父の日と「中経病処方箋」の着眼大局着手小局
Fathers’ Day。
父の日の父にも父のありにけり
〈足利徹〉
そのとおり。
父の日の父の遺影と酒を酌む
〈沼口蓬風〉
私も。
さて、6月10日の日経新聞。
「中計」についての記事が2本。
第1は「記者の目」
味の素、さらば「中計病」
味の素が昨2023年2月に、
中期経営計画の廃止を公表した。
「中計病」に罹(かか)っていたからだ。
その中計に代わって、
30年を見据えた経営方針を打ち出した。
「大局的に捉え、
将来の理想像から逆算して
成長の道筋を毎年見直す」
「将来のありたい姿は
収益などの絶対額ではなく
利益率といった比率ベースで示す」
そこで投下資本の効率を重視する、
「ROIC(投下資本利益率)経営」に変えた。
「Return on Invested Capital」である。
事業に投じた資本に対して、
どれくらいの利益を生み出したか。
それを示す財務指標がROIC。
チェーンストアでは、
「ROI」を使うことが多い。
「Return on investment」
同じ意味と考えていいだろう。
味の素の今回の脱中計を補足するのが、
同じ6月10日の第2の「大機小機」
「中期経営計画の是非」
「企業経営で使われる期間は一般的に
短期が1年、中期が3~5年、
長期が10年以上とされることが多い」
中期の3年を5回重ねると15年、
10回続けると30年。
これもいい。
短期は単年度予算、中期は中期経営計画、
長期は長期ビジョンなど。
今年4月に経産省が開設したのが、
「持続的な企業価値向上に関する懇談会」
座長の伊藤邦雄一橋大学CFO教育研究センター長。
「長期視点の経営の必要性」を課題に挙げた。
10年前は「中長期的」という表現が多かったが、
今回は「中期」が消え、「長期」のみになっている。
興味深い。
日本では、中計を策定する上場企業は、
7割といわれている。
チェーンストアではどうだろう。
上場企業でやはり7割くらいか。
コラムニスト。
「意外かもしれないが
欧米企業の公表事例は少ない。
米ダウ工業株30種平均で構成する銘柄では
スリーエムとウォルマートのみだ」
ウォルマートはチェーンストアの代表だ。
この連鎖システムは中長期計画と親和性が高い。
「代わりにビジョンや複数年の目標レンジを
公表している企業が多い」
「日本では、
高収益企業のキーエンスや信越化学工業が
中計を策定していない」
味の素もこれに同調した形だ。
「環境予測が困難であること」
「作成に労力を要すること」
中計にはこういった弊害が立ちふさがる。
コラムニスト。
「中計を作ることが目的になったり、
儀式化したりしている企業もあるのではないか」
同感だ。
「重要なことは、
企業が長期的にありたい姿を
公明正大に映す対話ツールとして、
何が適切なのか真剣に
考え抜くことではないだろうか」
当たり前と言えば当たり前の結論。
「不確実性の高い時代だからこそ、
ぶれない経営が求められている」
月刊商人舎では、
これまで「中計」を2回特集している。
最初は2017年10月号。
特集「中計病」の処方箋
「目標による管理」と「計画・仮説・検証」のすゝめ
中計の基本を示した。
二度目は今年の2月号。
特集「中計」の夢とリスク
チェーンストアの「中長期計画」を検証する
中計の迷走を正した。
この二度目の[Message of February]
昨日を廃棄せよ
中期経営計画書を読む。
分厚いワードの書類またはパワポのシート。
びっしりと書き込まれた活字と数字。
基本は現状維持、
はたまた希望的観測。
そして暗黙の言い訳の羅列。
現実を直視せず。
視点は上向き、現場は蔑(ないがし)ろ。
組織の壁の臭いがぷんぷん。
美辞麗句と使い古された用語。
宙に浮いた最新のトレンドワード。
そのくせ最後に顧客主義。
リスクを冒さない。
スピード感がない。
だから未来がない、夢がない。
中期経営計画書を読む。
死んだ書類、熱のない計画書。
確信のない提案。
どれだけの時間がかかったのか。
どれだけの労力を費やしたのか。
何を手本としたのか。
しかし計画とは、
「あらゆる種類の未来を、
現在に集約するタイムマシーンである」
計画とは、
未来を考えて今日行動するために、
今日意思決定を行うことである。
未来とは、計画とは、
望めばその通りに起こるわけではない。
八つの男の子が消防士を夢見ることではない。
未来を築くには、
いま、決定しなければならない。
いま、リスクを負わなければならない。
いま、行動しなければならない。
いま、人材を割り当てなければならない。
いま、仕事をしなければならない。
明日を実現するための第一歩は、
昨日を捨てることである。
昨日を廃棄することである。
ほとんどの計画は、
新しく付け加えるべきことに、
取り組もうとする。
しかし明日、新しいことを行うためには、
もはや生産的でなくなったもの、
陳腐化したものから自由になることである。
死んだ書類。
熱のない計画書。
確信のない提案。
その呪縛から脱するには、
未来を現在に集約する、
タイムマシーンに乗ることである。
(ピーター・ドラッカー『マネジメント』より)
〈結城義晴〉
しかしこの場合も、
現場は短期に向かいがちで、
いつか必ず中期が必要になる。
要は未来を現在に集約する、
「着眼大局・着手小局」の哲学が、
ころころ変わらないこと肝要なのだ。
〈結城義晴〉
2 件のコメント
私も、今の時代は、臨機応変な反射神経と運動神経が最重要だと思います。工場新設等の巨額な設備投資には中長期視点が必要ですが、それも中計というより将来ビジョンから導き出されるものだと思っています。
チェーンストアの場合、店舗開設計画とその投資計画が成長の礎です。
したがって中長期計画がぴったりくるのだと思います。
しかし何よりも長期ビジョンが必要です。
中計流行りでその中計づくりにだけ、
労力をかけてしまう風潮に反省が生まれているのだと思います。