【日曜版・猫の目博物誌 その26】シクラメン
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は美しいものを見分ける。
そんな目で見る博物誌――。
真綿色したシクラメンほど
清しいものはない
出逢いの時の君のようです
ためらいがちにかけた言葉に
驚いたようにふりむく君に
季節が頬を染めて過ぎてゆきました
小椋佳作詞・作曲、
布施明・歌。
「シクラメンのかほり」
一番の歌詞は真綿色、
二番は薄紅色、
三番は薄紫。
シクラメンはそんな花です。
被子植物門双子葉植物綱サクラソウ目、
サクラソウ科シクラメン属。
多年草。
学名はCyclamen persicum Mill。
英名はCyclamen、
和名はシクラメン。
「篝火(かがりび)花、豚の饅頭」
などとも、いわれる。
双子葉植物の分類だが、
実際に芽が出てくるときには、
葉は一枚。
葉はハート形をして、
白い筋や白い斑がある種類もある。
柄は長い。
球根からそのハート形の葉が群生する。
7~8枚目の葉が出ると、
花芽の形成が始まる。
花芽(はなめ)が成長して、花になる。
このとき、葉芽と花芽は、
1対1でふえていく。
だからシクラメンの花と葉の数は、
N:N+7、またはN:N+8である。
冬から早春に、一重や八重の花をつける。
もともとは地中海沿岸の原産。
ヨーロッパのギリシャから、
北アフリカのチュニジアにかけて、
自生していた。
クレオパトラも見ただろう。
ヨーロッパでは花よりも、
球根の澱粉が食用にされた。
「アルプスの菫」などと呼ばれた。
しかしこの澱粉には、
有毒物質が含まれる。
サポニン配糖体シクラミン。
それもあってか、
南米からジャガイモが入ると、
その食習慣はなくなって、
観賞用となった。
日本には明治時代に入り、
戦後、観賞用として普及。
ギフト需要をつかんで、
現在、急速に普及。
昨2015年の日本国内の作付面積、
189ヘクタール、
1ヘクタールは1万㎡、
だから189ヘクタールは、
189万㎡。
出荷量は約1760万鉢。
長野県が全体の16%でトップ、
二番目が愛知県の10%、
三番目は茨城県と栃木県の6%。
鉢植えの花人気ランキングは、
シクラメンが1位。
2位は胡蝶蘭。
シクラメンと蘭の種類が、
15位までの上位を占める。
人気です。
シクラメン花のうれひを葉にわかち
〈久保田万太郎〉
万太郎はやはり、
花にうれいを見出し、
葉にも注目した。
優れた観察だ。
一方、「シクラメンのかほり」
一番は「出逢いの時」、
二番は「恋する時」、
三番は「別れ道」。
出逢いは「真綿色」
恋するのは「薄紅色」
別れは「薄紫」
ん~、ありきたり。
ありきたりなもののほうが、
売れる、ヒットする。
猫の目には、それがよく見える。
面白くないけれど。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)