台風一過、西郷隆盛の「丈夫玉砕すとも 甎全を愧ず」
台風15号は温帯低気圧に変わった。
そして台風一過の横浜の空。
ベランダのオリーブの葉に水がたまった。
外に出るとバーベナ、
日本名は「美女桜」。
クマツヅラ科クマツヅラ属の花。
彼岸花にも雨粒が残る。
曼殊沙華ともいう。
人を泣かせ己も泣いて曼珠沙華
〈鈴木真砂女〉
雲が残ったが、
青空も見えて、
元気が出てくる。
雨降って地固まる。
台風去って決意新た。
日経新聞の巻頭コラム「春秋」
その9月22日版。
「信なくば立たず」
日本の政治家はこの言葉を好んで使う。
岸田文雄首相も自民党総裁選立候補の際に、
このフレーズを使って、さらにこう語った。
「政治の根幹である国民の信頼が崩れている」
菅義偉政権のことだ。
岸田内閣の支持率が、
驚くスピードで下がっている。
旧統一教会と自民党との関係、
安倍晋三元首相の国葬への批判。
「秋の日が落ちる速さで
国民の心が離れつつある」
「信なくば立たず」は、
「論語」に由来する。
政治について問われた孔子が、
軍備と食料を十分にすることよりも、
まずは民衆の「信」が大事だと説いた。
急落する支持率について、
記者団から問われた首相は、
自らに言い聞かせるように
「一喜一憂しない」と答えた。
「聞く力」を看板に登場したリーダー。
「私にはやるべきことがある」
総裁選に打って出たときの初志を、
貫けるのか。
今日9月24日は、
西郷が自刃した日だ。
その南洲翁の有名な漢詩。
幾歷辛酸志始堅
丈夫玉碎愧甎全
一家遺事人知否
不爲兒孫買美田
「幾たびか辛酸(しんさん)を経て
志始めて堅(かた)し
丈夫(じょうふ)玉砕(ぎょくさい)すとも
甎全(せんぜん)を愧(は)ず
一家(いっか)の遺事(いじ)
人知るや否や
児孫(じそん)の為に
美田(びでん)を買はず」
何度も辛酸をなめて、
志ははじめて堅くなる。
丈夫、すなわち一人前の男というものは、
たとえ玉砕するとしても、
保身に走る「甎全」を恥じるものだ。
わが家の家訓を知っているだろうか。
子孫のために立派な田畑を買わないことだ。
つまり財産を遺したりしないことだ。
台風が去って、
西郷どんを思い出した。
「幾たびか辛酸を経て
志始めて堅し
丈夫玉砕すとも
甎全を愧ず」
〈結城義晴〉