「戦なき世」の肉声と阿波踊りの「品質は維持・向上させよ」
戦(いくさ)なき
世を歩みきて
思ひ出(い)づ
かの難(かた)き日を
生きし人々
今上天皇陛下の歌だ。
千鳥ケ淵戦没者墓苑に歌碑がある。
今日の「終戦の日」。
二大新聞の巻頭コラムが、
同じ歌を取り上げた。
日経新聞「春秋」と毎日新聞「余録」。
まず「春秋」――。
「月遅れのお盆と、
終戦の日が重なったのは
歴史の偶然だ」
「迎え火、送り火をたいて
故人をしのぶ。
その習俗とともに、
総力戦の悲劇を省みる。
死者を悼み、彼らの無念を忘れずに
戦後社会を築く精神風土を育んできた」
この精神風土。
大切にしたい。
エドマンド・バーク。
18世紀の英国の政治哲学者。
「国家とは、現存する者、
既に逝った者、
将来生を受ける者の間の
パートナーシップである」
素晴らしい。
「余録」――。
昭和天皇の玉音放送の2週間後、
香淳(こうじゅん)皇后が、
今の天皇陛下に手紙を書いた。
当時11歳だった。
「おもうさま 日々 大そう
ご心配遊(あそば)しましたが
残念なことでしたが
これで 日本は
永遠に救はれたのです」
昭和天皇ご夫妻も「永遠に救われた」が、
実子への”肉声”だったと、余録は書く。
平成最後の”終戦の日”となる今日。
「全国戦没者追悼式で
おことばを述べる天皇陛下には
73年前の夏に受け取った手紙から
始まった戦後だった」
「内外の戦没者の魂に
平和を誓うこの日、
痛恨の肉声を
歴史意識によみがえらせる営みの
絶えることがないよう願う」
同感だ。
さてお盆の真っ最中だが、
各地で夏祭りやイベントが開かれる。
徳島県の阿波踊り。
高知県のよさこい祭り。
長崎県の精霊流し。
京都の大文字焼き。
この中でも阿波踊り。
例年、8月12日に始まって、
15日に終わる。
しかし今年はもめにもめた。
昨年まで阿波踊りを主催していた、
徳島市観光協会が4億円超の累積赤字で、
現在破産手続き中。
そこで徳島市や徳島新聞社などを中心に、
実行委員会が発足して主催する。
その実行委員会が決めたのが、
総踊りの中止。
阿波踊りの収入源は、
有料演舞場のチケット販売だが、
実行委員会はその売上げ増進策として、
総踊りを担う南内町演舞場の有名連を、
分散させる方策を立てた。
これまで総踊りは、
南内町演舞場のフィナーレを飾っていた。
しかし、1カ所では、
設置できる桟敷席の数には限度がある。
そこで総踊りを止めるかわりに、
4カ所の有料会場に踊り手を分散して、
観客を分散させると同時に、
チケット販売額を伸ばす作戦をとった。
私には「浅知恵」としか思えない。
総踊りを仕切る阿波踊り振興協会は、
徳島市長らの決定に猛反発して、
自分たちで総踊りを強行した。
振興会の山田実理事長。
「どんなことを言われても負けません。
頑張って総踊りをどこかで
やろうと思います。
踊る阿呆ですから、
何ごとがあっても
やり遂げたいと思います」
私も2011年に、
阿波踊りに参加したことがある。
総踊りは最大の見せ場だ。
その最大の魅力、
いわば阿波踊りの「芯」をなくして、
売上げを増やそうとするのは、
「利益主義」である。
うまくいくはずはない。
実際にチケット販売額は低下した。
もめているという風評被害もあるだろう。
赤字の解消には、まず、
阿波踊りに関連する者が一丸となること。
そのうえで利益を上げる五つの法。
第一は、「利は元にあり」
第二は、「利は売りにあり」
第三は、「利は内にあり」
第四は、「利はこの品にあり」
第五は、「利は他の品にあり」
そしてこの五つすべてに条件が付く。
「しかし品質は維持・向上させよ」
総踊りを中止するのは、
品質の維持・向上とはならない。
あれだけの人が集まる日本最大の祭りだ。
赤字は放漫経営によるものだろう。
だとしたら徹底すべきは、
「利は内にあり」に違いない。
徹底して無駄なコストを削減する。
そして「品質は維持・向上させる」
目先の売上げに走ってはいけない。
滋賀県彦根市に本部を持つ(株)平和堂。
「HATOC夏祭り」を主催する。
「HATOC」(ハトック)は本部の愛称。
単なるHead Officeではなくて、
研修や教育訓練の場としても機能する。
H ——- Head Office
A ——- And
T ——- Training
O ——- Omotenashi
C ——- Communication
オープンオフィス化によって、
ワークスタイルを改革する。
そのHATOCの建物の前に、
広大な駐車場がある。
この駐車場を使って、
HATOC夏まつりを開催。
ゆるキャラも登場するし、
Bリーグ滋賀レイクスターの選手・監督も来る。
左手には平和堂のビバシティ彦根。
盆踊りも開催されて盛り上がる。
平和堂社員・従業員が裏方を担う。
HATOC夏まつりは、
利益を求めるものではない。
地域サービス、顧客サービスの一環だ。
各地のリージョナルチェーンや、
ローカルチェーン。
インディペンデントも、
ショッピングセンターももちろん、
夏祭りはそれぞれに、
開催されているだろう。
地域の「夏祭り」への協力も、
それぞれになされているだろう。
もっともっと力を入れたい。
日本の夏祭り。
「戦なき世」を、
象徴するものだ。
しかし「利は内にあり」。
品質は維持・向上させよ。
〈結城義晴〉