【日曜版・猫の目博物誌 その12】ひまわり
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は夜にも見える。
光のないところでも見える。
その正反対の世界。
明るい明るい夏の花が、
ひまわり。向日葵、日輪草、日車、日回り。
日本語では多様な表現をする。
太陽の動きを追うように花が回る。
だから日まわり。
英語でsunflower。
太陽の花。
学名はHelianthus annuus。
キク科の一年草。
「一年草」は、
種子が発芽して、
1年以内に生長して開花・結実、
種子を残して枯死する。
一方、「越年草」は、
秋に発芽して、越冬し、
翌年に枯れる。
「二年草」ともいう。
さらに「多年草」は、
数年に渡って枯れず、
毎年花を咲かせる。
ひまわりは一年草。
キク科の花は、
小さい花が多数、集まって、
1つの大きな花となっている。
その小さい花を「小花(しょうか)」と呼ぶ。
ひまわりは、
外輪に黄色い花びらがあり、
内輪には花びらがない花がある。
外輪が「舌状花」、
内輪は「筒状花」
原産地は北アメリカ大陸の西部。
だからだろうか、
西海岸のナゲットマーケットは、
ファサードにひまわりのデザインを使う。
もともとは、
ネイティブアメリカンの食用作物だった。
現在も、地球規模でみると、
大豆につぐ寒冷地油料作物である。
1492年にクリストファー・コロンブスが、
アメリカ大陸を発見。
その後、ヨーロッパ人が大挙して、
新世界に押し寄せた。
押し寄せた欧州人のうちのスペイン人が、
1510年にヒマワリの種を、
母国に持ち帰って、
マドリード植物園で栽培開始。
その100年後、
ヒマワリの種子はフランスへ、
さらにロシアに伝わって、
食用植物としての価値を得た。
日本には17世紀に伝来。
種子は絞って、搾油される。
それがヒマワリ油。
不飽和脂肪酸を多く含む。
現在のひまわりの生産ランキングは、
第1位 ウクライナ、
第2位 ロシア。
旧ソビエト連邦の両国が、
1000万トンを超える生産量で、
圧倒的なトップ。
第3位アルゼンチン、第4位・中国、
第5位ルーマニア、
合計しても、
ウクライナやロシアにかなわない。
そのウクライナのひまわりの群生が、
忘れられない映画。
1970年の『ひまわり』
イタリア・アメリカ・フランスの合作。
主演はソフィア・ローレン、
そしてマルチェロ・マストロヤンニ。
監督はヴィットリオ・デ・シーカ。
第二次世界大戦の戦前戦後を挟んだ、
イタリア人男女の行き違いの物語。
ヘンリー・マンシーニの音楽が、
実によかった。
見渡す限り一面のひまわり。
その一本一本の一年草の下に、
雪の中で死んでいった兵士たち、
一人ひとりが眠っている。
別の丘には、見渡す限りの十字架。
ソフィア・ローレンのたくましい美しさ。
ひまわりそのもののような存在感。
戦争に引き裂かれた女と男。
明るい太陽の花。
その群生。
明るいなかの悲しさ。
大群生のなかの孤独。
ひまわりと十字架。
夜が見える猫の目と、
太陽の花。
コントラストはいつも、
たしかな芸術の方法なのです。
〈『猫の目博物誌』(未刊)より by yuuki〉