結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2024年06月08日(土曜日)

インフレだけがイノベーションを促進するのか?

日経新聞経済コラム「大機小機」
新聞社の人間ではなく、
学者、経営者、ジャーナリストなど、
知見をもった人たちが書く。

最近はなぜか、
このブログで取り上げる機会が減った。

いつも読んでいるけれど、
私自身の関心がこのコラムから離れている。

日本の株価が絶好調だから、
コラムを書く識者の意識が、
いつの間にか金融経済に寄っているのだろう。
私の目は実体経済に向いている。
だからどうも縁遠くなった。

しかしコラムニストの与次郎さん。
鹿児島出身なのかもしれないが、
「インフレは革新の友なのか」

「2%を超える物価上昇が
2年あまり続く現実を前にしても、
日本銀行は目標とする2%のインフレが
『持続的・安定的』なものであるか、
なお見極める必要があると言う」

「安定的な2%インフレは
それほどまでに希求する価値が
あるものなのだろうか」

同感だ。

2%のどこに根拠があるのだろう。

コラムニストは最近の論調を批判する。
「インフレのメリットを説く新説がある」

「インフレは、
イノベーション(革新)を促進する。
逆にデフレは、
イノベーションを阻害する」

そうか? と私も思う。

「日本経済にとって
最大の課題が生産性の向上で、
それをもたらすのは
イノベーションであることは、
今やコンセンサスと言ってもよい」

アベノミクスでは、
この点が欠落していた。

浜田宏一東京大学名誉教授、88歳。
イェール大学名誉教授。
元内閣官房参与だが、
面白い発言をしている。
「アベノミクスの三本の矢を
大学の通知表にならって採点すると
金融緩和はAプラス、財政政策はB、
成長戦略の第三の矢はE」

つまり「ABE」

与次郎さん。
「そうした観点からも
安定的なインフレを実現することが
重要であるというわけだ」

しかし、経済学者ヨーゼフ・シュンペーター。
41xJi91pYUL
「イノベーション」というコンセプトの生みの親。

シュンペーターは、
「それがどこまでも『ミクロ』であることを
力説してやまなかった」

「インフレ・デフレは『マクロ』の現象である」

「イノベーターは
自らが携わる事業の個別の問題を解決し、
夢を実現するために
イノベーションを行うのであって、
一般的な物価の動向は
二義的な役割しかもたない」

ピーター・ドラッカーも言う。
「マーケティングとイノベーションだけが
企業に成果をもたらす」

これもミクロの現象を起こすことだ。

「GAFAM」は情報化時代をけん引する。
Google、Apple、facebook、Amazon、Microsoft。

「その時価総額は2015年から24年まで
10年弱で6倍ほどになったが、
この間の米国の物価上昇は
累積で約32%にとどまる」

「ケタが違う」

「インフレが、
イノベーションを促進したわけではない」

「逆にイノベーションの敵とされるデフレの下で、
イノベーションの事例はいくらでもある」

ケーススタディの最初は産業革命。
「例えば19世紀の前半、
最先進国の英国では緩慢な物価の下落が続いたが、
スティーブンソンによる鉄道の実用化、
蒸気船と運河の発達など
イノベーションは減退しなかった」

「デフレの下で大英帝国は築かれたのである」

次の事例は大恐慌のころ。
「1930年代、実体経済が
壊滅的な打撃を受けた大不況下の米国ですら、
人々の娯楽が限られる中で
ディズニー映画が生まれ、
家に閉じこもりがちな人々のニーズに応え
FMラジオが開発された」

「ここ数年、コロナ禍の下で
オンライン事業が定着した」

ウォルマートはコロナ禍中に、
オムニチャネルリテーラーに蛻変した。

「イノベーターは
物価動向とは異なる社会のニーズを感じとり、
それぞれの夢を実現した」

「一見ふに落ちそうだが、
インフレがイノベーションを促進し、
デフレがそれを阻害するという議論は
誤りである」

与次郎さんは、
断言した。

気持ちいい。

インフレもデフレも、
社会や消費生活にギャップを生む。

そのギャップを埋めるために、
イノベーションが起こる。

1930年の大恐慌の時に、
マイケル・カレンによって、
スーパーマーケットが発明された。
Screen_Shot_2021-04-21_at_9.49.09_AM

1978年のイラン革命から、
第2次オイルショックが始まった。
この後のデフレ効果と引締め政策によって、
アメリカは急角度の景気後退に突入した。

その最中の1980年にサム・ウォルトンは、
エブリデーロープライスの実験を始めた。
7153xCY6jmL._SL1188_

小売業のイノベーションは、
デフレや景気後退のときに起こる。

インフレだけが革新の友ではない。
デフレもイノベーションを起こすのだ。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • マーケティングとイノベーション=あなたの立場に立って考え創意工夫すること。これに尽きると思います。今日も一日、これを実践します。

    • 吉本さん、その通り。
      カスタマーの立場で創意工夫する。
      今日も一日、慌てず急げ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

「月刊商人舎」購読者専用サイト
月刊商人舎 今月号
商人舎 流通スーパーニュース
月刊商人舎magazine Facebook

ウレコン

今月の標語
商人舎インフォメーション
商人舎スペシャルメンバー
商人舎発起人

東北関東大震災へのメッセージ

ミドルマネジメント研修会
商人舎ミドルマネジメント研修会
海外視察研修会
商人舎の新刊
チェーンストア産業ビジョン

結城義晴・著


コロナは時間を早める

結城義晴・著


流通RE戦略―EC時代の店舗と売場を科学する

鈴木哲男・著

結城義晴の著書の紹介

新装版 出来‼︎

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》
(イーストプレス刊)

新着ブログ
毎日更新宣言カレンダー
指定月の記事を読む
毎日更新宣言カテゴリー
毎日更新宣言最新記事
毎日更新宣言最新コメント
知識商人のためのリンク集

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。商人舎サイトについて
Copyright © 2008- Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.