【日曜版・猫の目博物誌 その32】煙
猫の目で見る博物誌――。
猫の目はちょっとだけ、
色が見えにくい。
モノクロームの世界。
そんな目で見る博物誌――。
けむり、ケムリ、煙。
物が燃えるときに立ちのぼるもの。
むつかしくいえば、
有機物が不完全燃焼するときに、
もくもくとでてくる気体。
固体、あるいは液体の微粒子が、
浮遊している状態。
工場の煙突などから出てくる。
かまどなどから立ちのぼるものも、
煙という。
木や油脂のような有機物を、
不完全燃焼させると、
灰色や黒色の煙がでる。
これは酸素過剰の状態から生まれる。
もしくは逆に酸素不足の状態から生じる。
そんな不完全燃焼が生みだす煙の正体は、
大半は炭素だ。
すなわち「すす」
木材や紙などのセルロース、
または純度の高い炭化水素、
例えばメタノールやガソリンなど燃える。
白い煙が出る。
この白い煙の成分は水滴。
燃えるものに含まれる水素が、
燃えるときに空気中の酸素と結びつく。
Hが2個とOが1個で、H2O。
つまり水ができる。
工場の煙突からでるのも、
たいていH2O。
いろいろな煙がある。
忍者の投げ玉でできる煙。
航空ショーの煙。
舞台芝居の煙はドライアイス。
けれど、広い空に、
もくもくと上がっていく煙。
悪くはない。
「人を煙に巻く」
これはあまりよろしくない。
煙、もく、もく。
もく・もく・もく・もく。
もく・もく・もく・もく・もく。
もく・もく・もく・もく。
もく・もく・もく。
もく・もく・もく・もく。
もく・もく・もく・もく・もく・も・くも・くも・くも。
くも・くも・くも・くも。
くも・くも・くも・・くも。
雲。
煙、もく、もく、は、
雲になるのかな。
猫は、空を見るのが好きだけれど、
でも、煙、もく、もく、は、
曇り空にしかならない。
みんな、はい色、ネズミ色の曇り空。
ああ。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)