連合30年/高木剛の「格差」とトレーダー・ジョーの「格差克服店舗」
「連合」が、
結成30年を迎えた。
「日本労働組合総連合会」。
感慨深い。
労働運動では、
「ナショナルセンター」と呼ぶ。
これは「全国中央組織」のことだが、
現在の日本では「連合」だけといっていい。
30年前は労働4団体と言われた。
政党やイデオロギーと組みつつ、
乱立していた。
旧社会党系の「総評」は、
日本労働組合総評議会。
旧民社党系の「同盟」は、
全日本労働総同盟。
そして「中立労連」は、
中立労働組合連絡会議。
全国産業別労働組合連合が「新産別」。
懐かしい。
この4分立は 23年間続いた。
私が㈱商業界に入社した1977年、
商業界の労働組合は「総評」系だった。
総評全国一般東京南部支部に属して、
「国労」などと共闘し、
少し過激な活動もしていた。
私は行かなかったが、
三里塚闘争などにも、
参加していた。
30歳になる前に、
私は商業界分会の執行委員長になって、
「職場づくり」をテーマとした。
今で言う「働き方改革」である。
そして政治的活動とは、
ちょっと距離を置いた。
その後の1989年、総評も同盟も、
「連合」として一つにまとまった。
全国一般東京南部は、
それに参加しなかった。
私はちょうどその1989年に、
編集長という管理職となって、
労働組合を辞めた。
「連合」結成の結果と言っていいだろうが、
社会党も民主党も消えていった。
そして非自民党による政権交代が、
二度も起こった。
一度目は1993年、
細川護熙連立政権であり、
二度目は2009年、
民主党を中心にした、
鳩山由紀夫政権樹立である。
高木剛さんは、
2005年から2009年まで、
連合会長を務めた。
初代は山岸章さん、
第2代がゼンセン同盟の芦田甚之助さん、
第3代目が鷲尾悦也さん、
第4代が笹森清さん。
第5代が高木剛さんで、
その後、第6代古賀伸明さん、
第7代神津里季生さんと続く。
私は2007年に㈱商業界社長を辞して、
2008年2月に㈱商人舎をつくった。
高木剛さんには、その発足の会で、
発起人のお一人になっていただいた。
その高木さんが、
連合30年の節目に、
日経新聞に登場して発言した。
高木さんは旭化成工業出身。
ゼンセン同盟会長を経て、連合会長。
東京大学野球部で活躍した。
三重県生まれの76歳。
今も、お元気そうだ。
「集まりは大きいほどいい。
政治の本質は一つにまとまることだ」
かつては企業経営も、
「大きいほどいい」と考えられた。
「労働戦線統一の時に
表向きは誰も言わないが、内心は、
選挙が一緒にできると皆思っていた。
それが民主党政権の樹立につながった」
しかし民主党政権は短かった。
「政権党と付き合うのが不慣れだった。
英国の当時の労組幹部からは
“与党と付き合うのは大変だ”と
言われたものだ」
英国は保守党と労働党の二大政党制だ。
連合は当然ながら、
その「労働党」と交流した。
「与党になってから注文をつけなくなった。
連合が一歩引いた面があった」
しかし高木さんは会長時代に、
「非正規労働センター」をつくった。
自分でも「成果の一つだ」と述懐する。
「格差社会が進み、
少数の人に富が集中している。
どうやって格差を縮小すればいいか、
注力したが道半ばだった。
問題は今も共通だ」
現在は「働き方改革」と、
お題目だけは安倍政権が主導する。
つまり自民党が、
連合の本来の主張を肩代わりする。
その意味では、捻じれた政局のなかで、
長期政権が維持されてきた。
「格差」が拡大する中で、
それを縮めるのが、
小売業の機能だ。
サービス業の役目だ。
亡き大髙善二郎さんの言葉。
いつも思い出す。
㈱ヨークベニマル元社長。
現大髙善興会長の兄上。
「われわれのコストダウンの努力を、
率直に価格に反映させる。
その結果、去年の今月と比べて、
同じ商品を同じ量、買っていただいて、
1カ月に1万円分、お客様に還元できたら、
それがこの地域のお客様全員に、
1万円のベースアップをしたことになる」
高木さんの「格差」への意識と、
ヨークベニマルに貫かれる思想は、
合致している。
さて、アメリカから帰って、
思い出すのはある企業のこと。
宿泊はサンフランシスコ。
ホリデーインゴールデンゲートウェイ。
このホテルの良さ。
ホールフーズのサンフラン1号店に、
1ブロックだけ坂を登ると行ける。
それからトレーダー・ジョー。
略してTJ。
2ブロック歩くと買物に行ける。
入口にケーブルカーのイラスト。
そして「Welcome」
青果部門は標準型TJよりいい。
平台エンドでは柿の大量陳列。
もちろん夜9時の閉店まで、
デモンストレーションは続けられる。
いつでも試食できるし、
無料のコーヒーが飲める。
グロサリーは9割以上が、
プライベートブランド。
安くて、良い。
誰でも買える値段で、
安全で安心でおいしい。
所得格差を全く感じさせない。
天井は珍しくスケルトン。
TJの心地良さが倍増されるほどの快適さ。
このホテルに泊まると、
朝でも夜でも、もちろん昼でも、
この「格差克服店舗」に行ける。
たとえ政治的活動と距離をおいても、
社会が抱える根本課題に対応できる。
それが小売業であり、
サービス業であり、
消費産業である。
素晴らしい。
〈結城義晴〉