高度成長時代の「半ドン」と伊藤雅俊&鈴木敏文のトレード・オン
9月の三連休の中日の日曜日。
週末の二連休が当たり前になると、
三連休はありがたい。
それがサラリーマン消費者の気持ちだろう。
その真ん中の日は、
不思議なゆったり感がある。
私の父の時代は、
土曜日は「半ドン」と言って、
半日仕事をし、半日休んだ。
半ドンの「半」はもちろん、
「半分」のこと。
「ドン」は「ドンタク」の略。
博多どんたくの「ドンタク」。
もともとはオランダ語の”ゾンターク”、
「日曜日」あるいは「休日」の意味。
つまり半ドンは、
半分休日。
半ドンという言葉を聞くと、
高度成長期の日本が思い浮かぶ。
よく働きつつ、土曜日は半分休み、
もっともっと豊かになるぞ。
そんな印象がある。
いい時代だったのかもしれない。
学校も土曜日は、
午前中に授業があった。
2002年4月から学校は、
毎週、土曜日が休みになった。
学習指導要領が大きく変わって、
勉強する内容が3割減った。
「ゆとり教育」である。
はたして「ゆとり」は良かったのか。
日経新聞電子版。
編集委員の田中陽さんが書く。
「そごう・西武売却の教訓」
昨日、私はイトーヨーカ堂の、
人員削減の話を書いた。
そうしたら田中さんが、
そごう・西武のことを書いた。
セブン&アイ・ホールディングスの社是は、
「お客様、取引先、株主、地域社会、社員に、
誠実な会社でありたい」
そごう・西武の売却では、
ストライキが決行され、
「幅広いステークホルダーの不評を買った」
この百貨店の売却について、
財界トップたちは批判的である。
日本商工会議所の小林健会頭。
「経営者が従業員のために働けば
ああいうことはあまり起きない」
経団連の十倉雅和会長。
「組合の方々が客、地域社会を
重要な利害関係者として思っていることに
非常に感銘を受けた」
田中さんは言う。
「セブン&アイの取締役会には
耳の痛いコメントだったに違いない。
取締役会は今回の売却を最善の策として
胸を張って誇れるのか」
そごう・西武の経営問題は2016年、
井阪隆一セブン&アイ社長が誕生した直後から、
くすぶり続けた。
「グループ戦略の洗い直しの過程で、
百貨店事業は抜本改革のもと、
縮小を余儀なくされた」
「改装投資は抑えられ、
店舗はくすんでしまった」
その通り。
店は再投資し、
リニューアルしなければ、
業績が落ちる。
百貨店はとくに追加投資が必要な業態だ。
「百貨店だけでなく、
前体制の鈴木敏文会長が主導した
多様な流通企業のグループ化は
少子高齢化時代の消費の取りこぼしを、
防ぐためだった」
鈴木敏文さん。
「私がいつまでもトップでいられるわけがない。
次の世代にいろいろと考えてもらいたい。
そのための企業群だ」
「井阪体制は、
コンビニへの選択と集中を加速させ、
セブン&アイの経営・管理層に
セブン-イレブン・ジャパン出身者を重用した」
人事の公平性は足りなかったと、
私も思う。
それがどんな結果を招いたか。
「セブンイレブンの業績が
優れているのは間違いないが、
統一した店舗運営を徹底する社風が支配し、
多様性のある柔軟な経営体制にはならなかった」
コンビニのフランチャイズチェーンと、
百貨店、さらに総合スーパー。
それらを抱え込んだ、
コングロマーチャントが、
セブン&アイである。
「将来をにらんだ多様な戦略を培う経営からは離れ、
“高級ブランドはわからない”と
さじを投げるセブン-イレブン出身の役員もいた」
「金太郎あめ的な社員が多く、
その画一性がセブン-イレブンを
強固な企業体質へと押し上げた」
鈴木敏文さんはいつも、
それを危惧していた。
「売却交渉では、
資本の論理の土俵外にいる地元関係者や自治体、
そごう・西武の雇用に配慮が足りなかった」
セブン-イレブン・ジャパンには、
労働組合がない。
イトーヨーカ堂もそごう・西武も、
UAゼンセンに加盟して、
セブン&アイグループ労働組合連合会を組織している。
セブン-イレブン育ちの井阪さんは、
労働運動とは縁のないところにいた。
鈴木敏文さんは、
最初に入った東販という出版卸会社で、
書記長を務めた。
労働問題の専門家だ。
そのうえでイトーヨーカ堂では、
労務担当だった。
この経験の違いは、
今回、大きかったと思う。
田中編集委員。
「”最も頭を下げなくていい会社”
食品メーカーの間では
セブン&アイをこう呼ぶことがある。
日本一の販売量を誇る商品は山ほどあり、
メーカーがこぞって取引を望む。
その空気感を売却時の説明にも
持ち込んでしまっていなかったか」
創業者の故伊藤雅俊さんは、
「驕(おご)りや傲慢さが災いを招く」と説いた。
田中さん。
「今回の騒動は多くの教訓を残した」
教訓は役立てるものだ。
それが役立つのならばいいのだが。
伊藤雅俊からだけでなく、
鈴木敏文からも離れては、
この会社は駄目になる。
両者をトレード・オンするところに、
セブン&アイの活路がある。
〈結城義晴〉