戦争に関する「マクドナルド理論」とイセ食品経営破綻
「マクドナルド理論」
あちこちで取り上げられている。
「黄金のM型アーチ理論」ともいう。
『レクサスとオリーブの木』で論じられた。
トーマス・フリードマンの2000年の著書。
「マクドナルドのある国同士は
戦争を行わない」
ある国の経済が発展していって、
マクドナルドが出店し、
チェーン展開を始める。
すると大抵、大人気を博する。
これはその国に中流階級が形成されて、
そこまで発展すると、
その国の国民は戦争を望まなくなる。
「むしろ、ハンバーガーを求めて
列に並ぶ方を選ぶ」
おもしろい観察だったが、
マクドナルドのほうが巧みだったのか、
この理論そのものが、
一時の現象をとらえただけのものだったのか。
1998年のコソボ紛争や、
2008年の南オセチア紛争によって、
マクドナルドの店があっても、
戦争が起こった。
そしてこの理論は批判を浴びた。
ロシアには850店を展開しているが、
すでに営業を中止している。
ウクライナにも20都市以上に、
100店くらいは出店しているが、
こちらも営業どころではないだろう。
いずれにしても、
「マクドナルド理論」は破綻した。
トーマス・フリードマンの評価は別にして、
この理論は破綻してほしくはなかった。
マクドナルドには世界中に出店して、
戦争が起こらないことを実証してほしかった。
フリードマンは、
グローバリゼーションを語った。
それはアメリカ中心の理屈だった。
アメリカの理屈と、
マクドナルドを好む人間の特性は、
一致はしなかった。
つまり「専制主義」と言われる国でも、
変貌した「共産主義」の国でも、
健全な中産階級が形成されていなくとも、
マクドナルドは人気を博する。
ではセブン-イレブンは?
イオンは?
ユニクロは?
戦争との関係で、
セブン-イレブン理論や、
イオン理論、ユニクロ理論が成り立つとしたら、
商業の発展と平和理論がリンクすることになる。
それはそれで、
私としてはうれしいことだ。
ただし「マクドナルド理論」は、
ウクライナ危機で反証されてしまった。
キエフ総攻撃を、
世界中が固唾を飲んで見守っている。
土曜日にもかかわらず、
商人舎オフィスに出て、
いろいろな打ち合わせ。
コロナ禍によって、
商人舎の事業も停滞した。
その間に単行本は書けたけれど。
この春から夏にかけて、
事業の再構築をし、再浮上を期す。
みなさん、よろしくお願いします。
さて商人舎流通スーパーニュース。
イセ食品news|
「森の卵」の鶏卵トップ企業会社更生手続き
鶏卵のイセ食品㈱が、
会社更生法手続きに入った。
負債は453億円だという。
一般新聞が次々に報じた。
イセ食品のホームページでは、
保全管理人となった髙井章光弁護士が、
コメントを発表して、
会社再建を目指すとしている。
イセ食品は鶏卵のトップ企業の一つだ。
全国に14の生産拠点をもち、
アメリカ、中国、インド、アセアンに進出している。
「森のたまご」などのブランド名で、
全国の食品小売業に卸していた。
鶏卵業界の企業としては、
日本農産工業㈱がトップだが、
同社は畜産飼料や肉なども販売するため、
鶏卵に関しては、
イセ食品が一番手だ。
ヨード卵光の日本農産は、
三菱商事の傘下にある。
一方のイセ食品は独自路線を歩んで、
伊勢彦信前会長の強気の経営で、
年商500億円程度に成長していた。
卵は「物価の優等生」などと言われて、
価格が安定している商品の代表だ。
96%が国産である。
特売頻度も高い。
その卵の価格は、
「エッグサイクル」と呼ばれた。
2、3年、あるいは5、6年の周期で、
価格の変動が訪れた。
しかし年次変動の幅が狭くなり、
最近は低価格水準で推移している。
生産は安定し、供給過剰。
しかし飼料や燃料など生産コストは上昇した。
シェアが高止まりすれば、
売上げは伸びず、経費だけ高騰する。
それがイセ食品倒産の根本的な理由だ。
私も40年くらい前に、
鶏卵のGPセンターを取材したことがある。
GPは「グレーディング・アンド・パッキング」。
GPセンターは格付・選別・包装施設のことだ。
当時は全農が支配する世界だった。
そこにイセ食品などが台頭して、
やや強引な拡大政策をとって成長した。
その挙句の倒産である。
2018年、イセ食品は、
関西圏の「スーパー玉出」を、
約50億円で買収した。
売上高約450億円で45店舗。
玉出の現在の経営は、
㈱フライフィッシュ。
伊勢彦信前会長の個人出資会社が、
フライフィッシュの親会社だ。
イセ食品の会社更生法とは、
資本関係はないはずで、
だから玉出はこれまで通り経営される。
伊勢彦信氏には会ったことがないが、
日本を代表するアートコレクターだという。
日本画、洋画、陶磁器などを幅広く所有し、
とくに中国陶磁のコレクションは、
2017年にパリの国立ギメ東洋美術館で、
企画展が開催された。
2007年にはフランス政府から、
シュバリエ勲章を受章している。
『卵でピカソを買った男』
生産過剰で価格安定。
そんなマーケットで成長を続けた。
しかし根本的な経営経費構造によって、
大きな破綻を招いた。
私には鶏卵業界のほうが心配だ。
〈結城義晴〉