岩隈久志No-hitterの自分らしさと「出版流通返品4割」の重荷
そんな旧盆のとき、
嬉しいニュースが、
アメリカ・シアトルから届いた。
岩隈久志投手がNo-hitterを達成。
メジャーリーグのシアトル・マリナーズ所属。
No-hitterは、
日本ではノーヒット・ノーランという。
ヒットも打たれなかったし、
点も取られなかった。
つまり、無安打無得点試合。
凄い記録です。
岩隈は日本の楽天イーグルスから、
2012年にマリナーズに入団。
日本人投手のNo-hitterは、
野茂英雄投手以来、
史上2人目の快挙。
そのトルネード野茂は、二度、
ノーヒット・ノーランを成し遂げている。
ドジャース時代の1996年と、
レッドソックス時代の2001年。
岩隈のコメントがいい。
「先頭打者を打ち取っていこう、
自分らしさを出そうと思った」
自分らしさを出す。
まさにポジショニング。
大リーグのような個性豊かな競争社会では、
この自分らしいポジショニングがなければ、
生きぬいていけない。
岩隈は2004年シーズンオフに、
所属していた大阪近鉄バファローズと、
オリックス・ブルーウェーブの、
球団合併を経験している。
パリーグのチーム数が減るため、
楽天イーグルスが新規参入。
大阪近鉄とオリックスの選手たちは、
合併球団と楽天とに分配されることになった。
選手を分配するなど、
ちょっと違和感があるが、
企業が合併で人材を振り分けるようなもの。
岩隈は合併球団に分配された。
しかし労使「申し合わせ」を盾にとって、
これを拒否して、結局、楽天に入団。
岩隈は意志を通した。
意志を通して、
自分らしさを追求する。
その岩隈が自分らしいNo-hitter達成。
すばらしい。
おめでとう。
さて、昨日の日経新聞の『真相深層』は、
「出版、返品4割の重荷」
出版流通業界はかつてない苦境。
昨年秋に取次三番手の大阪屋が経営危機。
楽天や講談社など6社が救済に入って、
総額37億円の第三者割当増資を引き受け、
法的整理だけは逃れた。
そして今年6月、
四番手の栗田出版販売が倒産。
ほとんどの出版社が巻き添えを食った。
出版流通の首位は日本出版販売、
二位はトーハン。
私のいう「複占」状態。
マーケットリーダーと、
マーケットチャレンジャーの闘い。
そうなると、どちらも減収基調となる。
そしてマーケットフォロワーが脱落するが、
それが大坂屋と栗田。
出版科学研究所の2014年調査。
出版物の推定販売額は1兆6000億円、
ピークの1996年から約1兆円も減った。
ちょうどこのピークのころ、私は、
取締役『食品商業』編集長だった。
そしてこのメディアがこのとき、
商業界の歴史上、最高部数を誇った。
以後、部数は落ちるばかり。
日本全体の期待は、
電子出版市場にかかるが、
こちらはまだ1400億円程度。
㈱商人舎は取次流通を使っていない。
私が社長を務めた㈱商業界はもちろん、
取次から書店へと、
雑誌や書籍を流通させている。
この出版流通が制度疲労を起こしている。
その原因の一つが「返品制度」。
「原則として書店は
一定期間売れなかった本を
取次経由で出版社へ返品できる。
この仕組みによって書店は
在庫リスクを減らし、
多彩な書籍や雑誌を店頭に置ける」
しかし返品の際には、
梱包や物流の費用を、
書店と取次が負担する。
そして返品は増え続けている。
2014年には、
日本全体の雑誌の返品率が、
初めて40%に達した。
チェーンストアの人々からすると、
この返品率は「社会悪」とすら思われるだろうが、
しかしこの4割は一般誌を含めての返品率で、
ビジネス誌や専門誌はもっともっと高い。
私の『食品商業』編集長時代は、
平均20%台前半の返品率で、
ときどき10%台になると、
乾杯した。
いまは、そんな奇跡が起こることもない。
そこで一部出版社は、
「責任販売制」に取り組む。
いわゆる「買い取り制度」。
記事は一石を投じる動きを紹介する。
第一は、角川とアマゾンジャパンの、
取次を介さない直接取引。
最短1日でアマゾンに商品を届ける。
角川は反アマゾンの急先鋒だったが、
それだけに両社の連携は衝撃を与えた。
セブン&アイとファーストリテイリングの、
あの提携に似ている。
角川は、2018年、最大155億円を投じて、
大型物流・製造拠点を設ける。
出版社として異例の規模だ。
対して、第二は、
楽天と講談社の共同改革。
こちらは大阪屋と栗田をバックアップし、
2016年中に経営統合させる。
そしてITに強い取次へと再生させて、
アマゾンに対抗する。
この15年間、国内の書店は8000店以上減少。
今、セブン-イレブンが、最大の書店となった。
出版流通が激変する。
マーケットニッチャーは、
ユニークなポジショニングが必須だ。
私の作戦は「網と紙の融合」。
それも無借金経営の自前主義。
ニッチャーだからこそ、
セグメントを絞り込んで、
ターゲティングし、ポジショニングできる。
思い切ったユニークなことができる。
いわゆる普通の出版社はすべて、
フォロワーにならざるを得ない。
現代らしい競争状況である。
〈結城義晴〉