紀半ば以降の産業革命は、
第1期(蒸気機関、鉄道など)、
第2期(電気、内燃機関、上下水道の屋内配管、通信、化学、石油など)、
第3期(コンピューター、インターネット、携帯など)に分けられる。
このなかで、
「19世紀後半に起きた『第2期』の効果がずばぬけ、
1970年ごろまで成長率を押し上げてきた」
しかし「この50年の『第3期』はほぼ息切れ」
「過去250年の急速な進歩は
『人類史上の特異なエピソード』だったか」
いったい全体、果たしてそうなのか。
それがコラムニストの問題提起。
18世紀末のロバート・マルサスの『人口論』。
1972年の「ローマクラブ」の報告書。
そして先週発表の経済協力開発機構(OECD)の経済見通し。
「成長の限界」を唱える悲観論を羅列する。
しかし、ひとつの意外な驚き。
国際エネルギー機関(IEA)発表の「世界エネルギー見通し」では、
米国が最大の天然ガス産出国、産油国になる。
ロシア、サウジアラビアを抜いて。
いわゆるシェール層からガスや石油を採取する技術が普及し、
「非在来型」のガス、石油が急増。
結果、2035年までの世界のガスの増産分の半分近くは、
シュールガスになる。
まさに「イノベーション」が起こっている。
そして結論は、中国の古典「易経」の一節。
「窮すればすなわち変じ、
変ずればすなわち通ず」。
「進退きわまれば、人間は新機軸に知恵を絞る」
コラムニストは述懐する。
「『窮して変ず』が
イノベーションのメカニズムではないか」。
果たして本当にそうなのか?
こんどは私がコラムニストに疑問を投げかけつつ、
「窮して変ず」も考えてみる。
もうひとつ昨日の日経新聞『経営の視点』。
タイトルが面白い。
「誰がマックを『食べた』のか」
書き手は編集委員の中村直文さん。
流通サービスの専門家。
私は中村さんの言説に信頼を置いている。
ただし私なら、
「誰がマックを食らったか」と下品にやる。
しかし日経新聞の用字用語らしいが、
「食べたのか」になっている。
「日本マクドナルドホールディングスの既存店売り上げが低迷している。
7カ月連続のマイナスで、
8年続いた年間の既存店売上高プラスも
2012年で途切れそうだ」
「今年は想定を見誤った」。
原田泳幸社長の総括。
昨年の東日本大震災や福島原発事故の反動で、
今年4月から売上げ回復を見込んだ。
「ところが客足はいっこうに戻らない」
そこで、「100円メニューの拡充など新たな戦略を打ち出した」
客数は増えたが、それを補うほどの伸びはなかった。
「いったい誰がマックの売り上げを『食べた』のか」
これが中村さんの問題提起。
コンビニエンスストアか?
マック自身はこれを否定。
同社が「中食市場」の動向を調査した。
コンビニ食や牛丼、カフェチェーンなど競合する業態の売上高を合算。
すると「中食市場そのものが落ち込んでいる」
それが判明した。
コンビニやスーパーマーケットの弁当・惣菜やファストフード、
それらを合わせた「中食マーケット」が縮んでいる?
「厳しく出費を抑えている消費者の姿が浮かび上がってくる」
中村さんは語る。
とりわけ「20~30歳代の食生活」が変わりつつある。
しかしここに面白い現象がある。
主婦向けの雑誌を手がける『オレンジページ』が、
今年6月から『食べようび』を月刊化。
出版不況を尻目に絶好調。
まず第1に、20~30代をターゲットとした。
第2に、「とことん読みやすさを追求」。
従って、「使用する素材や調味料の形、
量から料理の流れまですべて図解で記載」。
図解や分解写真の多用。
これは私がかつて、
㈱商業界の『販売革新』や『食品商業』で採った手法。
いま、私の最初の部下の町田成一君が、
月刊『danchu』編集長として、
極めて上品に実行しているメソッド。
『食べようび』は、
「火の強さ、時間まで事細かく示し、
一切迷うことなく1人分のメニューを作ることができる。
しかも低額で」。
『dannchu』の読者を、
さらにセグメントし、ターゲティングし、
そうしてポジショニングした。
「重ねるごとに部数は増え、すでに8万部」
花村哲編集長は「10万部までは伸びる」と自信満々。
「単身者が多い若い層は、
家で簡単に安く済ませる合理的な食志向を強めているため」
つまりは巨大ではないけれど、
拡大しているマーケットがある。
そこにスポットを当て、際だった。
電通総研の大屋洋子主任研究員の分析。
「食への欲求が低下している」
「いつでもどこでも食べられる環境で、
3食をしっかりとる生活パターンが崩れた」
電通が食生活について調べたところ、
10~20代の女性では7割が、
「食事を抜くことがある」と回答。
しかし、中村さんは追い打ちをかける。
「内食志向が強まったとはいえ、
スーパーでも1人当たりの購入量は減少し、
値下げ頼みだ」
マクドナルド原田さんの戦略。
「目先の売り上げを落としても
長期的な成長戦略が不可欠」
そこで、「宅配強化などに取り組む方針」。
しかし私は原田泳幸のこの言葉。
真に受けたりはしない。
原田経営はもっと奥が深い。
「長期的成長戦略」が必須であることは同感だが、
「宅配強化」が根本的な長期戦略とは思えないからだ。
徹底した低価格戦略で、
コンビニ、スパーマーケットを巻き込んで、
業態間の泥沼戦に持ち込む。
最後の最後には体力勝負で事が決する。
それを考えのなかに入れている。
「窮して変ず」を冷徹に、
自分の組織に課している節がある。
それが原田泳幸の経営だと思うが、
いかがだろうか。
〈結城義晴〉