スティグリッツ「サービス業の生産性」と常盤文克「サプライネスト」
東京・横浜は、
桜が八分咲き。
花の下を歩く。
あと何年、この喜びを味わえるのか。
いつもそんなことを考える。
春の選抜高校野球大会2日目。
21世紀枠出場校同士の1回戦。
福島県立いわき海星高校が、
惜しくも敗退。
福島県いわき市の小名浜に学校があって、
東日本大震災で被災。
将来の水産業を担う人材を育成する水産高等学校で、
練習船「福島丸」を所有し、海に挑む。
2001年開催の第73回大会から、
21世紀に設けられた出場枠。
部員不足、練習グランド無しなどの困難を克服した学校、
模範となる学校が選出され、
推薦されて甲子園大会に出場する。
いわき海星は津波でグランドが使えなくなっている。
その困難を克服して、
2年連続で県大会ベスト16に進出。
福島原発の被害にさいなまれているいわき市民に、
元気を与えてくれる闘いだった。
さて昨日の横浜商人舎オフィス。
米倉裕之さんと田窪伸郎さん。
米倉さんはカスタマーコミュニケーションズ㈱代表取締役社長。
私はこの会社の非常勤取締役を務めている。
田窪さんは㈱コーポレイト ディレクション パートナー。
経営戦略コンサルティングを専門とする。
小売業界の最先端の動向、
カスタマーリレーションシップマネジメント、
さらに日本のFSPに関する情報などを交換。
私は月刊『商人舎』と『商人舎Net Magazine』を説明。
ご協力をお願いした。
さて日経新聞の政治欄。
米国コロンビア大学ジョセフ・スティグリッツ教授が語る。
1997年から2000年まで世界銀行上級副総裁、
2001年、ノーベル経済学賞受賞。
来日して、日経新聞編集委員のインタビューに答えた。
まず、「安倍晋三政権の成長志向の経済政策を歓迎」
そして日米のデフレの差異を分析。
「日本のデフレは長期にわたり、
企業や家計が抱える債務の実質負担を増してきた。
ただ、大不況下で米国が経験したような
年10%もの物価下落ではなく、
マイルドなものだ」
日本の将来を予測。
「企業や家計の先行きへの期待が変化すれば、
デフレを克服し、物価目標を実現できる」
そして重要なこと。
「財政支出するなら、
所得の低い層に手を差し伸べた方がよいと思う。
所得のうち消費に回す割合である消費性向が高いからだ」
これも小売りサービス業にとっては、
ありがたい提言。
公共事業へのばらまきでは、
デフレ克服はできない。
そして結論。
「日本の課題は労働力を増やし、
サービス業の生産性を高めること」
同じくノーベル経済学者のポール・クルーグマン教授も、
「サービス業の生産性を向上」させることを、
アメリカ経済再生のかなめと主張している。
ここでいう「サービス業」は広い意味での概念で、
小売業とサービス業、消費産業が含まれる。
小売りサービス業の頑張りこそが、
日本経済再生の基礎となる。
「さあ、やろう」
そんな気になるスティグリッツ教授のコメントだ。
同じく日経新聞朝刊の「福島経済特集」。
Web版には残念ながら掲載されていない。
この中で花王㈱元社長の常盤文克さんが、
ていねいに語ってくれている。
常盤さんは、福島県浪江町で少年期を送った。
東日本大震災でサプライチェーンが分断された。
常盤さんは、いいことを言う。
「チェーンではなく、『ネット』、
そして『ネスト』が重要です。
線ではなく面で横ともつながる。
さらに鳥の巣のように立体的に
いろんな企業が絡まり合ってモノを作るという考え方です」
ネット[Net]は「網」、
ネスト[Nest]は「巣」。
網のように、巣のように、
広く、重なり合い、絡み合って、
私は、モノを「作り、流し、売る」のがいいと考える。
「世界は震災後の日本の工場の
立ち上がりの早さに驚いた。
中小企業が上手に助け合ったわけです。
今後は中小同士がもっともっと横に連携し、
大企業と縦にもつながる」
常盤さんは、
そういった『サプライネスト』を、
構築するべきだという。
東京都の蒲田、長野県の諏訪、大阪府の東大阪、
そんな産業集積地、産業団地のサプライネストを、
福島の浜通り、中通り、会津にひとつずつ、つくる。
まったくもって、同感。
ただしサプライネストには、
小売りサービス業や卸売業が、
多数、参画しなくてはいけない。
私はそう思う。
さらに常盤さんの提言は、
「真手(までい)の精神文化」。
浪江町に疎開していたころ、
まわりの大人からよく言われたのが、
「真手にやれよ」という言葉。
東北の方言で「丁寧に」とか「心を込めて」の意味。
「サプライネストを真手につくれ」
いいですね、このキーワード。
小売りサービス業の生産性向上も、
「真手」にやりましょう。
いわき海星高校も、
真手に試合したが、
残念ながら惜敗。
それでも真手な働きぶりは、
印象に残る。
真手に、真手に。
良い週末を。
〈結城義晴〉