【日曜版・猫の目博物誌 その41】カーネーション
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は季節を読み取る。
そしてイベントもわかる。
梅、桃、桜、ツツジ。
つぎは母の日のカーネーション。
お花の中では
カーネーション
一番好きな花♬
井上陽水。
その陽水ファンの方には、
ちょっと申し訳ないかもしれないけれど、
まったくつまらん詩だ。
子供の頃には何も
感じてなかったけれど
今では不思議なくらい
きれいだな
白いカーネーション♬
二番。
どんなにきれいな花も
いつかはしおれてしまう
それでも私の胸に
いつまでも
白いカーネーション♬
まあ、陽水の歌唱力と、
メロディアスな楽曲で、
ヒットした。
〈hanasozai.exblog.jp〉
一方、椎名林檎。
小さく丸めた躯は今
かなしみ隠し震えて
命を表しているのね
重く濡らした瞼は今
よろこび映す日の為
心を育てているのね
かじかむ指ひろげて
風に揺れ雨に晒され
遥か空へ身を預けて
‥生きよう‥
何も要らない私が今
本当に欲しいもの等
唯一つ、唯一つだけ
こちらは作詩も天才的。
そのカーネーション。
英語でもcarnation。
ナデシコ目 Caryophyllales
ナデシコ科 Caryophyllaceae
ナデシコ属 Dianthus
学名はDianthus caryophyllus L.
日本ではオランダナデシコ、
ジャコウナデシコとも。
常緑性多年草。〈hanasozai.exblog.jp〉
原産は地中海沿岸。
つまり南ヨーロッパ、西アジア。
17世紀には、
ガーデニングの発達したイギリス、
そしてオランダやスペインで、
300種以上の品種がみられた。
ヨーロッパは花を愛でる。
18世紀、19世紀に、
品種が飛躍的に増えて、
1840年、パーペテュアル系が生まれ、
1857年、マルメゾン系が誕生。
どちらもフランス。
そして現在、
商用カーネーションの時代となる。
日本では、
「カーネーションの父」と、
呼ばれる人がいる。
土倉龍治郎。
明治3年(1870年)生まれ、
昭和13年(1938年)没。
台湾で成功した実業家で、
その後、日本で、
カーネーションの開発に携わる。
近代的栽培技術を構築し、
新しい品種を生み出した。
現在、カーネーションは、
日本の切り花で第4位の産出額。
農林水産省の今年3月の発表で、
第1位はキク632億円、
第2位ユリ214億円、
第3位バラ187億円、
そしてカーネーションが第4位で123億円。
カーネーションは輸入も盛んだ。
52%が輸入品で、その数3億5000万本。
コロンビアが第1の輸入国で66%、
第2は中国の26%。
消費があるから生産がある。
需要があるから供給がある。
カーネーションの需要と消費は、
母の日という爆発点があるから。
カーネーションの生産額日本一は、
愛知県西尾市一色町。
カーネーションの種類は多い。
3500品種が現在農林水産省に登録。
常緑性多年草だが、
開花期によって二つに分かれる。
一季咲き性品種は4月から6月に開花、
四季咲き性品種はいつでも開花する。
切り花の種類は、
マルメゾン種、ボーダー種、
グルナダン種、ファンテジー種、
マーガレット種、シャボー種、
そしてパーペチュアル種など。
形状で分けるとやはり、
大きく二つに分かれる。
スプレー品種と大輪品種。
後者はスタンダード品種ともいわれる。
スプレー品種は1本の茎に、
小さめの花が複数個ついている。
大輪品種は1本の茎に、
大きめの1個の花がついている。
母の日のカーネーションの由来は、
米国ウェストヴァージニア州に遡る。
アンナ・ジャービスさんという女性。
アンナの母アンは、
1905年5月に亡くなった。
アンナは苦労をかけた母のために、
追悼会を行った。
1908年5月10日の5月第2日曜日。
このときアンナは、
グラフトンの教会に、
母の好きだった白いカーネーションを、
贈った。
アンナが贈った白いカーネーションは、
参加者に一輪ずつ渡された。
このアンナの母への思いが、
白いカーネーションに象徴されて、
母の日は、瞬く間に広がっていく。
1910年、ウエストバージニア州が、
「母の日」を認定。
1914年、アメリカ連邦議会が、
5月第2日曜日を「母の日」と立法。
1915年、世界で初めて、
Mother’s Dayが祝日となる。
ただし、フランスでは、
ちょっと事情が異なる。
もちろん「母の日」はある。
5月最終日曜日。
カーネーションは贈らない。
フランスにかぎらずヨーロッパでは、
カーネーションは墓に添える花、
特に白いカーネーションは、
亡くなった人に手向ける花。
カーネーションを贈らない代わりに、
フランスの母の日の一番のプレゼントは、
「顔を見せること」
これはとてもいいと思う。
最後に俳句。
母の日のてのひらの味塩むすび
〈鷹羽狩行〉
母の日や大方の母けふも疲れ
〈及川貞〉
俳句はカーネーションよりも、
母の日のものが圧倒的にいい。
母の日のカーネーション。
ボクにもかあさんがいます。
名前はミント。
カーネーションは贈れないけれど、
もう、顔も見せられないけれど、
ありがとう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)