秋の「丹沢と富士」を眺めながら「消費喚起」を考える
丹沢(たんざわ)山地。
一番高く見えるのが大山(おおやま)。
神奈川県の面積の6分の1を占める。
東西約50km、南北約30kmに、
あまたの山が連なる。
新横浜から東海道新幹線に乗ると、
一番先に見えてくる山だ。
それからすぐに富士山。
あたまをくもの上に出し
四方の山を見おろして
かみなりさまを下に聞く
富士は日本一の山
青空高くそびえたち
からだに雪の着物着て
かすみのすそを遠くひく
富士は日本一の山
(文部省唱歌「ふじのやま」)
厳谷小波作詞。
今日は見事な秋の富士。
雄大なその姿。
今年は頂のあたりの雪が少ない。
天高し富士の伸びゆく天の余地
(佐々木敏光句集「富士・まぼろしの鷹」から)
芭蕉も富士の句をつくっている。
霧しぐれ富士をみぬ日ぞ面白き
今日は霧がかかって富士が見えない。
それもよし。
河東碧梧桐の句。
この道の富士になり行く芒かな
水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)。
秋耕や富士をさへぎる山もなく
「秋耕」(しゅうこう)は、
秋の収穫が終わった後に田畑を耕すこと。
最後は、富士川と富士。
今日は大阪へ入る。
日経新聞「大機小機」
コラムニストは魔笛さん。
「消費喚起こそ改革の本丸に」
「菅義偉内閣が発足し、
自助共助公助を打ち出した」
その意味は、
「まず、自分の努力で
経済競争力を身につける。
競争に負けて生活に困窮する人には、
財政や社会保障で最低限の支援を行う」
コラムニストは学者だろう。
「これは、古くからの厚生経済学の発想だ」
つまり旧い学説。
「個人も企業も個々に
自分の利益だけを考えて頑張れば、
努力が積み重なって
経済全体も豊かになる」
「過剰な支援は努力への意欲をそぐから
最低限に抑えるべきだ」
ある種の競争原理だ。
「日本に旺盛な需要があるなら、
個々が努力して生産を伸ばせば、
すべて売れて所得増に直結する」
菅義偉が育った高度成長時代の発想。
しかし現実は、
バブル崩壊以降30年間、消費は低迷し、
それにコロナ禍が追い打ちかけている。
コラムニスト。
「こんな状況での競争力強化策は
逆効果を生む」
菅政権の具体策。
「地方銀行や中小企業の統合再編」。
私もこれは仕方がないと思う。
欧米はその道を歩んだ。
「それにより競争力をつけた企業では、
業績が改善し、
従業員の賃金も上がるであろう」
「しかし、総需要が増えない中、
生産面で効率化すれば必ず人が余る」
昨日のブログで書いたが、
日経新聞一面トップ記事。
「ミニミニストップ」の完全無人化。
生産性は上がるが、雇用は減る。
ポストコロナ時代の難題が横たわる。
「倒産や失業が増えて消費意欲が減退し、
かえって景気は悪化する」
これこそ、
マクロ経済学の「合成の誤謬(ごびゅう)」
コラムニストは小泉純一郎時代を振り返る。
「生産効率化を推し進め、
完全失業率は5%を超えた」
安倍晋三時代は、
「女性活躍や若者雇用拡大をうたい、
雇用は改善したが、
労働生産性の低い非正規雇用が
大幅に拡大した」
いずれにしても需要は増えず、
消費も国内総生産も低迷したまま。
選択肢は2つしかない。
「一部の効率的な企業や人材が
限られた需要を独占し残りは失業するか、
非効率な生産を続けて
需要を皆で分け合うかだ」
「前者は所得格差と社会の分断」を生む。
これはアメリカの状態。
「後者は低労働生産性と低賃金を生む」
「いずれも経済拡大効果はない」
菅内閣はいまのところ、
前者寄りの政策を選択をしている。
「それでは地方を中心に失業率が上がり、
格差が拡大して消費を抑えてしまう」
ただし私の意見。
競争の結果、経営が苦しくなるのは、
マーケットフォロワーだ。
ニッチャーは小さくとも生き残って、
大いに輝く。
フィリップ・コトラー先生。
そのフォロワーの衰退は、
廃業や失業を生むばかりではない。
経営統合すれば店は存続するし、
健全な企業に吸収されれば、
雇用は安定し、賃金は上がる。
コラムニストの主張。
「経済拡大には生産面の改革ではなく、
消費喚起を目指すしかない」
これには同感だ。
「金融緩和や大幅な赤字財政で
お金を増やしても
消費が増えないことは、
アベノミクスで実証済みだ」
菅政権の目玉の一つは、
携帯料金引き下げ。
しかし、すでに十分普及した携帯電話。
「需要増は期待できず、
赤字財政でお金を渡すことと同じだ」
つまりこれは、
大衆の人気取りに過ぎない。
結論は、
「地道に新需要を掘り起こすしかない」
富士をさへぎる山もなく。
富士の伸びゆく天の余地。
富士はある意味で「独占」状態。
丹沢は多数の山の競争状態。
富士は完成した霊峰だが、
丹沢は今でも、
徐々に隆起を続けている。
丹沢の状態のほうが、
成長は望める。
しかしすべては消費喚起だ。
税金のバラマキでは消費は生まれない。
こっちを押したらあっちが動く。
これを考える。
これしかない。
商業・サービス業の地道な努力。
日本経済全体にとっても貴重だ。
〈結城義晴〉