結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2024年06月20日(木曜日)

藤井聡太七冠と伊藤匠新叡王の「生涯のライバル」

将棋界が揺れた。
将棋愛好者も将棋ファンも揺れ動いた。

第9期叡王戦五番勝負第5局。
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藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦して、
ここまで2勝2敗だった。

ともに21歳。

藤井はご存知、八冠。
将棋界の全タイトルを独占して8カ月。
タイトル戦の番勝負に関しては22連勝で、
負けたことがない。

そのなかで「叡王」は2017年に発足した、
最も新しいタイトルである。

持ち時間は互いに4時間で、
チェスクロック方式を採用する。

藤井はまったくと言ってよいほど、
欠点や弱点のないプロ棋士だが、
唯一、得意ではないのが、
このチェスクロックだ。

それもあって、
今回の5番勝負ではここまで2敗している。

プロになってからの通算成績でも、
8割を超える高い勝率を誇る。
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私は朝から仕事の合間に、
アベマTVでちょこちょことチェックした。

角換わり戦という互いに精通した戦型で、
藤井が「銀のただ捨て」の手を放って、
終盤までリードした。

私は夕方の5時ごろには終わると思った。

しかし伊藤が粘りに粘った。
藤井の想定を超えた守りの手で、
逆転した。

そのあとも藤井が再逆転して、
さらに再逆転。

最後は藤井が先に1分将棋となった。
最後の最後は伊藤も1分将棋となって、
手に汗握る熱戦。

将棋史に残る名局は伊藤が制した。
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伊藤新叡王は淡々と、
低い声で語った。
「これまでのタイトル戦は、
厳しい戦いが続いていたので、
藤井八冠相手に結果が出て良かった」

藤井七冠は悔しそうに、
いつもの高い声で述懐した。
「時間の問題だと思っていた」

藤井は2020年、
史上最年少で初タイトルを獲った。
棋聖位。

その後、次々にタイトルを奪取し、
昨23年秋には最後に残った「王座」を獲得。
羽生善治も達成できなかった八冠となった。
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伊藤は3度目のタイトル戦だった。
いずれも藤井八冠に挑戦して、
持将棋の引き分け1局以外は全敗。
1勝もできずに敗れていた。

しかし今回で、
藤井にタイトル戦で勝利した、
初の棋士となった。
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実力制初代名人の関根金次郎には、
大阪の坂田三吉がいた。

実績第一位の大山康晴には、
天才・升田幸三がいた。
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中原誠には米長邦雄の存在があった。
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羽生善治には森内俊之や佐藤康光がいて、
「羽生世代」を形成した。
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生涯のライバルであり、
違った個性をもつ仲間であり、
絶対に負けたくない敵である。

ウォルマートにはターゲットがいるし、
シアーズローバックにはJCペニーが存在した。

巨人には阪神、
ヤンキースにはレッドソックス。

栃錦には若乃花、
大鵬には柏戸、
北の海には輪島。
貴乃花には曙。

マーケットリーダーには、
マーケットチャレンジャーがいる。

生涯実績は藤井が圧倒するだろう。

関根をはじめ、
大山も中原も羽生もそれを実証した。

しかしリーダーには、
ポジショニングが全く異なる、
チャレンジャーが出現する。

藤井聡太には同年の伊藤匠が登場した。
小学3年のときの全国大会準決勝で、
伊藤に負けた藤井は泣きじゃくった。

二人の人生は何度も絡まりながら、
これからも名局を生み出していくのだろう。

「何事も独占は許されない。
神がそれを認めない」

私はそう言い続けてきたが、
藤井聡太にもそんな存在が現れた。
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これは藤井のさらなる成長を促すに違いない。
私はそれを確信して、
興奮が冷めない1日となった。

朝日新聞「折々のことば」
今日の第3121回。

編著者の鷲田清一さんは、
予測していたのか。

「これこれ 
そう前かがみになっちゃあ 
盤の狭いトコしか見えんし 
呼吸だって苦しかろう?」
〈羽海野(うみの)チカ〉

「難局にさしかかって、
顔を盤面に近づけ、
ぐっと考え込む少年棋士に、
老師匠が、
深く息を吸い込み、姿勢を正して、
四隅の香車を見るよう諭す」

「それを『まじない』にしてごらん」と。

「それに、注意を一点にだけ集中すると、
それ以外のものに無防備になり、
自覚なしに影響を受けることになる」

コミック『3月のライオン』第17巻から。
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藤井聡太と伊藤匠に、
こんな言葉をかける老人はいたのだろうか。

そして自分のことを顧みる。

同じ土俵の中で、
ほぼ同年のライバルはいただろうか。
いるだろうか。

短期的にはそんな風に思った人はいた。

しかし残念ながら、
生涯をかけた仕事の土俵で、
終生のライバルは存在しなかった。

それは不幸なことかもしれない。

いつも二回り、三まわりの先輩たちを、
仮想ライバルと見立てて、
自分なりに刻苦勉励してきた。

21歳にしてすでに孤高の域に達した藤井聡太に、
伊藤匠が出現したことは、
彼らにとって幸せなのだろう。

ただし私には、
3月のライオンの老師匠のごとき人たちは、
たくさんいた。

それは幸せだった。

ありがとうございました。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • 結城さんは、渥美さんを仮想ライバルとし、そこからアウフヘーベンされたメタ理論構築に邁進されてるのだと、いつもその壮大さに感嘆しておりました。

    • 吉本さん、ありがとうございます。
      恥ずかしながら、その気構えで日々、過ごしております。

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