タイ小売業協会チャチャイ専務理事の見識・理論と「後進の先進性」
韓国新大統領の朴槿恵(パククネ)さん。
昨日、第18代で11人目の大統領就任式。
初の女性大統領、初の親子二代の大統領。
父親は、朴正熙(パクチョンヒ)元大統領。
1963年から79年まで大役を務め、
韓国の産業化を果たした。
朝日新聞『社説』はコメントする。
「父親が産業化を担ったとすれば、
娘は民主化後の『国民の幸福』をめざす」。
新大統領は自叙伝に書く。
「真心に基づいて相互の信頼を積み重ねて
初めて発展的な交渉と約束を期待できる」
私は今、タイ王国の首都バンコク。
国王は、ラーマ9世プーミポン・アドゥンラヤデートさん。
チャクリー王朝第9代国王。
首相は、第36代のインラック・シナワットさん。
こちらもタイ史上初の女性首相で、
兄は第31代首相のタクシン・シナワットさん。
彼女は一昨年、2011年のタイ大洪水の際、
洪水対策の陣頭指揮に当たって、
バンコク中心部への浸水を防止するなど、
大いに活躍している。
韓国とタイは女性のトップリーダー。
何ごとも日本が進んでいると考えてはならない。
さて、バンコク到着の昨日は、
ワンマーカブチャーの祝日。
「万仏節」という仏教の祝祭日。
陰暦では3月の満月の日。
お釈迦様の弟子1250人が入道儀式を受け、
最も高い「阿羅漢」という悟り境地に達したことを祝う日。
タイでは仏教系の祝日は1年に4日。
ただし、何月何日と決まっているわけではなく、
毎年、政府によって発表される。
今年は、まず昨日の万仏節。
それからヴィサカブーチャ(仏誕節)の5月24日(金)、
アサラハブーチャ(三宝節)の7月22日(月)、
そしてカオパンサー(入安居)の7月23日(火)。
94%の国民が仏教を信仰するタイでは、
仏教系の祝日は、禁酒日になる。
これらの日は、店での酒類販売も禁止される。
到着してから街に出た。
通常は渋滞が当たり前のバンコク市内だが、
祝日だから道路は嘘のように空いている。
市内を走る車は、
ホンダやトヨタなどの日本車が多い。
高速を走ると、近代的なビル群が林立しているのがわかる。
バンコクはもう一流の近代都市だ。
しかし郊外の生活道路は、
そこそこに混んでいる。
それは郊外の商業施設が賑わっていることを示す。
タイは日本の高度成長時代を今、現出させている。
車も多いが、バイクも多い。
黄色いヘルメットの子供を間に挟んでバイクを走らせる夫婦。
郊外をひと巡りして、
夜は宿泊ホテルのレストランで食事。
なぜなら、外国人相手のホテルでは、
仏教祝日でもお酒が飲めるから。
33度の蒸し暑いバンコクの夜は、
ビールなしには凌げない。
ビールとワインをいただき、
昨夜は熟睡。
一夜が明けて、
バンコクの朝。
今日は交通渋滞。
そのなかをタイ小売業協会を訪問。
Thai Retailers Association。
協会事務所が入居しているビルロビーには、
国王夫妻の写真。
専務理事のチャチャイ・トングラタナハンさんが、
ていねいにインタビューに答えてくれた。
タイの商業(小売業と卸売業)は、
GDPに占める割合が13.5%、
製造業は39.0%。
商業はタイで第二の産業である。
しかし従業者数は、
商業が15.5%、
製造業が13.6%と、
逆転する。
ちなみに第3の産業は農業で、
GDPシェア8.6%ながら従業者数は38.2%。
1人当たり生産性からすると、
製造業、商業、農業となる。
近代的小売業の割合は、
タイ小売業協会では4割と推定。
対して伝統的小売業は6割となる。
その近代化された小売業のトップは、2010年の統計で、
ハイパーマーケットで
182億7000万ドル(1兆8270億円)。
第2がスーパーマーケットで
58億9000万ドル(5890億円)
第3がコンビニで56億2000万ドル(5620億円)。
他の小売業態が297億9000万ドル(2兆9790億円)。
この595億7000万ドル(5兆9570億円)が、
近代化されたタイの小売業の規模。
店舗数は、
コンビニが8100店、
スーパーマーケットが5340店、
そしてハイパーマーケットが2360店。
ハイパーマーケットとは、
日本でいう総合スーパー。
国際的にはハイパーマーケットといい、
ウォルマートのスーパーセンターも、
このハイパーマーケットのジャンルに入る。
タイは、非常にハイパーマーケットが発達している。
というより発展途上国では先ず、
ハイパーマーケットが、
発達する。
中国でも韓国や台湾でも、
そして日本の高度成長時代でも、
ハイパーマーケットが王者であるし、
最大業態であった。
昭和50年代まで、
日本でダイエーがトップだった理由は、
日本が高度成長時代であったことと深く関係している。
中国、台湾、そしてタイでも、
「後進の先進性」によって、
このハイパーマーケットに次いで、
コンビニが割って入る。
タイではセブン-イレブンだけでも6822店もある。
中国、台湾、タイでも、
食品スーパーマーケットは、
近代化された要素では、
ハイパーマーケットとコンビニに、
サンドイッチ状態で挟撃され、
一方、前近代化された条件において、
生鮮食品が伝統小売業の「市場」に席巻されている。
チャチャイさんと話していて、
私はここでも同じ法則があることに気づかされた。
そのチャチャイさんは、見事に、
タイ小売業を理論化していた。
その理論の詳細は、
月刊『商人舎』に譲ることになるが、
チャチャイさんを囲んで写真。
私たちが並んで立った上には、
歴代の小売業協会会長の写真が飾られていて、
日本チェーンストア協会会議室のようだった。
このあと、一日中、
バンコク市内の商業施設を視察。
チャチャイさんは、途中まで、
ずっと随行して解説してくれた。
心から感謝したい。
そして通訳を兼ねて案内してくれた人がもうひとり。
阿部俊之さん。
アセアンジャパンコンサルティング㈱社長。
東南アジアで日本からの事業展開をコンサルする。
35歳の気鋭のコンサルタント。
阿部さんにも感謝したい。
それにしてもタイという国、
いっぺんで気に入ってしまった。
素朴で、素直で、人柄のよい国。
親日家が多い。
すくすくと発展するに違いない。
そんな予感を抱かせてくれる。
そして私たち日本国が失いつつあるものを、
私たちに教えてくれる。
そんな感慨を強くした一日だった。
(明日の店舗視察編に続く)
〈結城義晴〉