トランプ&金正恩会談と孔子の「仁」の「苟志於仁矣 無惡也」
ドナルド・トランプ大統領と、
キム・ジョンウン委員長。
アメリカ合衆国大統領と、
朝鮮民主主義人民共和国委員長。
今夜、ベトナムの首都ハノイで、
二度目の会談をした。
契約しているAbemaTVで見た。
世紀の第一回会談は昨2018年6月、
シンガポールで行われた。
その結果、3つの共同声明に署名。
1)新しい米朝関係の確立
2)朝鮮半島における平和体制の構築
3)朝鮮半島の完全な非核化
しかしその後、
米朝の非核化交渉は膠着状態にあった。
28日の会談後に両首脳は、
新たに合意文書への署名を予定している。
2017年9月段階では、
トランプは金正恩を、
「リトルロケットマン」と呼び、
金正恩はトランプを、
「おいぼれ」と切り返した。
それが2回の首脳会談で、
互いに人間関係を結んだらしい。
それぞれの思惑があって、
その腹の内を知ることはできないが、
朝鮮半島の平和体制の構築と、
完全な非核化が実現する方向で、
話し合ってほしいものだ。
昨日の田村正紀先生との対話。
博学の先生は孔子の「仁」を語った。
孔子は紀元前500年前後の思想家。
2500年も前の春秋時代の中国の人。
それが朝鮮半島の人々に、
強く影響を与えた。
日本人にも、もちろん中国人にも。
「仁」こそ、
論語のエッセンスだ。
東洋思想の源である。
仁とは「人偏」に「二」と書く。
人と人との二人のより良い関係。
そんな徳を「仁」という。
田村先生は、中国人から直接教えられた。
深作欣司監督作品『仁義なき戦い』は、
組織と組織の抗争を描くが、
本来、「仁義」の「仁」は、
一対一のものだ。
その孔子の「仁」。
韓国も北朝鮮も、中国も日本も、
儒教の国だ。
孔子の考え方が根底にあるはずだ。
「子曰。
巧言令色。鮮矣仁。」
子曰わく、巧言令色、鮮し仁。
下村湖人の『現代訳論語』がいい。
青空文庫でも読むことができる。
下村は『次郎物語』の著者。
小学生のころ読んだ。
「巧みな言葉、
媚びるような表情、
そうした技巧には、
仁の影がうすい」
これはポピュリズムの正反対の考え方だ。
以て自戒とすべし。
漢文、読み下し文、現代語翻訳。
ちょっと難しいかもしれない。
だから以下は湖人訳だけ読んでもいい。
「子曰。
我未見好仁者惡不仁者。
好仁者無以尚之。
惡不仁者其爲仁矣。
不使不仁者加乎其身。
有能一日用其力於仁矣乎。
我未見力不足者。
蓋有之矣。
我未之見也。」
これは少し長い。
読み下し文は――。
子曰わく、我未だ仁を好む者、
不仁を悪(にく)む者を見ず。
仁を好む者は、以て之に尚(くわ)うる無し。
不仁を悪む者は、其れ仁を為さん。
不仁者をして其の身に加えしめず。
能く一日も其の力を
仁に用うること有らんか。
我未だ力の足らざる者を見ず。
蓋(けだ)し之れ有らん。
我未だ之を見ざるなり。
下村湖人訳。
「私はまだ、
真に仁を好む者にも、
真に不仁を悪(にく)む者にも
会ったことがない。
真に仁を好む人は
自然に仁を行なう人で、
まったく申し分がない。
しかし不仁を悪む人も、
つとめて仁を行なうし、
また決して
不仁者の悪影響を
うけることがない」
「せめてその程度には
誰でもなりたいものだ。
それは何もむずかしいことではない。
今日一日、今日一日と、
その日その日を
仁にはげめばいいのだ。
たった一日の辛抱さえできない人は
まさかないだろう。
あるかも知れないが、私はまだ、
それもできないような人を
見たことがない」
これは商売や仕事に通じる。
「子曰。
人而不仁。如禮何。
人而不仁。如樂何。」
子曰わく、
人にして不仁ならば、礼を如何せん。
人にして不仁ならば、楽を如何せん。
下村湖人。
「不仁な人が礼を行なったとて
なんになろう。
不仁な人が楽を奏したとて
なんになろう」
手厳しい。
「子曰。不仁者。
不可以久處約。
不可以長處樂。
仁者安仁。知者利仁。」
子曰わく、
不仁者は以て久しく約に処るべからず。
以て長く楽に処るべからず。
仁者は仁に安んじ、知者は仁を利す。
下村訳は長くなる。
「不仁な人間は、
長く逆境に身を処することもできないし、
また長く順境に身を処することもできない。
それができるのは仁者と知者であるが、
仁者はどんな境遇にあっても、
仁そのものに安んずるがゆえに
みだれないし、
知者は仁の価値を知って
努力するがゆえにみだれない」
「知者は水を楽しみ、
仁者は山を楽しむ」
これも孔子の言葉だ。
「知恵のある人は水のように自在に動き、
徳の高い人は山のように動じない」
最後に、
「子曰。
苟志於仁矣。
無惡也。」
子曰わく、苟(いやし)くも仁に志せば、
悪しきこと無きなり。
下村胡人訳。
「志がたえず仁に向ってさえおれば、
過失はあっても、
悪を行なうことはない」
願わくば、
ドナルド・トランプには、
孔子の詰めの垢でも煎じて、
飲ませたいものだ。
それは無理だろうから、
せめてバイブルでも思い出してほしい。
もちろん金正恩も。
そして社長や部長や店長も、
編集者やコンサルタントにも、
必須の考え方である。
商業界の創始者・倉本長治師。
「バイブルや論語には
金儲けは書いてない
でも金儲けの中には
バイブルや論語が
必要なのである」
やっぱり、長治先生はすごいなあ。
〈結城義晴〉