ミドルマネジメント研修会2日目の「リベラル・アーツ」
すぐ役に立つことは、
すぐに役立たなくなる。
元灘高校教頭の故橋本武先生。
リベラル・アーツの大切さを説いた。
Liberal Arts。
原義は「人を自由にする学びごと」
欧米のエリート大学はいずれも、
リベラル・アーツ教育が基本である。
私が特任教授を務めた立教大学も然り。
文科系・理科系の幅広い分野を学ぶ。
ハーバード大学は、
4年間のリベラルアーツ教育を受けた後で、
医者の道を歩む者は、
メディカルスクールという大学院へ進む。
弁護士や裁判官になりたいなら、
ロースクール大学院へ行く。
マサチューセッツ工科大学も、
みっちりとリベラルアーツを学んでから、
それぞれの専門分野の研究に進む。
日本の東京大学の教養課程はそれだが、
たいていの日本の大学への要望は、
「社会に出てすぐ役に立つ学問を教えてほしい」
しかし世界の最先端大学の考え方は、
「すぐに役に立つことは、世の中に出て、
すぐ役に立たなくなる。
すぐに役に立たないことが実は、
長い目で見ると、役に立つ」
現代の大学教育の学士課程では、
人文科学・社会科学・自然科学の基礎分野を
横断的に教育する科目やプログラム。
商人舎ミドルマネジメント研修会も、
考え方はリベラル・アーツに似ている。
第14回ミドルマネジメント研修会。
湯河原のニューウェルシティの2日目。
1日目に学んだことを、
どれだけ理解したか。
自分自身で自分自身の理解度を図る。
それが本来の目的のテストだ。
この研修会は、
2日目の朝と3日目の朝に、
理解度テストを行う。
研修会終了後、
課題レポートを提出してもらい、
テストが2回で50点、
課題レポートが50点の配点。
合計をSABCDの5段階で評価する。
しかし、派遣企業の担当の皆さんには、
これをパワハラの材料としてはならない、
と、言っている。
あくまでも理解したかどうかを
判断するものだからだ。
そしてテストに向かうために、
各自が復習し、テストの30分間、
必死で、設問に対する考察をする。
この考察の30分間が大事だ。
今日のこの30分と同じような、
濃密な熟考の時間を、
仕事の上でも毎日とりなさい。
あるいは1週間に一度くらいでもいい。
同じ30分間でも、
長く感じる人もいるだろうし、
短く感じる人がいるだろう。
しかし30分の熟考。
これは大いにやってほしい。
こうして朝の濃密な時間が過ぎ、
理解度テストは終わった。
9時から2日目の講義。
現場で使える計数指導の第一人者。
シラベ・リテイル・システム研究所代表。
そのうえで、会場を回って、
受講者一人ひとりに指導していく。
ミドルマネジメント研修会は、
ドラッカー・マネジメントをベースにする。
井坂さんはドラッカーの研究者の一人で、
上田惇生先生が信頼を寄せる。
そのドラッカー・マネジメントの考え方を、
わかりやすく講義してくれる。
そのあと、受講生からの質問を受ける。
山星屋の鳥家(とや)誠さん。
広域関東事業部老境営業部営業課長代理。
井坂さんの最新刊を持って写真。
タイトルは、そのものずばり、
『P・F・ドラッカー』。
サブタイトルは、
「マネジメント思想の源流と展望」。
2日目の5・6・7講義は結城義晴の担当。
ナレッジ・マネジャーのための、
マネジメントを3時間半語りつくす。
初めに、白部先生の計数の補足として、
日本の主要小売業の経営数値を示して、
ROA経営の重要性を説いた。
そのうえで、知識社会の知識商人とは、
どのようなものかを語って、
1講義目を終える。
2日目は朝8時から夜の8時まで続く。
まだまだ元気な受講生たち。
その後、講義では、
マネジメント理論の変遷から
日本チェーンストアが抱える課題までを、
丁寧に整理する。
さらにミドルマネジメントのための、
ドラッカーの方法を指導する。
ドラッカーの説いた責任の組織化、
自己管理による目標管理、
それが大企業病にならないために、
極めて重要なのだ。
そして一気呵成に、
コミュニケーションから、
リーダーシップの実践法までを講義。
ケン・ブランチャードが、
リーダーシップ論で整理した、
4つのスタイル。
自分がどのスタイルに当てはまるのかを、
受講生に聞いた。
部下の発達段階に応じた指導法には、
受講生も関心が高い。
夕食を済ませると、
着替えもせず、再び会場に戻って、
自習を始める受講生たち。
今日という一日は、
まだまだ続くのだ。
倉本長治の言葉が浮かぶ。
この一瞬の積み重ねこそ
君という商人の全生涯。
頭を使えば使うほど、
熟考すれば熟考するほど、
その知識商人のレベルは上がっていく。
そして人間がものを考えるとき、
その根底にリベラル・アーツが必要になる。
すぐ役に立つことは、
すぐに役立たなくなる。
しかしものを考えるときには、
そのすぐに役立たないようなことが、
役に立ってくる。
変化に対応するためには、
すぐに役立たないように見えることが、
必要となるのだと思う。
〈結城義晴〉