結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2024年12月29日(日曜日)

野中郁次郎「二項動態経営」と結城義晴の「トレードオン」

野中郁次郎先生の新刊本。
『二項動態経営』
野間幹晴さん、川田弓子さんとの共著。IMG_8355 (002)
野中先生はもう89歳。
しかし研究意欲は衰えない。
一橋大学名誉教授、
カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授。

野間さんは一橋大学院教授、
川田さんは一橋ビジネススクール研究員。

「二項動態経営」の説明が冒頭に出てくる。
――組織のあらゆるレベルのメンバーは、
動く現実の流れのなかで
さまざまな矛盾やジレンマに直面する。
その個別具体の文脈のなかで、
共通善に向かって、
「あれかこれか(either/or)」の
二項対立(dichotomy)ではなく、
「あれもこれも(both/and)」を追究する
二項動態的な集合「実践知」創造を通じて、
葛藤を超えて「より善い」をめざし、
新たな価値創造への道を
他者とともに切り拓くのである――。

「二項動態」コンセプトの着想は、
もともと野間さんにあったようだ。
それを野中先生が見つけて、
「面白い主張をしているじゃないか」とコメントした。

野間さんは財務会計を専門とする。
1974年生まれの50歳。

第1章は「二項動態経営と組織的知識創造。

第2章は「二項動態経営の実践」
ここで日本の企業が列挙される。
エーザイやホンダ、ソニーは野中本の常連。

セブン-イレブン・ジャパンと、
セブン&アイ・ホールディングスも登場する。

ん~、過去の実践はよかったが、
現状はどうか。

第3章は「ヒューマナイジング・ストラテジー」
「人間くさい」経営のこと。

第4章は新しい「日本的経営」の創造。
この章の最後に「二項動態経営モデル」が示される。

とてもいい本だ。
私の研究に取り入れさせていただきたい項目が多い。

何しろ私は言い続けている。
「あちらを立てて、こちらも立てる」

二項動態の発想は、
まったく同じだ。

最初は1995年10月の「食品商業」の巻頭言。
「あちらを立てれば、こちらが立たず」

その後、1999年ごろ、
販売革新の巻頭に書いた。
「エディターズ・ボイス」

そしてそのまま二つの短文を並べて、
2004年刊の『Message』に載せた。

「あちらを立てて、こちらも立てる」

あちらを立てれば、こちらが立たず。
こちらを立てれば、あちらが立たず。

ならば、あちらを捨てましょう。
あるいは、こちらを切りましょう。

それが二〇世紀だった。
いわば「トレードオフ」に象徴された時代。

もちろん商品開発における「トレードオフ」は、
強力な手段であることに変わりはない。

しかし、この時代をとらえて「全体最適」を実現させるには、
「トレードオフ」では問題解決にならない。

二律背反の事象が、
溶け合う糸口のポイントを見つけていく。

正反対の主義主張に、
優先順位をつけながら一本にまとめていく。

対立する考え方に「最適化」の網をかぶせていく。
実現不可能に見える問題を、実現可能に変えていく。

環境問題も、安全安心問題も。
少子高齢化問題も、健康問題も。

あちらを立てて、こちらも立てる。
こちらを立てて、あちらも立てる。

二一世紀の百年間に、私たちは
丹念に、至難の仕事に挑まねばならない。
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私は倉本長治から学んだ。
「店は客のためにあり、
店員とともに栄える」

これこそ、
「あちらを立てて、こちらも立てる」だった。

客を立てて、店員も立てる。
カスタマー・サティスファクションと、
エンプロイー・サティスファクション。

「創意を尊びつつ、良いことは真似ろ」は、
「創意と模倣」の二項動態だ。

「文化のために経営を合理化せよ」も、
文化と合理化の二項動態である。

ウォルマート創始者サム・ウォルトンは、
1962年のウォルマート第1号店で、
店頭に次の二つの言葉を掲げた。

We sell for less.
Satisfaction Guarantee.

「私たちは、安く売ります。
同時に顧客満足を提供します」

サムも、
「あちらを立てて、こちらも立てる」である。

最近では、商人舎2023年1月号。

’23両利きトレードオン
二兎を追いつつ両立させる「経営と運営」
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『両利きの経営』は2022年、
チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマン。

私は「商業の近代化」から、
「商業の現代化」に進むために、
是非とも必要となるのがこれだと考えた。
いや、考え続けた。

近代化はトレードオフ。
現代かはトレードオン。

「あちらを立てて、こちらも立てる」

ついでに「オクシモロン」もトレードオンだ。
ギリシャ語のパラドックス(逆説)。
oxy[鋭い・賢い]とmoron[鈍い・愚かだ]の合成語。

野中郁次郎が、
「二項動態経営」を言い始めたのは、
心強いし、ここから学ぶことは多い。

2024年の年末押し迫ったときに、
またまた一段と意欲がわいてきた。

やります。89歳の野中先生に負けてはいられない。

「今日も一日、優しく強く」

そして、
「今日も一日、慌てず急げ」

これらも二項対立の「トレードオン」だった。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • 野中さんの凄いところは、ナレッジマネジメント、暗黙知と形式知などの概念が、実際の企業活動に広く活用され浸透していることだと思っています。私たちも、ごく普通の会話の中で日常的に使っています。
    これからAIを使ってやろうとしていること(集合知)を、概念として先行して提示されていたような気もしています。

    • 同感です。
      野中先生は実務家の側面をもった学者です。
      そこがすばらしい。

      商業高校のとき、
      簿記や算盤が苦手で、
      落第しそうになったとか、
      富士電機に入って実務を経験してから、
      カンパを集めてカリフォルニア大学に留学しただとか、
      そういったキャリアのある学者は多くはありません。

      それが企業経営にコミットしている理由だと思います。

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