【日曜版・猫の目博物誌 その23】紅葉
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は美しいものの裏側を見る。
色を見分けるのは苦手。
今日はちょっと苦手な博物誌――。
童謡「紅葉(もみじ)」
秋の夕日に照る山もみじ
濃いもうすいも数ある中に
松をいろどるかえでやつたは
山のふもとのすそ模様
渓の流れに散り浮くもみじ
波にゆられて離れて寄って
赤や黄色の色さまざまに
水の上にも織るにしき
(作詞・高野辰之 作曲・岡野貞一)
紅葉という言葉。
「こうよう」と読む場合と、
「もみじ」という場合では、
意味が異なる。
市場を「しじょう」と読んだり、
「いちば」と言ったりするのと同じ。
音読みと訓読み。
音読みの「紅葉」は、
主に落葉広葉樹が、
落葉の前に葉の色が変わる現象。
色が変わるだけでなく、
葉の色が赤く変わることを、
「紅葉」と呼ぶ場合もあるから、
結局、「紅葉」は、
三つの意味を持つことになる。
厳密には、
赤色に変わるのが、
「紅葉(こうよう)」
黄色に変わるのが、
「黄葉(こうよう、おうよう)」
褐色に変わるのが、
「褐葉(かつよう)」
同じ種類の木でも、
生育条件と個体差によって、
紅葉したり、黄葉したり、
褐葉したりする。
素朴な疑問。
なぜ、葉が色づくのか。
それは「葉の老化反応」
これは植物学の見解。
葉の色変はどんなメカニズムで起こるのか。
これも素朴な疑問。
もともと葉は緑色。
葉に含まれる色素は二つ。
第1はクロロフィルで、
これが「葉緑素」と言われて緑色だ。
第2がカロチノイドで、
これが黄色。
クロロフィルがカロチノイドより、
ずっと量が多い。
だから黄色は目立たず、
葉は緑色に見える。
クロロフィル (Chlorophyll) は、
化学物質。
光合成の光化学反応で、
光エネルギーを吸収する役割をもつ。
春の新緑、夏の万緑、
みなクロロフィルが、
光を吸収して光合成を行った結果。
しかし、秋に入ると、
日照時間が短くなる。
するとクロロフィルは分解される。
そのため、隠れていたカロチノイドの色が、
表に出てきて葉は黄色になる。
イチョウの葉が緑から黄に変わる。
これはクロロフィルが分解され、
カロチノイドが表に出てくるから。
日照時間が短くなって、
光合成が鈍化し、
クロロフィルが分解されると、
葉に蓄えられた栄養素は、
幹へと回収される。
一方、植物は葉を落とす準備を始める。
すると、葉柄の付け根に、
「離層」という組織ができる。
離層はコルク質でできていて、
物質の行き来を妨げる。
ワインボトルのネックに、
コルクを使うが、
それは同じ原理だ。
この離層ができると、
葉の中の養分は茎に移動できなくなる。
だから光合成で生産された糖分は、
一部が葉に留まる。
この葉に残った糖分から、
赤い色素アントシアニンが合成される。
それが葉を赤くする。
アントシアニンは、
温度と光の条件によって生成される。
1日の最低気温が8℃以下になると、
アントシアニンが生成され、
紅葉が始まる。
気温が5~6℃以下になると、
それがさらに進む。
鮮やかな紅葉が生まれるのは、
日中の気温が20~25℃で、
夜間の気温が5~10℃になったとき。
つまり昼夜の気温差が大きいこと。
しかし紅葉や黄葉のあとで、
葉は離層のところで切り離されて、
落葉する。
「紅葉前線」は、
紅葉の見ごろを、
日本列島に前線として描いたもの。
9月に北海道から始まり、
10月・11月と南下する。
一つの地区で紅葉が始まってから、
完了するまでの期間は約1カ月。
最盛期の見ごろは、
紅葉開始後20日から25日。
紅葉・黄葉・褐葉。
今年も楽しんでほしい。
猫の目には、
鮮やかな紅葉は見えないけれど。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)