パリ五輪柔道の負けるための「躾」と負けないための「technigue」
熱は急に下がった。
医者の処方薬は凄い効き目だ。
日曜日の朝には36.6℃、
午後には36.3℃まで下がった。
そこで会社に出た。
私がいないので、
月刊商人舎8月号が、
最後のところでストップしてしまった。
それを夜までに、みんなで仕上げた。
意外に面白い雑誌ができ上った。
本当に期待してください。
それにしてもパリ五輪。
団体混合柔道。
まずは銀メダル、おめでとう。
選ばれた柔道家たちは、
本当によくやった。
そしてフランス代表との決勝戦は、
惜しかった。
3対3の同点で、最後の決戦は、
抽選で最重量級の戦いとなった。
相手はテディ・リネール。
フランスの英雄、35歳。
今大会の聖火リレーの最終ランナーとなった。
身長204cm、体重150kg。
男子100キロ超級で世界ランキング1位。
オリンピックには、
2008年から5回連続出場。
5つの金メダル、2つの銅メダルを獲得。
100キロ超級では、
2012年のロンドンで金、
2016年のリオデジャネイロで金、
そしてパリで金。
対する日本は斉藤立(たつる)。
身長191cm、体重170kg。22歳。
オリンピックは初出場。
父親は故斉藤仁(ひとし)。
ロスとソウルのオリンピックで、
95キロ超級の金メダリスト。
国士舘大学体育学部教授、
同大学柔道部監督、
全日本代表監督。
現在の指導者たちからも、
「斉藤先生」と呼ばれる。
1961年生まれで2015年、54歳で没。
1957年生まれの山下泰裕の4歳年下で、
いつも割を食った。
熊本出身の山下、青森出身の斉藤、
東海大の山下、国士舘の斉藤。
山下が太陽ならば、斉藤は月だった。
立はその次男として、
姿かたちもそっくり。
大いに期待された。
リネールとは、
団体戦の本割で対戦し、
思うような組手を得られず、
しかも懐の深い防御に苦しんだ。
最後に内股で投げられ、負けた。
代表戦の決戦でもリネールを大いに苦しめたが、
最後は大内刈りで一本を取られた。
二人には実力の差があった。
しかし混合団体のチーム対戦では、
勝つチャンスがあった。
第1戦は男子90kg級金メダルの村尾三四郎が、
切れ味鋭い大内刈りで見事に勝った。
第2戦は女子70kg超級の髙山莉加が、
圧倒的な体力差のロマヌ・ディッコを、
これしかないという一瞬のタイミングで、
大内刈りに仕留めた。
巨漢のディッコが、
スローモーションで倒れた。
第3戦の男子90kg超級は、
斉藤がリネールに負けた。
第4戦の角田夏実は、
2階級上のサラ レオニー・シジクを、
巴投げで畳に沈めた。
シジクは57kg級銅メダリスト。
見事な金星だった。
ここまで3対1で圧倒的に有利だった。
第5戦が阿部一二三。
こちらは66kg級金メダリスト、
日本の英雄。
相手はジョアンバンジャマン・ギャバ。
73kg級銀メダリスト。
6kgの体重差をもろともせず、
技をかけ続けて優勢を維持した。
しかしギャバは技を掛けられても、
投げられる瞬間にうしろ向きになって、
防御する。
この防御が素早かった。
結局、変形肩車で負けた。
第5戦の日本は女子70kg級の髙市未来、
フランスは同級のクラリス・アグベニェヌ。
63kg級銅メダリスト。
この対戦でも髙市が技をかけ続けた。
それをことごとく、
クラシスは裏返って防御した。
こちらも疲れたところを、
外巻き込みで技ありを取られて負けた。
本当に惜しかった。
阿部か髙市のどちらかの技が決まっていたら、
日本に団体の金メダルがもたらされた。
しかし、仕方がない。
私は中学と高校の6年間、
毎週1時間、柔道の授業を受けた。
もちろん自分の柔道着をもっていた。
学校の大方針は「紳士たれ」。
そこで全生徒が柔道を学んだ。
その柔道の授業で、
一番最初に教育され訓練されたのが、
受け身である。
受け身の防御を完全にマスターしてから、
投げ技、寝技の攻撃を教えられる。
私はこの受け身が好きだったし、
上手かったと思う。
体操部だったので、
前方回転の受け身など、
いつも模範をさせられた。
安全性の担保という意味もあるだろう。
受け身は投げられても、
怪我をしないためのものだ。
それが日本の柔道の基本精神だと教わった。
しかし今回、
このパリ五輪の混合団体を見ていて、
フランスのJUDOは、
受け身よりも裏返って逃げる技を、
子供のころから教えているのではないかと思った。
あるいは成長して、
試合をやるようになってからは、
徹底して逃げ技を訓練するのではないか。
日本の柔道の受け身は、
負けるための躾である。
フランスのJUDOの逃げ技は、
負けないためのテクノロジーだ。
ここに大きな違いがあるのではないか。
もちろん日本のトップ柔道家たちは、
逃げ技も完璧にこなす。
一二三は天才的だ。
しかし柔道界全体に、
負けるための受け身を教えるという面が、
ありはしないか。
それを考える必要がある。
いやそれを知っておく必要がある。
本家とかお家芸とかの意識を一度捨てて、
現在の柔道の在り様を見つめ直す。
そこから次の柔道界が生まれると思う。
柔道の現代化である。
斉藤立はもっともっと筋トレが必要だ。
父親は180cm、143kg。
巨体ながら何mも逆立ちで歩いた。
そんなフィジカルをもつことだ。
素人爺の勝手な言い分、
お許しいただきたい。
ありがとう。
〈結城義晴〉
2 件のコメント
「日本の柔道の受け身は、負けるための躾である。フランスのJUDOの逃げ技は、負けないためのテクノロジーだ。」は、考えたこともない視点です。常識を疑う視点は何に対しても必要ですね。
柔道の授業で中一のときに、
1年間受け身をやらされて思ったのです。
これ、負けるための練習じゃん、て。