東京2020オリンピックのアスリートたちの「感謝」の意味
東京2020オリンピック。
終わりに近づいた。
メダルを獲得した選手。
惜しくも敗れた選手。
遠く及ばなかった選手。
例外なく言葉にするのが、
「感謝」
それだけ今回のオリンピックは、
実際の競技の舞台に立つまでの、
障害が大きかったのだと思う。
COVID-19の影響である。
1年遅れの開催も、
ある意味では仕方のないことだった。
けれどアスリートにとって、
この1年の延期は、
辛い辛い練習が、
1年伸びることだった。
表舞台に立つまでの緊張が、
1年続くことを意味した。
それに耐え抜いて、
ひのき舞台に立った選手たちは、
誰もが感謝の気持ちをもち、
ごく自然に、こころから、
感謝の言葉を発したのだろう。
私たちも、
生きていること、
仕事ができることに、
感謝したくなる。
商売の世界ならば、
お店があること、
お客さまが来てくれること、
そこで働くことに、
自然に感謝したくなる。
そういう感謝を実感する。
障害が大きければ大きいほど、
支えてくれる人たちへの、
感謝の気持ちも大きくなる。
反対が強ければ強いほど、
支持し応援してくれる人たちへの、
感謝の気持ちも大きくなる。
素晴らしいことだ。
しかしその感謝の気持ちを、
利用しようとする輩には、
大いに腹が立つし、
許してはならない。
それでもイエス・キリストは言った。
「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」
新約聖書『マタイの福音書』第5章。
アスリートたちの感謝には、
そういった無償の「愛」がある。
それが私たち全員が、
五輪延期から得られたものだ。
オリンピック最終日の前日にも、
素晴らしい活躍があった。
野球では侍ジャパンが、
アメリカに快勝。
「快勝」のお手本のようなゲームで、
しっかり守り、的確に攻めた。
結果は2対1。
稲葉篤紀(あつのり)監督の采配が光った。
稲葉は男を上げた。
その稲葉篤紀は名古屋生まれ。
中京大学中京高校から法政大学へ、
そしてプロ野球ドラフト3位で、
ヤクルトスワローズ。
さらに日本ハムファイターズへ。
引退後、解説者や打撃コーチを務め、
2017年から日本代表監督。
テレビなどで見るとわかるが、
右頬に大きな痕がある。
「太田母斑」と呼ばれる痣(あざ)だ。
原因不明の生まれつきのもので、
治療によって消したりすることもできる。
しかし稲葉は、
同じ症状で苦しむ人の励みになるよう、
あえて治療したり隠したりはしない。
そんな人柄が、
稲葉篤紀のリーダーたる所以だ。
良いリーダーが、
良い仕事をした。
私はそれがうれしかった。
レスリングも強かった。
レスリング女子50キロ級は、
須崎優衣選手が金メダル。
圧倒的な強さで、
全試合テクニカルフォール勝ち。
柔道で言えば合わせ技一本勝ち。
オリンピック開会式で、
バスケットボールの八村塁と一緒に、
国旗をもって入場したのが、
小柄な須崎だった。
その責任を感じつつも、
責任を果たした。
レスリング男子フリースタイル65キロ級では、
乙黒拓斗が残り14秒で逆転勝ち。
ひたすら勝利に向かって挑戦した、
才能と努力を兼ね備えたレスラー。
彼らもみな、
「感謝」の言葉を口にした。
朝に希望、
昼に努力、
夕に感謝。
毎日毎日、
この繰り返し。
そして無償の愛。
これも商売に通じることだ。
その無償のものに感謝しよう。
〈結城義晴〉