将棋王将戦第三局と人口減少国日本の「教育と産業」
先週の日曜日から、
働きづめで疲れた。
今朝は10時過ぎまで眠った。
そして疲れは取れた。
神奈川県は、
オミクロン株の新規陽性判明者が、
8699人となった。
東京は1万7433人、
大阪が1万0383人。
全国で8万4934人。
それもあって、
夕方まで家にこもっていた。
将棋王将戦第三局を、
囲碁将棋プレミアムで、
見るともなく見ていた。
渡辺明王将(37歳)対藤井聡太挑戦者(19歳)。
渡辺が名人をはじめ三冠、
藤井が竜王とともに四冠。
将棋界のメジャータイトルは八つあって、
この二人がそのうちの七つを保有する。
最高峰の対戦だ。
王将戦は二日制のタイトル戦である。
両者得意の相掛かり戦型となって、
一日目から難解な局面が続いた。
午後6時、渡辺が62手目を封じ手として、
立会人の深浦康市九段に提出した。
これまで藤井聡太が2連勝。
風格のようなものも出てきた。
プロ棋士たちですら、
「ワクワクする」と発言する一戦。
明日の二日目に雌雄は決する。
楽しみな第三局2日目だ。
私は日が暮れるころ、
ちょっとだけ車で出かけた。
夕焼けも少し春っぽくなってきたか。
1日が早く感じられる。
さて、日経新聞の経済コラム「大機小機」
コラムニストは私立大学学長の一直さん。
タイトルは、
「人減る日本、活路に2つの難題」
「筆者にとって最近衝撃的だったのは、
昨年秋に確定値が出た84万人という
2020年の出生者数だ」
18歳人口は2018年を境に減少過程に入った。
この流れが長期にわたって加速する。
18歳人口は大学の経営を左右する。
もちろん消費産業や商業にも、
大きく影響を与える。
「”人口減少国・日本”の活路は、
生産性引き上げしかない」
人口減を食い止める施策以外には、
それしかない。
しかしそれが日本にとって難題で、
一直さんはその理由を2つ挙げる。
「第1は労働市場の硬直性である」
ニューヨーク・タイムズの記事。
「米国が大離職時代を迎えている」
「昨年11月の自発的離職者が
この20年間で最大を記録した」
自発的離職者は、
自分の意志で職を替える人のことだ。
「しかも自発的離職者の賃金が
離職しなかった人々より
大きく上昇している」
この現象をコラムニストは分析する。
「経済の変動期に労働力が
衰退部門から成長部門へ
移動することによって
経済全体の生産性が上がる」
仕事の本籍地と現住所。
どんどん現住所を変えて、
転居する。
「残念ながら日本では
このメカニズムが働きにくい。
労働市場の流動性が乏しいのである」
労働市場の流動性が高まれば、
小売業やサービス業にも、
労働力が移動してくる。
いつの時代も商業は、
衰退部門にはなりにくいからだ。
アメリカでは全産業のうち、
売上高首位と2位が小売業である。
ウォルマートとアマゾン。
しかし労働力が移動してくるには、
商業の世界がもっと魅力的に変わらねばいけない。
待遇も賃金も、なによりもイメージも、
飛躍的に上がらねばならないし、
それには労働生産性も、
飛躍的に高まる必要がある。
「第2は日本の教育の問題である」
故・森嶋通夫ロンドン大学名誉教授。
ノーベル経済学賞候補と言われた。
『なぜ日本は没落するか』
1999年刊の著書。
2050年ごろの日本を予言している。
「国際的発言力のない
没落した国に落ちぶれている」
28年後だ。
森嶋教授の理屈。
「日本の戦後の学校教育は知識偏重で
“価値判断を行う能力”
“論理的思考で意思決定する能力”の
涵養(かんよう)をおろそかにしている」
「涵養」は、自然に、しみこむように、
養成すること。
知識の詰め込みだけでは、
判断能力は涵養されない。
しかし価値を判断し、
論理的思考で意思決定するには、
知識は必須である。
「そうした戦後教育を受けている
執筆当時の青少年層が50年後には
政官財の指導者になっているはずだから、
日本は没落する――」
そんな事例は現在でも散見される。
公文書の改ざん問題、
キャリア官僚の給付金詐欺問題、
某銀行の度重なるシステム障害問題。
すべて教育と組織に根差す問題だ。
一直さん。
「日本はコロナを抑え込むことでは
成果をあげているが、
経済の活力という点では
欧米に劣後していると言わざるを得ない」
「教育制度から経済産業組織まで
長期展望に立った構造改革が急がれる」
この正論に同感はするが、
一方で藤井聡太や大谷翔平が、
世に出てきた。
将棋では羽生善治がいたし、
羽生世代が活躍した。
野球ではイチローや松井秀喜、
野茂英雄が先鞭をつけた。
そのあとにも次々に、
驚くべき逸材が登場している。
一手や一球の価値判断能力、
論理的思考の意思決定能力。
凄いものをもつ若者がいる。
商売の世界にも、
中内功、伊藤雅俊、岡田卓也に続いて、
柳井正や似鳥昭雄が登場した。
そのあとにも、
将来が楽しみな若い起業家が出てきている。
2050年には藤井は48歳。
大谷は56歳。
同年代の、従来とは異質な、
政治家、官僚、財界首脳、
そしてトップマネジメントたちが、
日本をリードしているかもしれない。
頂に立った人たちは、
教育や産業の制度や組織を問題視するが、
どんな逆境の中からでも、
社会が必要とする人間は出てくる。
逆境や艱難が人を育てるからだ。
そこに望みをかけるのは、
ひどく淋しい気もするが。
〈結城義晴〉