日本の高質スーパーマーケットと田村弘一・大久保恒夫・千野和利
蝉がジイジイ鳴いて、
盆の入り。
日本の夏。
帰省ラッシュで、
高速道路も公共交通も。
渋滞と混雑。
“雨に走れば”
9秒77。
モスクワの世界陸上。
男子100メートル走のウサイン・ボルトは、
雷鳴と強い雨のなか、
今季自己最高。
世界最高記録は、9秒58。
ボルト自身が2009年、
ベルリンでマーク。
熱闘甲子園。
真っ盛り。
優勝候補も古豪も新鋭も。
1回戦には都道府県すべての代表が出る。
だからこの時には日本人はみな、故郷の人になる。
暑いけれど、
やっぱりいい夏だ。
日本に生まれて良かった。
さて日経新聞・企業欄の記事。
「高級スーパー、消費上向き復権」
ケーススタディは、
成城石井と阪食の阪急オアシス。
クイーンズ伊勢丹、そして紀ノ国屋。
クォリティ&サービス型スーパーマーケットは、
アメリカで1980年代あたりから起こってきた。
しかし高級スーパーマーケットは、
それ以前からあった。
私たち日本の小売業関係者にとって、
一番馴染みの深い企業は、
ロサンゼルスのゲルソンズだった。
当時は新興のブリストルファーム、
サンフランシスコのドレーガーズ、
さらに全米の大都市郊外の高級住宅地に、
様々な高級スーパーマーケットがあった。
アメリカには大富豪がたくさんいて、
彼らは揃って高級住宅地に住んでいる。
1982年だったか、
私はゲルソンズのCEOアラン・シャーンに、
単独インタビューを試みたことがある。
シャーンは述懐していた。
「私は、このゲルソンで、
ハイスクールの時に、
ボックスボーイとして
仕事をスタートさせました。
そして大学に行って、その間もずっと、
ゲルソンで働き続けました。
そんな家族的な風土がゲルソンの特長なのです」
アラン・シャーンは、
もうひとつ印象的なことを言った。
「私たちは、
このビバリーヒルズで創業した。
だからこういったハイクラスの
マーチャンダイジングをする店になった」
さらに付け加えた。
「もしロスのダウンタウンで創業していたら、
ボーイズよりももっと上手に、
低所得の顧客に対応しているに違いない」
ボーイズとは、当時、
ロサンゼルス・ダウンタウンにあった店。
安売りのスーパーマーケット。
アメリカの場合、徹底的に、
地域対応・顧客対応していくことが大切であって、
高級化が良いというわけではない。
日経の記事は、
高級スーパーを表現する。
「通常のスーパーより
平均の商品単価が2~3割高い」
この記述は「高額スーパー」を意味している。
都市部の高所得層やシニア層。
彼らを中心に今、嗜好品の単価上昇傾向が出ている。
「高額のワインなどの販売が堅調だ」。
つまりアベノミクスで消費が堅調になってきたから、
高級スーパーが調子がいい。
そういった論調か。
初めに成城石井が登場する。
現在100店体制。
近年、年間10店ペースで出店を続け、
2013年12月決算期には、
新規出店数13~15店。
首都圏から近畿圏、名古屋圏も店舗網を拡大。
大久保恒夫前社長時代に、
新しい成城石井の基礎を築き、
原昭彦現社長もその軌道を外さない。
都心部の駅ビル、ショッピングセンター立地に、
売場面積100~600㎡の小型店舗を出店。
最近はこういった商業集積のリニューアルが盛ん。
だからおのずと出店スピードもアップする。
独自開発のマーチャンダイジングによって、
プライベートブランドも充実させ、
それを卸売りまでする。
このところ、高級スーパーマーケットは、
不振にあえいでいた。
その不況の中でも成城石井は、
「わが道を行く」の観あり。
同じく、不況でも好調だったのが、
関西の阪食。
店名は阪急オアシス。
千野和利社長就任以来、
「高質食品専門館」のコンセプトを標榜し、
三つの考え方を推し進める。
第1が専門性、
第2がライブ感、
第3が情報発信。
これらのコンセプトが実現され、
関西では抜群の「阪急ブランド」の上に、
成り立っている。
わたしはそれが、
阪食の最大の強みだと見ている。
「高質食品専門館」コンセプトを導入した店は、
平均売上高2.6%の伸びを示す。
一応、既存店のテコ入れが一巡。
2012~2013年度は5~6店の新規出店。
2014年度以降は毎年10店弱へと加速。
阪食は百貨店の食品売場から、
ショッピングセンターの店、
さらに商店街の小型店まで、
マルチ・フォーマットをこなす。
これも、出店スピードをアップさせる。
日本の「高級スーパー」といっても、
成城石井、阪食ともに、
「高質スーパーマーケット」を標榜する。
その「高質スーパーマーケット」の生みの親は、
クイーンズ伊勢丹だ。
故田村弘一社長時代に一世を風靡した。
田村さんは伊勢丹ブランドのファッション性を、
徹底的に活用した。
現在、三越伊勢丹ホールディングス傘下、
三越伊勢丹フードサービスのバナーが、
クイーンズ伊勢丹。
その後、低迷。
しかし今年5月末、
JR武蔵境駅高架下に出店。
来秋にはJR目白駅駅前に進出予定。
記事には紀ノ国屋も出てくる。
会社は売却され、現在、JR東日本傘下。
JR品川駅駅ビルに1年4カ月ぶりに出店。
スーパーマーケットは、
不況に強い商売だとされる。
しかしその中で高級スーパーマーケットは、
不況に弱い。
だから今、ちょっと良い兆しが、
見え始めたのかもしれない。
しかし長かったデフレ時代にも、
成城石井と阪食は成長していた。
本来、ここに、
高質スーパーマーケット問題の焦点がある。
記事には書かれていないが、
大事なことは三つ。
田村弘一さんが考え出したストア・コンセプト、
大久保恒夫さんが創り出したマネジメント、
そして千野和利さんのマーケティング。
それらに特徴を持つこと。
すなわちアウトスタンディングなポジショニング。
アラン・シャーンのゲルソンの、
徹底した顧客対応もポジショニングのためである。
蝉がジイジイ鳴いて、
盆の入り。
“雨に走れば”
9秒77。
熱闘甲子園。
真っ盛り。
日本の夏。
目いっぱい顧客を
喜ばせたい。
〈結城義晴〉