「来春の賃上げ5%台」と「おおきな木」の無償の愛
2023年のカウントダウン。
あと5日で今年が終わる。
商人舎は12月27日が仕事納め。
商人舎流通SuperNewsも、
1月4日まで冬季休載。
月刊商人舎1月号の責了日。
最後の4ページ原稿(6000字)を書いて、
表紙の特集タイトルを決め、
表紙の「Cover Message」、
巻頭の「Message of January」、
巻末の「定義集」、
そして編集後記を書いて、
今年の書き納め。
今年はどれだけの分量を書いたのだろう。
クォリティのほうが大事だが。
デザインはいつも最高。
七海真理さん、心から感謝。
みんなで校正して、責了。
コンセプチュアルな雑誌が出来上がった。
そのあといつもの中華屋で、
深夜の打ち上げ。
軽く一献。
さて、
日経新聞の社長100人アンケート。
タイトルは、
来春の賃上げ「5%台」が最多。
国内主要企業の社長・会長を対象に、
143社から回答を得た。
2024年春の賃上げ率の想定を尋ねた。
定期昇給とベースアップを合わせた賃上げ率。
「5%台」の回答が34.6%で最多。
これが今春の相場ということか。
「4%台」が19.2%、
「7〜9%台」と「3%台」が、
それぞれ15.4%。
1年前の同じ調査。
50社の回答。
「3%台」が34%で最多。
そして23年実績は「4%台」が26.6%で最多。
23年春よりも、
高い賃上げを想定している。
喜ばしいことだ。
賃上げ率を想定した企業の具体策。
ベアを「実施する」75%、
「検討中」20.8%。
ベア率は「3%台」が35%で最多、
金額では「1万円以上」が60%で最多。
95.7%の企業が賃上げの理由を、
「物価高に対応」と「人材確保」をあげた。
24年度の総人件費。
23年度より「増える」は78.4%。
増え幅は「3%台」が最多。
その分、稼がねばならない。
手厚く賃上げする人材。
「若手社員」が最多の35%、
「新入社員」32.9%、
「ITやデータの専門人材」25.2%。
「管理職」9.1%、
「シニア」5.6%、
「非正規社員」2.1%。
管理職とシニアと女性非正規社員で、
店を回している小売業やサービス業は多い。
全産業の主要企業の調査だから、
小売業の実情とはずいぶん違う。
新入社員、若手社員の離職率も高いのだろう。
それでも5%がニッポンの賃上げ相場だ。
そして総人件費は3%が平均的な増加率である。
人手不足を解消するには、
これらを上回る必要があるだろう。
楽観はできないし、
むしろ深刻な状況である。
K字型の成長と衰退が進むのだろう。
東京新聞の巻頭コラム「筆洗」
今年5月3日版。
「おおきな木」という絵本。
作者は米国シェル・シルヴァスタインさん。
日本版は村上春樹さんの訳。
おおきなリンゴの木と少年は大の仲良し。
ところが大きくなるにしたがって
少年は木と遊ばなくなる。
青年になった少年はお金が必要になる。
木は少年に自分のリンゴを売れという。
少年はありったけのリンゴを持っていく。
大人になった少年は、
今度は自分の家がほしくなる。
木は自分の枝を切って家を造ればという。
少年はたくさんの枝を切る。
次の願いは船。
リンゴの木は自分の幹を切って造れという。
少年はリンゴの木を切り倒す。
東京新聞のコラムはこの絵本を、
「平和の実のなる憲法という木」に喩える。
「日本という少年は
そのありがたさに気づかない。
自分の都合と勝手な解釈によって、
その木をたびたび傷つけてきた」
昔のお店(たな)は、
木が店員だった。
丁稚どんと番頭さん。
店主が木のありがたさに気づかず、
自分の都合と勝手な解釈で、
木を傷つけてきた。
商業界の倉本長治は、
それを手厳しく諫(いさ)めた。
店は客のためにあり、
店員とともに栄え、
店主とともに滅びる。
これは結城義晴が㈱商業界の社長時代に、
倉本語録から発掘した三行詩だ。
店主は今、賃上げをして、
手厚く処遇しようと試みる。
しかしこの物語には、
結末がある。
時が経ち、少年は年老いて帰ってきた。
そして「疲れたので休む場所がほしい」という。
木は「切り株の私に腰をかけなさい」という。
男は腰をかけた。
木は幸せだった。
しかしここまで書くと、
憲法とは結び付かない。
だからコラムは結末を削除した。
それでもこの物語の大事なところは、
切り株になってもお役に立ちますよ、
という最後のところだ。
無償の愛である。
お店でいえば、
木からご利益を得るのは、
お客でなければいけない。
店主も店員もみんなで、
木にならなければいけない。
〈結城義晴〉