眼鏡チェーンJIN田中仁に柳井正が問うた「会社が目指すもの」
俳優小沢昭一逝去。
享年83。
新聞各紙ほとんど、
巻頭コラムで取り上げた。
それがこの異能の才人の評価を物語っている。
俳号は「変哲」(へんてつ)。
寒風へ頭を槍にして進む
「頭を槍にして」のたとえ、いい。
なぜか、冬の猫の句多し。
木枯しや猫捨てきれず戻りけり
あの声は捨て子猫らし夜寒かな
音もなく猫帰りくる霙るる夜
戯れに詠んだ辞世。
志ん生に会えると春の黄泉(よみ)の道
一方、歌舞伎役者中村勘三郎。
5日に早世。
朝日新聞で劇作家の野田秀樹さんが悼む。
「演劇界が彼を失ったことは、
ただの喪失ではすまない。
災害に近い」
享年57。
野田秀樹の「災害」のたとえ、
これもすごい。
師走の訃報。
心急かれつつ、
心痛む。
合掌。
日経新聞『旬の人時の人』。
㈱ジェイアイエヌ社長の田中仁さん登場。
眼鏡店JINSは全国に約170店。
前橋信用金庫(現しののめ信用金庫)職員から、
38歳で低価格眼鏡チェーンを創業。
2006年には上場。
ここまではディスカウント・チェーンストア方式で、
ある程度の成長は可能。
しかしその反動が、必ず出る。
上場後、「競争激化で赤字に転落」。
「あなたの会社は
何を目指しているのですか」。
ファーストリテイリング柳井正会長兼社長。
2008年のクリスマスイブに、
会いに来た田中さんに質問。
しかし田中さん、返答できず。
「自分は慢心していたと2日間寝込んだ」。
翌年、会社が社会に果たす役割を定める。
「目を守る、よく見えるための新機能・デザインの開発」
これが、「JINS PC」の大ヒットにつながった。
「パソコンの青色光を最大50%減らし、
目が疲れにくい効果をうたった眼鏡」
今、メガネ業界で先を争って開発されている。
しかしJINSは、
昨2011年秋の発売から今年11月末までに、
100万本超を販売。
「あなたの会社は何を目指すのか?」
一言でいえば、
「Vision」である。
ピーター・ドラッカー教授は質問する。
「顧客は誰か。
顧客はどこにいるか。
顧客の求める価値は何か。
顧客は何を買うか」
この質問に答えるのも、
自らのビジョンを明らかにすることにつながる。
ジェイアイエヌの社名は、JIN。
つまり田中仁の「JIN」。
自分の名前を社名にした。
しかしここからは、
会社のビジョンは見えない。
一方、ファーストリテイリングは、
Fast=早い、Retailing=小売業、
「はやい小売業」。
社名そのものが、
何を目指すかを示している。
これだけで会社の価値を図ることは、
もちろんできない。
社名のつけ方には大きく二種類ある。
固有名詞からつける場合、
コンセプトからつける場合。
前者の代表はウォルマート。
ウォルトンのマート。
クローガー、アルバートソンズ、
ウェグマンズ、トレーダー・ジョー。
三越も、その前身の越後屋もこれ。
イトーヨーカ堂も岡田屋もこちら。
後者はウォルマートのライバルのターゲット。
コストコ、セーフウェイ、
パブリックスやホールフーズ。
岡田屋からジャスコに転じ、
イオンとなった日本最大小売業も、
今はこちら。
私たちの商人舎も後者。
会社をつくるとき、
「結城義晴事務所」や「結城オフィス」も、
分かりやすいし仕事がしやすいと勧められた。
しかし私は「商人の舎(とねり)」とした。
私の師匠や先輩でも、
倉本長治の㈱商業界、
渥美俊一の日本リテイリングセンター、
友人の鈴木哲男さんはリテイル・エンジニアリング・アソシエイツ、
鈴木國朗さんはアイダスグループ。
後者が多い。
藪下研究室、島田研究室、築山研究室は前者。
田中さんは今春から、
慶応義塾大学修士課程で、
「消費者行動論」を研究。
社会人MBAで学ぶ。
この姿勢はいい。
立教MBAの私の授業では、
クレドをつくるときにビジョンと社名の講義をするが、
慶応で田中さんは何を学び、
何をイノベートするのだろう。
さて昨日は、夕方から、
その立教大学大学院で、
サービスマーケティングの講義。
フリークエントショッパーズプログラムと、
エブリデーロープライス。
その融合。
さらにペルソナマーケティング。
考え方やコンセプトをこそ、
理解し、各自考察してほしい。
その後、履修者有志で懇親。
撮影は幹事の山崎亮さん。
学生街の激安の店で、
愉しく懇親し、議論し、
学ぶ社会人の意味合いを確認し合った。
学ぶときにも、
仕事するときにも、
もちろん会社を興し、
経営するときにも、
Visionは不可欠だ。
「あなたは何を目指すのか?」
〈結城義晴〉