「井上ひさしの作文教室」の「いきなり核心から入る」
冬季休業に入ったとはいえ、
オフィスに出てきている。
単行本の執筆だ。
そしてゴミ出しなどした。
ひとりで珈琲を淹れて、
ゆっくりと味わう。
これが年末の楽しみのひとつだ。
今年は懸案の問題を、
いくつも解決した。
その意味ですっきりした気分だ。
もちろんやり残したことは多い。
それが来年の課題となる。
『井上ひさしの作文教室』
自宅の机のわきに、
いつも置いている。
文章の書き方は、
店のつくり方と同じだ。
痛切に感じる。
第一に、
「『いきなり核心から入る』ことが大事なんです」
これは本当に正しい。
「昨日、亭主を殴った」というふうに、
どうして殴ったかなんていうことは書かずに、
いきなり核心に入っていく。
「私はどうも亭主を殴る癖がある」
と、ポンとはじめる。
これです。
店をつくるときには、
「一丁目一番地」に、
いきなり核心の商品を並べる。
ウィンコフーズのウォール・オブ・バリュー。
両サイドに高々としたラックがそびえる。
そこにエンドの羅列のように、
飛び切りの特売品目がずらりと並ぶ。
「いきなり核心」だ。
それが店のポジショニングに貢献する。
井上。
「『雪国』の最初のところを
思い起こしながら、
書き出しを考えると、
なかなかいいと思いますよ」
お店もこれでなければいけない。
第二に、
「優れた文章書きは、
なるべく小さく千切ったものを、
相手に次々に提供していく」
夏目漱石の『草枕』の書き出し。
「山路を登りながら、かう考へた。
知に働けば角が立つ。
情に掉させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
兎角に人の世は住みにくい。」
目玉商品をひとまとまりにして、
目玉価格で次々に提供していく。
夏目漱石になった気分で、
店をつくり、売場をつくる。
第三に、
「誠実さ」「明晰さ」「わかりやすさ」
――これが文章では大事なことです。
鶴見俊輔の言葉を井上ひさしは覚えている。
「誠実さ」というのは、
「人の言葉でなくて自分の言葉で」
ということになるでしょう――。
「明晰さ」とは、
「自分のものの考え方の展開とか、
自分がいま、何をやろうとしているかを、
しっかり知っている、
という意味の明晰さです」
自分の言葉で、
自分のものの考え方で。
これもポジショニングです。
文章を書くことも、
店や売場をつくることも、
ポジショニングなのです。
井上ひさしさんの言う通り。
店づくりも売場づくりも、
三つのこと。
誠実さ・明晰さ・わかりやすさ。
川端康成、夏目漱石。
彼らに店をつくらせてみたい。
あなたの年末商戦の売場は、
どうなっているだろう。
〈結城義晴〉