セブン-イレブン「人事評価の”脱売上至上”」は「終わりの始まり?」
暑い暑いお盆の中日。
東横線、南武線、武蔵野線を乗り継いで、
東京都内の新小平へ。
神奈川県から東京都へと、
外側をぐるりと回る。
武蔵野線はガラガラ。
第一屋製パン㈱の取締役会。
戦略論の権威J・バーニーが提唱するのが、
「模倣困難性」。
真似のできない技術や組織。
これが獲得できると、
競争優位性は継続される。
「おいしさにまごころこめて」も、
模倣困難なところまで達すると、
ついてくるものはいない。
夕方には銀座へ。
こちらは東横線と日比谷線を乗り継いだ。
東横線はそこそこ混んでいて、
私はソーシャルディスタンシングで、
ずっと立っていた。
地下鉄日比谷線は、
5時台にもかかわらずガラガラ。
そして銀座の外堀通り。
向こうは数寄屋橋交差点。
昨年11月16日オープン、
ジクロス・ギンザ・ジェムズ。
1階はテーラーメイドゴルフのショップ。
2階から上は肉の名門店がずらり。
7階の山科へ。
和牛焼肉のフルコース。
ビールとスパークリングワイン、
そして赤ワインを楽しんだ。
最後はすき焼き。
卵と黒トリュフをたっぷり。
これにご飯をのせて、締め。
ん~、美味。
最後の最後はそーめん。
そしてデザート。
今夜は工藤澄人さんと一緒。
元「月刊商業界」編集長。
倉本長治先生が創刊したこの雑誌を、
社内では「本誌(ホンシ)」と呼んだ。
「本誌」は、
本家と分家の「本家」のようなニュアンス。
「販売革新」誌は「ハンカク」と呼称し、
「食品商業」誌は「ショクヒン」と略した。
それ以外の「飲食店経営」は「インショク」、
「ファッション販売」は「ファッション」。
本誌以外の4誌は、
倉本初夫二代目主幹が創刊した。
最後の月刊誌「コンビニ」は、
私が創刊した。
4月2日に㈱商業界が自己破産して、
工藤さんは最後の本誌編集長となった。
商業界に入社した新入社員時代から、
食品商業編集長の私の直属の部下で、
優れた筆の力を特長とした編集者だ。
工藤さんも編集長時代には、
学習院大学の講師を務めた。
私が直接育てた人材は、
出来不出来はあったが、
例外なく全員が編集長となった。
その中でも工藤さんは、
抜群の文章力と企画力を持っていた。
良い意味での「職人的な編集者」だった。
だから取締役にもならなかった。
工藤さんはもう54歳だが、
私が商業界社長を退任したのが、
奇しくも同じ54歳。
昔話に花を咲かせ、
商業の世界の論理性を論じ、
新しい世界に挑戦する意気込みを聞いた。
いい夜だった。
さて日経「本紙」の一面記事。
「セブン、人事評価で脱”売上至上”」
セブン-イレブン・ジャパンが、
人事制度を抜本的に見直す。
これまではずっと、
「売上高で評価していた」
これからは、
「40項目の業務プロセス」を重視する。
オーナー支援などの項目がある。
日経記事。
「本部主導の画一的な店舗戦略を改め、
地域特性に合う店づくりを促す」
はて?
創業者の鈴木敏文さんは、
「画一的チェーンオペレーション」を排して、
「個店経営」を標榜してはいなかったか。
評価制度の抜本的な変更は、
「1973年の創業以来初めて」だという。
今回の人事制度変更の対象は、
「店舗経営にかかわる本部社員約3300人」。
彼らはいわゆる「スーパーバイザー」で、
OFCと略称される。
「オペレーションフィールドカウンセラー」
フランチャイズシステムの原動力である。
セブン-イレブンのこの役職は、
コンサルタント養成機関でもあって、
多くの優秀な人材を輩出した。
亡くなった小森勝さんもOFCだった。
立教大学大学院で講師をお願いした。
法政大学教授の並木雄二さんもOFC出身。
木下安治さんも岩本浩治さんも、
みなOFC経験者だ。
岩本さんの著書は工藤さんが編集した。
「商売で大事なことは全部セブン-イレブンで学んだ」
彼らは「個店経営」の考え方をもとに、
OFCとして店舗を管理監督・指導して、
それがコンサルティングの原点となった。
この新人事制度は、
今冬の賞与から反映される。
セブン-イレブンは2019年に、
24時間営業を巡って、
一部オーナーと関係が悪化した。
「無断発注」なども表面化した。
だからこの変更は、
「オーナーとの連携を重視する狙い」もあるという。
出店地区を統括する約300人の責任者は、
「エリアマネジャー」と呼ばれる。
つまりセブン-イレブンは全国に、
約300のエリアを設けている。
そのエリアマネジャーの部下がOFCで、
1人のエリアマネジャーは、
平均10人ほどのOFCを統括する。
OFCは1人平均8店舗の加盟店を担当する。
エリアマネジャーは、
「担当地区の売上高や利益の達成度合いが
人事評価の7割を占めていたが、
これを3割に引き下げる」
その一方で、
「オーナーへの経営助言や
売れ筋商品の理解度といった
業務プロセスを7割に高め、
オーナーとの連携を重視する」
ん~。
表現としてはまっとうに見えるが、
どうも抽象的な評価制度であるようだ。
人事制度は抽象的であればあるほど、
評価項目が増えれば増えるほど、
情実が入りこむ要素が増える。
約3000人のOFCも、
「業績評価の割合を4割から2割に下げ、
プロセス評価の比重を高める」
ん~。
これでは絶対に、
店舗競争力が落ちる。
売上評価を体験したスーパーバイザーが、
3000人もいるとすれば、
「プロセス評価」を理解させるために、
時間がかかる。
理解できたとしても、
理解度にばらつきが出る。
チェーンオペレーションは、
バラバラになる。
「売上高評価」は逆に、
シンプルでわかりやすい。
人間心理をつかみやすい。
私は売上至上主義を批判する。
それは経営者の考え方として、
売上至上主義は組織を駄目にするからだ。
反対に現場はゲーム感覚で、
売上高を競い合うほうが健全だ。
もちろん客数を増やし、
売上げを上げるために、
「プロセス管理」は必須だ。
しかし「プロセス管理」が主題となってはいけない。
小売サービス業の命題は一点、
「顧客満足」である。
「顧客満足」が「売上高」につながる。
その方法が「プロセス管理」である。
だが「顧客満足」は抽象的だ。
だから代わりに、
「客数」や「売上高」を指標とする。
それがチェーンオペレーションである。
記事の最後。
「19年末の大手コンビニ7社の店舗数は
05年の統計開始以来、初めて減少に転じた。
セブンも2万1000店弱で頭打ちだ」
「コンビニ大量出店は
見直しを迫られている」
見直しというよりも、
大量出店時代は終わった。
だから成長のためにセブンは、
米国スピードウェイを買収した。
私はそれを評価した。
しかし人事制度の見直しと変更は、
きわめて微妙で難しくて、
直接的なマネジメント問題だ。
核心にあるのは制度ではない。
マネジメントレベルである。
制度を変更して、
マネジメントレベルが上がるのならば、
それはいい。
しかし人事制度を変えて、
マネジメントレベルが落ちたら、
何の意味もないどころか、
弊害のほうが大きい。
世界に冠たるセブン-イレブン。
しかし、もしかしたらこれは、
終わりの始まりかもしれない。
「月刊コンビニ」創刊者としての、
コメントである。
〈結城義晴〉