「不易流行」――糸井からニーバーへ、 そして芭蕉から渥美へ。
2012年を振り返ると、
「自ら、変われ!」と、
叱咤激励し続けてきた。
私自身も、チャレンジしてきた。
とはいっても今年、還暦。
年輪を重ねること自体、
60年のひと巡りをしたら、
これは「自ら、変われ!」を実現させた気になる。
私は85歳まで、
現役宣言をしているから、
まだまだ25年間は、
あまりガツガツせず、
すこしずつ、ひとつずつ、いっぽずつ、
「無茶をせず、無理をする」で、
やっていきたいと思う。
今年もあと3日というところで、
そんなことを考えている。
来年の商人舎標語も決定して、
それは1月元旦に発表する。
12月29日のいま、
ただひたすら立教大学大学院・結城ゼミ生の、
卒業論文を読んでいる。
来年1月11日が提出期限。
私はかつての経営専門雑誌の編集長時代と同様、
一言一句を丹念に読み込んで、
場合によっては、添削し、推敲していく。
さて昨日の『ほぼ日』の巻頭言。
糸井重里さんが「今日のダーリン」を書く。
「『変わらなきゃ』だとか、『チェンジ』だとか、
なにがなんでもやるべきことなのかなぁ。
ふと、そんなことも思うんですよね」
「ひねくれ一茶」ではないが、
ひねくれ糸井の本領発揮。
「変わらないかぎり、ずるずると縮んでしまう。
変わるということそのものが、生きることだ‥‥」
「でも、そうかな、ほんとかな、という気持ちが、
ちょーっとあるんですよね」
よく言われることに、常に疑問をさしはさむ。
「変わることそのものは、いいと思うんですけどね。
変えりゃぁいいってものでもない場合がありますよね」
これが、言いたいこと。
「変えなきゃ変えなきゃという強迫観念みたいなものは、
変えないでいることよりも、よくない場合もあります」
強迫観念を利用する人が、よく、いる。
コンサルタントに多い。
本当に困る。
「『ああ、そのままがよかったのに!』と思うようなこと、
実はけっこういっぱいあるんだよなぁ」
大賛成。
「いまのままで『いい』ことがあるのだとしたら、
それはそのまま、キープしておくほうがいい。
なんでもかんでも『変わる』べきだっていうことはない」
組織が変わったり、新しい上司がやってきたり、
そんな時には、こんな現象が起こりやすい。
これは組織全体の問題であり、欠点。
糸井さん、そこで、どういう態度に出るか。
「こういうところは変えます、
ここは変えないです」
「変えたいのは、どことどこ、どういうこと?
変えないでいるつもりなのは、どこらへん?
まずは、そこを見分けるところからなんだね」
この考え方は、
私がいつも唱えるラインホールド・ニーバーの「祈り」そのもの。
変わるものを変えられる勇気を、
変わらぬものを受け入れる心の静けさを、
それらを見分ける英知を、
お与えください。
私は来年も、この精神で行きたい。
糸井さんは、「変化と不変」を語っている。
「変わるものと変わらぬもの」。
あるいは「変えるべきものと変えてはならないもの」。
松尾芭蕉の「不易流行」。
「不易」はいつまでもかわらないこと。そのさま。
「流行」はその時代に一時的に広まるものごと。
『去来抄・旅寝論』にある。
「千歳不易の句、一時流行の句と云有。
これを二ッに分つて教へ給へども、其基は一ッ也、
不易を知らざれば基立ちがたく、
流行を辧へざれば風あらたならず」。
二つの句がある。
不易の句と流行の句。
芭蕉はこれらを二つに分けて教えてくれた。
しかし根本は一つ。
不易を知らなければ基本が成り立たない、
流行をわきまえていなければ「風」が新しくならない。
ここでいう「風」は、
「蕉風」と言われたりした芭蕉の俳句の特徴・傾向。
分かりやすく言えば、「自らのスタイル」。
最近の私の概念でいえば、
「ポジショニング」。
何故、流行への対応が必要か。
『去来抄』の説明がいい。
「流行は一時一時の変にして、
昨日の風今日よろしからず、
今日の風明日に用ひがたきゆへ、
一時流行とは云はやる事をいふなり」
昨日の風は、今日はよろしくない。
今日の風は、明日には使えない。
だから「流行」という「流行ること」が必要となる。
イトーヨーカ堂の社是にして、
現在のセブン&アイ・ホールディングスの根本理念。
「基本の徹底と変化への対応」
まさに「不易流行」。
ところが故渥美俊一先生はこれを、
さらに三つに分けて説明していた。
「長期の戦略」「中期の経営戦略」「短期の戦術」。
最近私はこの用語自体は使わないが、
考え方は踏襲している。
つまり、第1に、根本となる「理念」や長期の「ビジョン」。
これは変えてはならない。
第2に、「時流の経営戦略」。
これは一定期間にビジネスモデルを変えること。
小売業やサービス業では業態やフォーマット、
製造業ではブランドや商品。
それらの背景にある構造やインフラ、考え方。
第3に、週次の「戦術」。
これはウイークリー単位で改善改革を図る。
しかしこれらの一番奥にあるのは、
ラインホールド・ニーバーの「祈り」。
変わるものを変えられる勇気を、
変わらぬものを受け入れる心の静けさを、
それらを見分ける英知を、
お与えください。
奮い立つ勇気と心の静寂。
別の言い方では、
心の力の「強さ」と「優しさ」。
そしてそれらを見分ける英知、
すなわち頭の力「Knowledge」。
糸井重里からラインホールド・ニーバーへ、
そして松尾芭蕉から渥美俊一へ。
2012年を思い出しながら、
結城義晴の想念は、漂う。
〈結城義晴〉