[日曜漫歩]シカゴ・ブルースのBuddy Guy’s Legends
月曜日に神は、昼と夜をつくり、
火曜日には、天をつくった。
水曜日に海と地をつくり、
植物を茂らせた。
木曜日には、
太陽と月と星をつくった。
金曜日に魚と鳥を、
土曜日にの日に、
動物をつくった。
そしてこの週末に、
自分に似せて、
男と女を創造した。
日曜日、神は、休んだ。
旅をしていると、
曜日の感覚がなくなる。
日曜日ではないけれど、
Sundayの気分。
だから夜は、シカゴ・ブルース。
Buddy Guy’s Legends。
バディ・ガイは、
シカゴ・ブルースの第一人者。
もう81歳。
そのバディ・ガイの店が、
なんとわれわれのホテルから歩いて、
10分ほどのところにある。
毎晩、ブルースのライブをやっている。
受付で10ドル払う。
手首にハンコを押してくれる。
これで出たり入ったりできる。
すぐにカウンターバー。
壁にギターが飾ってある。
左がB・B・キングのギブソン。
右はジョン・リー・フッカーのエピフォン。
セミアコースティック・ギターはシブい。
左上の黒いギターが、
キース・リチャードのギルド。
勿論ローリングストーンズのギタリスト。
真ん中はトム・ペティのフェンダー。
今年10月に死んだばかり。
右は黒人ブルースのロバート・クレイ。
いずれもフェンダー・ストラトキャスター。
店の奥には、
ずらりと名プレーヤーの名器が並ぶ。
みんな、バディ・ガイを崇拝し、
この店にやって来て演奏して、
そのギターにサインして、置いていった。
左から、カルロス・サンタナ、
ジェフ・ベック、
スティーヴィ―・レイ・ヴォーン。
そしてエリック・クラプトン。
すごい顔ぶれのすごいギター。
サンタナはギブソンのレスポール。
これは有名。
ジェフ・ベックはイギリスのギタリストで、
世界三大ギタリストといわれる。
あとの二人はエリック・クラプトンと、
ジミー・ペイジ。
スティーヴィ―・レイ・ヴォーンは、
ダラス生まれのアメリカ人。
そして言わずと知れたクラプトン。
3人はいずれも、
フェンダーのストラトキャスター。
壁にかかったギターを見ているだけで、
時間はゆっくりと過ぎていく。
前座の演奏の間、ギターを観たり、
酒や料理を注文したり。
そして本日はジミー・ジョンソン。
シカゴ・ブルース屈指のギタリスト。
もう、ギターが体の一部のようだ。
ブルースは19世紀後半に、
ディープサウス・エリアで生まれた。
直訳すると「深南部」だが、USAの南東部。
ルイジアナ州、ミシシッピ州、
アラバマ州、ジョージア州、
そしてサウスカロライナ州。
アメリカに奴隷として連れてこられた、
黒人たちの音楽。
黒人霊歌やフィールドハラー、
そして、労働歌(ワーク・ソング)が、
混合して発展した。
Field-hollerは、
農場や作業現場のFieldで、
叫んだり、大声でわめいたりするholler。
hollerには不平不満の意味が含まれる。
1965年の南北戦争後に、
奴隷解放宣言が行われた。
そかしその後も、黒人たちの境遇は、
すぐには変わらない。
その嘆きや不満を歌にして、
ブルーノートの独特の旋律とリズムで、
歌い上げる。
Bluenoteは、
基本的には3度と7度を、
4分の1音、もしくは半音、
微妙に下げた音階。
ハ長調でいえば3度はドレミのミ、
7度はドレミファソラシのシ。
CDEFGAHのEとH。
Bluenoteでは、
DとAはほとんど使われない。
Gを4分の1ほど下げる場合もある。
ちなみに日本の「ヨナ抜き音階」は、
「四七抜き音階」と書いて、
四つ目のFと七つ目のHを抜いた音階。
ドレミソラ、CDEGAのこと。
ブルースはEとHを抜き、
日本の民謡や動揺はFとHを抜く。
スコットランド民謡にも、
FとHの抜けた御音階の歌が多い。
Blueanoteのブルースは、
その旋律や歌詞が共感を呼んで、
アメリカの北部にも広がっていった。
当初はアコースティックギターを弾き、
切々と歌った。
ミシシッピ川のデルタから生まれたので、
デルタブルースといわれる。
それがカントリー&ウェスタンと同期して、
カントリーブルースとなった。
さらにアコースティックギターが、
エレキギターに変わり、
セミアコースティックギターや、
ソリッドギターを使い始めると、
ドラムやベース、キーボードが入って、
バンド形式となる。
それがシカゴを中心に発展した、
シカゴブルースだ。
200㎡ほどの店の中央にステージ。
そのステージを囲んで、
簡素なテーブルと椅子の客席。
100席ほど。
バーカウンターが店の入口と奥にある。
ステージ脇にはビリヤード台が3台。
私たちはステージ袖の席を確保して、
迫力のあるブルースを堪能した。
そして最後に、御大、登場。
バディ・ガイ。
白いシャツ、グレーのズボン、
黒っぽい帽子をかぶって、コンビの靴。
今夜はもうギターを弾かず、
ジミー・ジョンソンに伴奏させて、
語りながら、歌った。
日曜漫歩にふさわしい歌と演奏。
シカゴ・ブルースの神ともいうべき、
バディ・ガイ。
語って歌って、
私たちを楽しませてくれた。
つまり神はこの晩、
歌って、働いた。
この日は水曜日だった。
〈結城義晴〉