慈恵大学病院での手術と「タフでなければ生きていけない」
目が覚めると目の前に、
東京タワー。
今日の東京は雨模様。
街が煙っている。
今日、明日は絶食。
7時半から2リットルの液体を、
30分に500ミリリットルずつ、
飲み始める。
タワーが少しだけくっきりしてきた。
昼すぎまで腸の中を、
すべてきれいにする。
12時ごろ点滴の準備。
そして午後1時から、
4階の手術室に降りて、
手術が始まる。
執刀医は炭山和毅教授。
慈恵医科大学内視鏡部診療部長。
この病院で年間2万例以上、
慈恵大学附属4病院合計で、
4万8000件以上の検査治療を実施して、
慈恵は世界最大級の内視鏡センターである。
左手に点滴、
右手は血圧計。
鼻には酸素吸入。
そのまま眠ってしまった。
行きは自分で歩いて、
帰りはストレッチャーに寝たまま運ばれた。
部屋に戻って、
そのままぐっすりと眠り込んだ。
目が覚めると夕方。
炭山教授が背広姿でやって来た。
私のお腹を指で押さえて診療。
「きれいに取りましたよ」
「ありがとうございました」
しかし、点滴は続く。
腹は減っているけれど、
元気です。
不死身の結城義晴。
なんちゃって。
意外に見えるかもしれないけれど、
体だけは丈夫です。
「タフでなければ生きていけない、
優しくなければ生きていく資格がない」
“If I wasn’t hard,
I wouldn’t be alive.
If I couldn’t ever be gentle,
I wouldn’t deserve to be alive.”
ご存知、探偵フィリップ・マーロウの台詞。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド。
東京タワーを背に、
マーロウの台詞を呟いてみる。
再び宵闇がやって来て、
タワーが浮かび上がる。
チャンドラーも好きだが、
R・B・パーカーも大好きだ。
その探偵はスペンサー。
恋人はスーザン・シルバーマン。
スペンサーもタフガイだ。
スペンサーの有名な台詞。
「誰かが言っている。
あらかじめ真実はこれだと
決めてかかったら、
真実を見出すことはできないと」
私の姿勢は、いつもこれだ。
東京タワーのこの姿は真実だろうか。
決めてかかってはいけない。
今日はここまで……。
ぐっすりと眠ろう。
おやすみなさい。
〈結城義晴〉