イオンの「2024年問題」対策と左手のピアニスト
日本経済新聞朝刊一面トップ。
「イオン、物流網を再構築」
イオン㈱の「2024年問題対策」
自社トラックの総輸送距離1割減。
来年4月から改正労働基準法が適用される。
トラック運転手の時間外労働は、
年960時間に制限される。
1カ月80時間、1週20時間弱。
これへの対応をどうするか。
イオンの改革で使われるのは、
AIを活用して最適ルートを割り出す、
配車システムだ。
イオンの約3300店舗。
国内全体の総合スーパーと食品スーパーの1割強。
それらの店に出入りするトラックは、
年間150万台になる。
この改革はそのうちの約15万台分を減らす。
センターからイオン全店までの、
年間トラック輸送距離は2億8000万kmである。
地球約7000周分。
その輸送距離は年間で最大2800万km減少する。
二酸化炭素排出量も約1割抑制される。
センターでの商品仕分けから積み荷の配置まで、
様々な作業の効率化も進める。
たとえば、
「運転手が店の倉庫から陳列棚まで
荷物を運ぶ作業をやめて、
荷物を下ろすだけにする」
こんなことをさせているのかとも思うが、
これで作業時間は1割減る。
納品面の改革も進める。
現在は朝と昼の納品時間が固定されている。
だからトラック積載率は5割から8割になる。
しかし改革後は、
トラックが満載になってから順次配送する。
こうすれば積載率はほぼ100%まで高められる。
九州や北海道などリージョン別に、
グループ各社が協力して共同配送にも取り組む。
長距離貨物輸送を、
トラックから鉄道や船に変える。
「モーダルシフト」の進捗である。
NX総合研究所の調査。
輸送需要に対して業者などが運べる能力は、
卸売・小売業、倉庫業で9.4%不足する。
日本の物流業界では、
トラック事業者の99%を中小企業が占める。
政府は11月の補正予算で、
「モーダルシフト」を支援する姿勢を打ち出している。
官民一体となった取り組みは必須だ。
イオンがその先鞭をつける。
意義のあることだ。
しかしまだまだ改革の余地は多い。
常識や慣習を打ち破って、
小さなイノベーションを積み重ねなければならない。
日経新聞夕刊。
「あすへの話題」
よく読むコラムだ。
そのなかで、
京都大学教授の根井雅弘さんの文章は好きだ。
舘野さんは65歳のとき、
フィンランドでコンサート中に
脳溢血(いっけつ)で倒れ、右
半身が麻痺してしまう。
医者からはピアニストとしての再起は
不可能と宣告された。
ところが、右手の自由を失っても、
舘野さんは懸命にリハビリに専念し、
あるきっかけで
左手のピアニストとして復活を遂げる。
舘野さんの息子さんが、
1枚の譜面をそっと置いて行った。
イギリスの作曲家フランク・ブリッジ。
第1次世界大戦の戦場で
右手を失った友人のために曲を作った。
ピアノは両手で弾くものという
固定観念にとらわれていたら、
いつまでも復帰できなかったに違いない。
しかし、舘野さんは違った。
それ以来、多くの作曲家が舘野さんのために
左手用の曲を作ってくれるようになった。
2024年問題にも、
左手のピアニストの姿勢が求められる。
プロのピアニストの中には、
自分の好きなピアノや調律について、
けっこう口うるさい人も少なくない。
だが舘野さんは、招聘されれば、
世界のどこであろうと、
条件がどうであろうと、
音楽愛好家のためにピアノを弾いてきた。
「自分のため」ではなく、
「誰かのため」に仕事をするときの方が
力が出るのだ。
左手のピアニストの言葉は、
2024年問題にこそ、
当てはまる。
ありがたい。
〈結城義晴〉