ポッポおじさんからの手紙と二階俊博「ノコギリ関係」
2016年4月最後の日。
さよなら、三月、
よろしく、四月。
こう始まって、もう、
仕舞いの四月。
うれしいお便りと商品が届いた。
川邉哲也さん。
㈱大分からあげ代表取締役社長。
会社案内のパンフレットと、
「とりかわサクサク揚げ」が、
段ボールに入っていた。
開けてみると名刺と手紙。
「会社を立ち上げて
13年が終えようとしています。
現在、大分県と福岡県で
26店舗のテイクアウト専門の
からあげのチェーンストアを
展開しております」
熊本地震、お見舞いします。
「実は、15年ほど前、
事業立ち上げの際、
戦略の中心にしていた思想が
『小さく狭く濃く深く』という
結城さんの言葉でした。
確か商業界の記事の中にあったと
記憶しております」
こころから、ありがとう。
「この事業を始める前は、
親がやっておりました『パパママストア』を
後継しておりました。
しかし御多分にもれず、
時代の激流にのまれ、
いわば川の流れに
逆らい泳ぐような商売を
10年くらい経験しました」
月刊商業界では、
「パパママストアの特集」を、
繰り返していた。
「これからどうやって生きていけばよいのか?」
「そんな暗中模索の時、
巡り合った言葉こそが
『小さく狭く濃く深く』でした」
私は『販売革新』にも、『食品商業』にも、
これを書いた。
単行本『Message』にも、
「安澤英雄の生と死」の冒頭で使った。
㈱商業界社長時代には、
2月ゼミナールで、
総合テーマにも使った。
㈱ヨネザワ社長の米澤房朝さんも、
「小さく狭く濃く深く」を信条としてくれている。
メガネのヨネザワは、
九州と山口で167店を展開する。
米澤さんにも、あらためて、
地震のお見舞いを申し上げたい。
川邉さんの手紙は続く。
「おおげさに言えば、当時の私にとって、
鎌倉の世の庶民が感じたであろう
『南無阿弥陀仏』のような救いの言葉でした」
救いの言葉だなんて、
おこがましい。
「以後、運よく、また多くの方の力添えを得て、
今日まで少しずつ成長しながら
無事に商売を続けることができました。
ここにきて、社員も育ちはじめ、
社風も根付きはじめ、
業績も創業時に思い描いた領域に到達し、
来期(6月~)は、第2章のスタートであると
取り巻く状況が我々に
語りかけてきております」
「中小企業という言葉がありますが、
まさに小規模会社(小学生)から
中堅企業(中学生)の世界に入っていく感覚です」
「たとえば近所の子どもに
挨拶して返事がなかった。
小学生なら許されるが、
中学生ならそうはいきません。
お客様が我々を見る目、
社員との関係性、
地域社会からの期待感・・・。
すべてが我々を
中学生として見はじめました。
責務は急に重くなりました」
「イオンの聖母マリア様(と私は感じております)
小嶋千鶴子さんの『あしあとⅡ』に
こんな一説があるのを思い出しました。
情報というものも相対のものですから、
受信一方では入って来ません。
発信者のところへ
情報が戻ってくるのだと思います。
これまで小学校の間は、
会議所なども一切入らず、
当然交流も発信も控え、
ただひたすらお客様と
向かい合ってきました。
しかし中学に入ったら
そういうわけにもいかない」
「この1年、結城さんの文章を読む機会が増え、
弊社を発信して頂くなら
この方だと確信しました」
喜んで。
「小嶋さんの文面は次のように続きます。
情報と情報を結合すると
アイデアが沸きます。
一度ぜひお会いしたく思います。
我々大分からあげの第2章も
成長による『飛躍』です。
それも『自然な』成長です」
あんまり文章がうまいので、
全文を紹介してしまった。
小嶋千鶴子さんの言葉を引用しているが、
実はイトーヨーカ堂出身。
勉強家だ。
ありがとう。
川邉さんはブログを書いている。
いわば私とはブログ同志。
だから文章も見事。
ブログのタイトルは、
「ポッポおじさんのブログ」
よろこんで、お会いしましょう。
よろしく。
さて今日はもうひとつ、
届いた。
明治マーケティングレビュー。
連載タイトルは、
「小売業のスーパーマーケティング」
1年に4回発行の季刊誌で、
もう連載は33回目。
9年目に入った。
今回からまた、
「米国スーパーマーケティング」を書く。
私はこの原稿を書きながら、
毎日のブログや月刊商人舎になかった、
新しい発見をした。
ありがたいことです。
さまざまなメディアに、
書きつつ、考える。
考えつつ、書く。
それが新しい知見を生み出す。
明治のお取引先向けの小冊子。
手に入れて読んでください。
最後に日経新聞の記事から。
自民党総務会長・二階俊博さんの言葉。
北京を訪問中。
何度か直接会っているが、
二階さん、こんな気の利いたことを言うか。
中国の李金早・国家観光局長と会談。
李さんの発言。
「本年は訪日中国人が600万人を超える」
昨年は約500万人だった。
二階さん。
「我々もそれなりの決意と覚悟をして、
お迎えの準備をしないと
いけないと思っている」
いつも日本国内で旅行関係者に言う。
「観光はノコギリのように
やらないといけない」
鋸のたとえ。
「ノコギリをひくのを
想像してもらえばわかるが、
押すばかりでは駄目。
ひくばかりでも駄目だ。
押したりひいたりしないといけない」
中国人にも鋸のたとえは通じるのだろう。
「日本の旅行関係のみなさんは
『来てください』という呼びかけが
ほとんどでしょ。
だけど、『来てください』というなら、
行かなきゃ駄目ですよ」
店とお客様との間にも、
ノコギリ関係がある。
安いよ、安いよ。
いいよ、いいよ。
うまいよ、うまいよ。
だから来てください。
これだけではいけない。
行かなきゃ駄目ですよ。
では、お客のもとに行くとは?
かつて、テレビCMは、
「お茶の間」に飛び込んだ。
チラシも新聞とともに、
家庭のなかに運び込まれた。
今、Eコマースは、
いつも顧客のスマホやパソコンに、
飛んで行く。
セブン-イレブンは、
鈴木敏文さんが退任しても、
顧客の一番近くに、
「行っている小売業」だ。
顧客とのノコギリ関係。
あなたは、どう築くか。
仕舞いの四月。
明日から、
ご機嫌よう五月だ。
よろしく。
〈結城義晴〉