米国大リーグ野球の女性コーチ誕生と水島新司の先見性
2月9日の晩は満月。
アメリカでは、
2月の満月を「Snow Moon」と呼ぶ。
ロマンチックだ。
今年の3月の満月は、
10日で「Worm Moon」、
土から虫が顔を出す頃の満月。
あるいは「Sap Moon」、
メープルの樹液が出るころの満月。
そして4月は8日で「Pink Moon」。
フロックスのピンク色の花が咲くころ。
ネイティブアメリカンが名づけたが、
どのネーミングもロマンチックだ。
さて、大リーグベースボールに新風。
3人の女性コーチが誕生している。
第1はシカゴ・カブス。
傘下マイナーチームで、
レイチェル・フォールデン女史を、
打撃研究所の主任と、
ルーキーリーグの4番目のコーチに起用。
フォールデン女史は、
元プロソフトボール選手。
現役を引退したあとは、
自ら設立したトレーニング施設で、
野球とソフトボールの教室を主宰。
最先端の科学的データに基づいて、
打撃コンサルタントをする。
第2は、
名門ヤンキース。
32歳のレイチェル・バルコベックさんが、
女性打撃コーチに就任する。
〈MLBnewsより〉
こちらのニュースは、
共同通信が配信して、
一般紙、スポーツ紙が報じた。
メジャーリーグの球団では、
初の女性フルタイム打撃コーチだ。
奇しくもファーストネームは、
同じ「レイチェル」である。
こちらはネブラスカ州オマハ育ち。
オマハのクレイトン大学で、
ソフトボールの捕手をしていた。
2012年にはルイジアナ州立大学で、
運動生理学の修士号を取得。
二つ目の修士号は2018年に、
オランダのアムステルダム自由大学で修得。
テーマは人体の動きの科学的分析。
クリケットと野球の選手の視線が、
球をどう追うかを把握する先端研究だった。
初めにプロ野球界で、
職を得るために応募しても、
当初は「なしのつぶて」だった。
そこで、
履歴書のファーストネームを変えた。
レイチェルからレイに。
すると、電話がかかり始めた。
しかし電話の声を聞いて驚き、
皆、二度と電話してこなかった。
それでも、バルコベックさんは2012年、
カージナルスのマイナーチームで、
ストレングス・コンディショニング職を得る。
臨時雇いのコーディネーターだった。
しかしこの年、
このアパラチアンリーグで、
ストレングス・コーチ賞を獲得。
次に2014年と15年の2年間、
やはりカージナルスのマイナーで、
ストレングスとコンディショニングの、
常勤コーディネーターを務めた。
それからアストロズへ。
独学のスペイン語を駆使して、
中南米系選手の専任も務めた。
このアストロズ時代からの同僚の発言。
ヤンキース打撃コーチを務める、
ディロン・ローソン。
「ともかく、選手かコーチとして、
レイチェルと一緒に、
グラウンドに立ってみればいい」
「そうすれば彼女が、
相手のために努力し、
自分の専門知識を深めることで
選手の上達に貢献してくれるのが、
明らかだということがわかる」
神は現場にあり。
三番目は、
サンフランシスコ・ジャイアンツ。
アリッサ・ナッキンさんが、
アシスタントコーチとなる。
すでにユニフォーム姿が公開された。
〈ジャイアンツ公式ホームページより〉
ナッキンさんも、
サクラメント州立大学で、
ソフトボール選手として活躍。
その後、サンフランシスコ大学で、
野球部のCIOを務め、
スライドするように2014年、
ジャイアンツに入団。
今季から監督に就任するのが、
元読売巨人軍のゲーブ・キャプラーだが、
ナッキンさんがアシスタントコーチとして、
キャプラー監督を支える。
どの世界よりも、
男性社会だったメジャーリーグに、
大きな変化が起きている。
バルコベックさん。
「男性より努力しなければいけなかった。
そのおかげで挑戦への準備ができた」
振り返ってみると実は日本でも、
女性プロ野球選手は生まれている。
水島新司の漫画『野球狂の詩』
その名も、
水原勇気(みずはらゆうき)。
架空ではあるが、
女性のプロ野球選手で、
アンダースローの左投手。
1975年、女性初のプロ野球選手として、
東京メッツにドラフト1位で指名された。
当時の野球協約第83条第1項の条文。
「医学上、男子でない者は
支配下選手になれない」
現実の野球界では1991年に、
この条文は削除されている。
漫画の世界では、
この協約を乗り超えて、
水原勇気は入団する。
当時は、アンダースローの左投手は、
日本プロ野球界には存在しなかった。
球威はないが、コントロールは抜群で。
「ドリームボール」という魔球を操って、
ストッパーとして活躍した。
勝ちゲームの9回2アウト2ストライクから、
「1球限定」の起用をされた。
ユニークなポジショニングを持つ投手だった。
ちなみに『野球狂の詩 平成編』で、
水原勇気は40歳を超えて、
投手コーチ兼現役投手として復帰した。
水島新司さんの想像力は、
45年も前にメジャーリーグを超えていた。
男性より努力しなければならない。
しかしそのおかげで、
ユニークな挑戦ができる。
「ともかく彼女と一緒に、
現場に立ってみればいい」
それはすぐにわかる。
ロマンチックな話だ。
〈結城義晴〉