山頭火「春の雪ふる」とセブン‐イレブン「サンドイッチ改革」
暑さ寒さも彼岸まで。
しかしその彼岸の中日、
つまり春分の日の祝日に、
関東甲信越に春の雪。
横浜でも1センチほど積もった。
うれしいたよりも
かなしいたよりも
春の雪ふる
〈種田山頭火〉
山頭火は尾崎放哉と並んで、
日本を代表する自由律の俳人。
この道しかない春の雪ふる
〈種田山頭火〉
「この道しかない」は、
人生を決断した思い。
「うれしいたよりもかなしいたよりも」も、
これも、人間の思い。
「春の雪ふる」はいま目の前の情景。
「思い」と「情景」の組み合わせは、
俳句の基本技法。
自由律俳句の名人は、
意外なようだが、
基本技法を駆使している。
昨日の日経新聞。
「セブン-イレブン・ジャパンが、
サンドイッチの賞味期限を
3割伸ばす」
セブンのサンドイッチの売れ筋1位は、
「ミックスサンド」(税込み250円)。
3位は「シャキシャキレタスサンド」で、
これも250円。
この2品で、なんと、
サンドイッチ全体の約3割を売る。
セブンのサンドイッチの売上高は、
年間1300億円程度。
だからこの2品だけで約390億円。
この2品は具材にレタスを使っている。
そのレタスに関する刷新。
この商品の従来の問題点。
「パン生地がレタスの水分を
吸い込んでしまうため、
長時間保存するとパンが湿り
味や食感が変わっていた」
改善の工夫。
「小麦粉の配合を1割超増やすことで
生地のしっとりとした食感を保ちながら
賞味期限を伸ばした」
これまでは「製造から30時間」が、
店頭での販売期間だった。
他のサンドイッチよりも短かった。
それが「40時間」となる。
この「賞味期限」の3割増は、
売上拡大につながる。
セブンは1月に埼玉県内でテスト販売した。
この2品の売上げが2割伸びた。
サンドイッチ全体でも1割増えた。
この2割に関して、
「朝と昼の売れ行きは変わらず、
品薄になりがちな夜間の売上げが伸びた」
おそらく賞味期限が長くなって、
撤去したり廃棄したりしなかったために、
品切れが減ったからだろう。
この実験で、
サンドイッチの食品ロスは、
1店舗あたり5%超減った。
いい実験だし、いい改善である。
セブン-イレブンの真骨頂。
鈴木敏文前会長が去っても、
この社風は堅持されている。
日経の記事は、
イオンリテールの改革も報告する。
「2017年から順次、
酸化や細菌の繁殖を抑える包装を採用」。
「鮮魚や精肉100品目以上を対象に、
新包装を導入」
その結果、消費期限が、
1.5倍程度、伸びた。
これもロスの削減と売上げ増につながる。
ファミリーマートは17年9月から、
惣菜の容器に「窒素ガスを充填」。
賞味期限は2日前後から約5日に伸ばした。
ただし、惣菜の賞味期限が5日になっても、
それが肝心のおいしさや鮮度を、
担保することになるかどうか。
こちらはそう単純な話ではない。
「同じような事例」を並べても、
それが本質をついたり、
傾向を導き出したりするわけではない。
日本の食品ロスは推定年間約621万トン。
2015年の「国連持続可能な開発サミット」
30年までのフードロス50%削減を決議。
しかしこの国際的な食品ロスの問題と、
セブン-イレブンの改革は、
つながっているようで直結してはいない。
セブンの基本はマーケティングにある。
そこからの発想が結果的に、
廃棄ロスと機会ロスを削減した。
ここに現代の商売としての価値がある。
朝日新聞「折々のことば」
第1056回。
賢者は、
自分がつねに
愚者になり果てる
寸前であることを
胆に銘じている。
〈オルテガ・イ・ガセット〉
スペインの思想家オルテガ。
その名著『大衆の反逆』から。
「放っておけば人はすぐに
『自分の思想の限られた
レパートリーの中』に
安住してしまう」
「自分を超えるもの、
自分の外にあるものへの
感覚をなくしてしまう」
人は易きに流れやすい。
「それを鈍らせないためには、
たえず『自分を疑う』ことが必要だ」
編著者の鷲田清一さん。
「これより先に行けば危ない、
それを言っちゃあお終いよ、
という限界の認識も
その中で磨かれる」
オットー・ビスマルクの言葉が浮かぶ。
「愚者は経験に学び、
賢者は歴史に学ぶ」
しかしこれは、
ビスマルクの真意ではない。
正しくは、
「愚者だけが、
自分の経験から学ぶと信じている。
私はむしろ、最初から、
自分の誤りを避けるため、
他人の経験から学ぶのを好む」
オルテガはビスマルクの真意に近いし、
それをポストモダンとして深めている。
しかし山頭火にも、
オルテガに通じる句がある。
どうしようもない私が歩いている
春の雪に、山頭火を思った。
〈結城義晴〉