「量的・質的異次元金融緩和」の転換と「重荷」の量的・質的な「重さ」
日銀が「異次元緩和」を転換する。
日経新聞は一面トップで取り上げた。
「10年目で実質利上げ
長期金利上限0.5%に」
朝日新聞は社説で書いた。
「金融緩和修正 日銀はもっと機敏に」
異次元緩和は、
アベノミクスの三本の矢の第一の矢として、
象徴的な政策だった。
それが10年目で転換する。
アベノミクスの三本の矢は、
⑴大胆な金融政策
⑵機動的な財政政策
⑶民間投資を喚起する成長戦略
⑴に連なる⑵まではやったが、
⑶が実現しなかった。
そのアベノミクスの実質的な終焉である。
主役を演じた黒田東彦総裁は、
2013年3月に就任した。
当時はデフレの真っただ中で、
それからの脱却を目指して、
大規模な金融緩和を打ち出した。
インフレターゲット論も盛んで、
政府と日銀は「2%の物価目標」を掲げた。
そのための異次元緩和だった。
基本的には好景気によって、
場合によっては現在のような戦争などで、
物価が上昇する。
それがインフレーションである。
その場合に中央銀行は、
市場に流通する資金の量を減らす。
そして消費や設備投資の抑制を図る。
「金融引き締め」である。
逆に景気が悪化すると、物価が下落する。
デフレーションである。
このとき中央銀行は、
市場に流通する資金を意図的に増やすべく供給して、
金利の低下を誘導する。
そうすると企業が資金調達を行いやすくなって、
それが景気を刺激し、消費を促して、
物価上昇が実現する。
これが金融緩和である。
しかしこの従来の金融政策では、
コントロールできなくなった。
そこで2013年以降、
従来にはない非伝統的な金融政策が導入された。
量的・質的金融緩和である。
それが異次元金融緩和だ。
「量的」とは金融市場操作目標を、
「金利」という「率」から、
「資金供給量」という「量」へと変更し、
市場に大量に資金を供給すること。
「質的」とは、
長期国債や上場投資信託(ETF)などの、
保有額を増大させて、
金利の上昇を抑えること。
現実は国債市場での売買で金利が決まる。
だから日銀が長期国債などを大量に保有して、
市場金利を下げる政策をとった。
具体的には資金供給量を2年間で2倍、
長期国債の保有額も2年間で2倍のペースで、
拡大させる目標を立てた。
そしてそれを、
物価上昇率2%達成まで継続するとした。
2016年には短期金利をマイナス0.1%にして、
マイナス金利付き量的・質的緩和を実施した。
さらに2016年9月には、
長短金利操作付き量的・質的緩和を施した。
長短金利操作は、
イールドカーブ・コントロールとも呼ばれる。
「イールド(yield)」は「利回り」のこと。
「イールドカーブ」は「利回り曲線」のこと。
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、
長期国債を買い入れて保有し、
利回り曲線をコントロールする政策だ。
異次元緩和は三段階で進められた。
しかし、今年に入って、
米連邦準備理事会が利上げに踏み切って、
円安・ドル高が加速した。
ウクライナ危機で資源高も起こった。
消費者物価指数は3%台半ばまで上昇した。
そこでやっと黒田総裁は、
量的・質的異次元金融緩和政策を転換する。
しかし普通国債の残高は、
1000兆円に膨張している。
これは税収で返済しなければならないものだ。
金利が1%上昇すれば、
元利払いに充てる国債費は、
3.7兆円上振れることになる。
この長期の異次金融緩和によって、
日本の産業の新陳代謝は停滞してしまっている。
アベノミクスも、
これで一定の歴史的評価が下されるだろう。
しかし黒田総裁が去っても、
異次元緩和が転換されても、
国が難局にあることは、
変わらない。
私は午前中、
㈱True Dataのオンライン取締役会。
午後、出社して、
原稿の手直しと入稿。
1日、疲れた。
夜の新田間川。
クリスマスに向けて、
イルミネーションが施されている。
最寄りの駅は妙蓮寺。
その門前に掲げられた住職の書。
進んで負えば、
重荷も重からず
重荷は、
その重さを自覚することで、
重荷たりうるものである。
重荷に慣れて神経が弛緩し、
重荷の重さが自覚できなくなると、
取り返しのつかないことになる。
量的にも質的にも、
重荷の重さ、重荷の価値や意義こそ、
冷静に自覚されねばならない。
会社の経営も店の運営も、
産業の舵取りも、
その重みを認識したうえで、
進んで負うべきものである。
〈結城義晴〉