ボブ・ディラン「Rough & Rowdy Ways」コンサートに行った。
ボブ・ディランが来日している。
ワールドツアー。
81歳。
多分、最後の公演。
イオンスタイルが入るショッピングセンター。
その一角にシアターがある。
行列。
スマホもオペラグラスも持ち込めない。
手荷物検査をして会場へ。
午後4時開場。
午後5時開演。
赤い幕をバックにして、
ディランを中心に5人のバンドが登場。
ディランはアップライトピアノを前に、
立って歌う。
間奏に入ると座ったりもする。
歌うときにはまた立つ。
5時きっかりに始まって、
105分間、歌い続けた。
途中、バンドメンバーの紹介のときだけ、
スピーチしたけれど、
あとはずっと語るように歌い続けた。
バンドメンバーは、
左にギターのダグ・ランシオ、
その後ろにドラムのジェリー・ペンテコスト、
ディランの真後ろに、
ベースのトニー・ガーニエ、
右にギターのボブ・ブリット。
その後ろにペダルスティールのドニー・ヘロン。
全員の動きは少ない。
ディランを囲んで、
ディランを見つめつつ、
淡々と演奏する。
ダグ・ランシオは、
フルアコースティックギター。
いわゆるサンバーストタイプ。
それが目立つくらい。
トニー・ガーニエは曲によっては、
ウッドベースも弾く。
バンドマスターはガーニエ。
演奏は2020年のアルバムの曲ばかり。
ラフ&ロウディ・ウェイズ。
コンサートのタイトルも、
Rough & Rowdy Ways。
直訳すれば、
「荒くれて乱暴な道」
2枚組みアルバム。
2012年の「Tempest」以来のリリースで、
ノーベル文学賞受賞後初の作品。
それも意識したのだと思う。
Murder Most Foul(最も卑劣な殺人)は、
17分の曲。
JFケネディ大統領暗殺事件を歌う。
ジミー・ロジャーズは、
「カントリーの父」と言われるが、
そのロジャーズに、
「My Rough and Rowdy Ways」がある。
ディランはこのタイトルを模した。
ディランは「盗作」が多いと言われることがある。
しかしそんなことはどうでもいい。
自分がいいと思う曲をつくる。
インスピレーションは、
いつも、どこからかやって来る。
プレスリーをはじめ、
ビートルズやローリングストーンズ、
シークムント・フロイトやカール・マルクス、
エドガー・アラン・ポーの名前も出てくる。
曲想は単調で、それがむしろディランらしい。
81歳の声とは思えない。
歌い続けるのを、
全員がじっと聴いていた。
最後の曲の前に、
ブルースハープを吹いた。
そのとき、会場は沸いた。
朝日新聞も号外を出したが、
その写真ではブルースハープを吹いている。
最後に立ち上がって、
姿を見せた。
それまではピアノに隠れて、
全身は見えなかった。
ちょっとよろよろして、
脇に人がついて支えた。
ディランのコンサートが終わった。
アンコールもなかった。
ギター一本かかえて、
Don’t Think Twice, It’s All Right
など、やってくれたら、
うれしかったのだが、
それも仕方がない。
終わって、会場を出てくるとき、
朝日新聞の号外を渡された。
ディランの歌を訳したことがある。
「風に吹かれて」
Blowin’The Wind
How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
人はいくつの道を歩めば、
人として認められるのだろう。
How many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?
白い鳩はいくつの海を越えれば、
砂浜で眠ることができるのだろう。
How many times must the cannon bolls fly
Betore they’re forever banned?
なんど砲弾が飛び交えば、
それは永遠に破棄されるのだろう。
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
友よ、答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている。
How many years can a mountain exist
Before it’s washed to the sea?
山はどれだけの間、
山のままであり続けるのだろう。
海に流し出されるまで。
How many years some people exist
Before they’re allowed to be free?
人々はどれだけ生きれば、
自由の身になれるのだろう。
How many times a man turn his head
Pretending he just doesn’t see?
人は何度、見て見ぬふりをしながら、
顔を背けるのだろう。
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
友よ、答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている。
それから、
ジョーン・バエズも歌ったし、
ふたりのデュエットも実によかった。
「Don’t Think Twice, It’s All Right」
It ain’t no use to sit and wonder why, babe
If’n you don’t know by now
座り込んで考えたって
どうにもなりゃしない、ベイビー。
今になってもわからないんだから。
And it ain’t no use to sit and wonder why, babe
It’ll never do some how
座り込んで考えたって
どうにもなりゃしない、ベイビー
どうしようもないことさ。
When your rooster crows at the break a dawn
Look out your window and I’ll be gone
雄鶏が夜明けを告げるころ
窓の外を見てごらん、俺はもういない
You’re the reason I’m a traveling on
But don’t think twice, it’s all right
旅をするのは君のせいさ
だけどくよくよするなよ、
it’s all right
And it ain’t no use in turning on your light, babe
The light I never knowed
灯りをつけたって
どうにもなりゃしない、ベイビー。
灯りなんてなかったんだ
An’ it ain’t no use in turning on your light, babe
I’m on the dark side of the road
灯りをつけたって
どうにもなりゃしない、ベイビー
俺は道の暗がりのほうにいる。
But I wish there was something you would do or say
To try and make me change my mind and stay
だけど俺をここに留めようと、
俺の気持ちを変えようと、
君が引き止めてくれたらいいな、って思ったよ
But we never did too much talking anyway
But don’t think twice, it’s all right
だけど満足に話もできなかった
くよくよするなよ、
it’s all right
So it ain’t no use in calling out my name, gal
Like you never done before
俺の名を呼んだって
どうにもなりゃしないさ、お嬢さん
そんなこと今までなかっただろう
And it ain’t no use in calling out my name, gal
I can’t hear you anymore
俺の名を呼んだって
どうにもなりゃしないさ、お嬢さん
君の声はもう聞こえない………
So long, honey babe
Where I’m bound, I can’t tell
さようなら、愛しい人
どこに行くかなんて言わないよ
But goodbye is too good a word, babe
So I’ll just say fare thee well
グッドバイなんてもったいない言葉さ、
ベイビー
だからこう言うよ
元気でな――。
Dylan、So long!
And fare thee well!
〈結城義晴〉