セブン&アイ井阪隆一社長の続投とイトーヨーカ堂の商いの論理
セブン&アイホールディングスの株主総会に、
数多の注目が集まった日だ。
ありえないことだが、
井阪隆一代表取締役が、
株主提案に沿って退任させられるか否か。
早朝から井阪さんの周辺には、
取材陣がたむろし、
東京四谷のセブン&アイ本社前には、
カメラの放列があった。
第18回定時株主総会が、
この本社で開催されたからだ。
午前9時に受付を開始し、
10時に総会が始まった。
個人投資家を中心に、
昨年より181人多い436人が出席した。
商人舎流通SuperNews。
セブン&アイnews|
株主総会で井阪隆一社長再任/バリューアクト提案否決
予想通り会社側の提案が賛成多数で可決した。
井阪隆一社長を含む取締役15人の選任議案である。
これによって井阪社長の続投が確定した。
「物言う株主」の提案は否決された。
7万4745人の株主がいる。
株式数は8億8644万1983株。
そのうち機関投資家が32.7%。
外国法人等は33.0%。
個人・その他は株主数は多いけれど、
保有株式は11.0%だ。
そして4月6日段階の大株主。
⑴日本マスタートラスト信託銀行13.7%
⑵伊藤興業 8.0%
⑶日本カストディ銀行 5.9%
⑷SMBC日興証券 3.9%
⑸SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT 2.4%
⑹伊藤雅俊 2.2%
⑺日本生命保険 2.0%
⑻VALUEACT CAPITAL MASTER FUND1.9%
⑼三井物産1.8%
⑽日本証券金融 1.6%
この上位10者で43.4%を占める。
⑵の伊藤興業は、
創業の伊藤一族の資産管理会社だ。
この会社を仕切っているのは今、
伊藤さんのご長女の山本尚子取締役だと言われる。
⑹は4月6日段階ではまだ、
伊藤雅俊さん個人になっている。
合わせると10.2%になる。
問題の⑻VALUEACTは1.9%の保有で、
8番目に多い株主だ。
バリューアクトの提案が、
機関投資家と外国法人に支持されれば、
32.7%+33.0%=65.7%
しかしそんなことはあり得ない。
バリューアクトは、
「物言う株主」が物を言ったことの実績を示した。
彼らはそれでいいのだろう。
存在感は増したし、
知名度が上がった。
その主張が正当だったか否かが、
これから評価されることになる。
セブン&アイの経営陣が、
バリューアクトに勝ったかといえば、
それはない。
経営陣も取締役会も、
ひどく傷ついたと思う。
年商11兆8000億円で過去最高を更新した、
日本最大の小売業が、
一部ではあるものの株主から、
社長の首を要求された。
それに対して、
なりふり構わず言い訳をした。
そんな、印象が残った。
結局のところ、
会社提案の取締役15名全員が選任された。
だがしっかりした議論をするのに、
15人は多過ぎると思う。
その取締役会が声明を発表。
「多くの株主の皆様が、
この一年をかけて当社が取り組んできた
ガバナンス体制の変革を評価してくださっており、
また当社の堅調な業績の元となっている
コンビニエンスストア事業に今後
注力していくという当社の成長戦略を
ご支持いただいていることを嬉しく思います」
「コンビニ事業に注力」する成長戦略は、
バリューアクトも同じだ。
その注力の仕方をどうするか、
誰にそれをやらせるか。
ここで互いに正反対の見解となった。
「当社取締役会は価値創造に向けた
あらゆる可能性を排除せず、
独立社外取締役のみで構成される
戦略委員会を通じて、
客観的な分析・検証を継続的に実施し、
事業の変革を加速させてまいりたいと
考えています。」
「独立取締役の戦略委員会」が、
「事業の変革を加速」させる。
これもどこか、変な感じがする。
つまり経営者がやや、
責任を放棄しているように見える。
戦略は戦略委員会。
執行は経営陣。
そんなことはありえない。
株主からの質問のひとつ。
「セブン-イレブンとイトーヨーカ堂の、
相乗効果がわかりにくい」
これは的を射た意見だ。
そのことは、
月刊商人舎4月号に書いた。
「工業論理」×「商人論理」で考えを改めよ
〈結城義晴〉
「バリューアクトが突きつけた
要求の背景にあるのは、
このマクドナルド級の
グローバルチェーンの構築である」
それができるのは、
世界中を見渡しても、
セブン-イレブン以外にない。
「このとき、
イトーヨーカ堂を首都圏に集中させ、
食品に専念させて、
ヨークと統合させることなど、
視野に入ってはこない」
「世界企業であるためには、
インダストリアリズムの思想が欠かせない。
つまり工業化の思想である」
「イトーヨーカ堂は
現在の人材と資産を最大限に活用して、
生き残りさえすればいい。
商人の論理、商いの論理である」
イトーヨーカ堂の営業収益は、
2023年2月期で7293億円。
前年に対して31.7%減だが、
それでも総合スーパーで日本第3の規模がある。
商いの論理に徹して、
現場の力を信じつつ、
彼らに仕事を任せれば、
まだまだ生き残ることはできる。
それを信じることだ。
〈結城義晴〉