野中郁次郎先生ご逝去/暗黙知・形式知と「二項動態」のデジャヴ
Everyone, Good Monday!
[2025vol③]
2025年第4週。
突然ですが、訃報です。
野中郁次郎先生。
1月25日、肺炎でご逝去。
89歳。
一橋大学名誉教授。
カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授。
1935年、東京都出身。
都立第三商業高校から、
早稲田大学政経学部卒業後、
富士電機製造㈱に就職。
この実務者経験が野中郁次郎の特長をつくった。
カリフォルニア大バークレー校経営大学院を修了し、
南山大学、防衛大学校、一橋大学の教授などを歴任した。
暗黙知と形式知。
そしてSECIモデルによって、
日本の企業経営に決定的な影響を与えた。
その「暗黙知」のコンセプトはもともと、
マイケル・ポランニーが提唱した。
ハンガリーの哲学者。
「暗黙知」は、
「主観的で言語化ができない知識」。
経験や勘に基づく知識のこと。
一方の「形式知」は、
「言語化して説明が可能な知識」。
例えば文章・図表・数式などによって、
表現し、説明できる知識を指す。
暗黙知と形式知との相互作用の中から、
組織的に知識が生み出されていく。
そのプロセスに興味をもった。
それが「SECIモデル」の発見となった。
SECIは「セキ」と発音する。
暗黙知を共感する「共同化」、
暗黙知を概念に変換する「表出化」、
形式知を理論モデル・物語にする「連結化」、
形式知を行動・具現化する「内面化」。
これらが組織活動の中で循環しながら、
knowledgeをつくり、成果を上げていく。
「オーガニゼーション・サイエンス誌」は、
経営学のトップクラスの専門誌だ。
1994年にこのメディアに論文を発表。
「組織的知識創造の動態理論」。
“A Dynamic Theory of Organizational Knowledge Creation”
続いて95年に発刊したのが、
“The Knowledge‐Creating Company”
オックスフォード・ユニバーシティ・プレス刊。
これは全米出版社協会で、
ベストオブザイヤーに選ばれた。
日本語版は『知識創造企業』
この本の第2章では、
哲学を中心にしたレビューが展開された。
プラトン、アリストテレスから、
デカルト、カント、ヘーゲル、
西田幾多郎らの認識論までレビューし、
激論の末にたどり着いたのが、
マイケル・ポランニーの「暗黙知」の概念だった。
野中理論は、
組織論にもってきて、
独自性をつくった。
簿記3級や珠算3級で落第した野中郁次郎。
その人が世界に誇るKnowledge理論を生み出した。
60歳のときだった。
2012年12月に講義を聞いた。
持続可能なイノベーション企業、
そこに必要なリーダーシップ。
そして組織の在り方。
理想主義と演繹法のプラトンと、
実践主義と帰納法のアリストテレス。
今どちらの哲学が大事なのか。
共感・共振・共鳴の経営、
暗黙知を形式知として形にし、
さらに実践知にする。
そのための考え方。
The Wise Leaderの必要性。
その能力とは何か。
ドラッカー、シュンペーターから、
ポーター、ハイエクまで、
それぞれの思想をきっぱりと位置づけ、
脳にとって刺激的なセミナーだった。
「究極の価値は、
勇気によって創り出される」
この言葉にはそれこそ勇気を得た。
昨年末の12月29日のこのブログで、
野中先生の新刊本を紹介した。
『二項動態経営』
野間幹晴さん、川田弓子さんとの共著。
「野中先生はもう89歳。
しかし研究意欲は衰えない」
そう、書いた。
その1カ月後に亡くなられた。
「二項動態経営」とは、
――組織のあらゆるレベルのメンバーは、
動く現実の流れのなかで
さまざまな矛盾やジレンマに直面する。
その個別具体の文脈のなかで、
共通善に向かって、
「あれかこれか(either/or)」の
二項対立(dichotomy)ではなく、
「あれもこれも(both/and)」を追究する
二項動態的な集合「実践知」創造を通じて、
葛藤を超えて「より善い」をめざし、
新たな価値創造への道を
他者とともに切り拓くのである――。
「二項動態」の発想は、
暗黙知と形式知の両利きである。
野中郁次郎の最初の発見は、
絶筆の書の根底に流れていた。
心からご冥福を祈りたい。
さて、私の一日。
午前中は横浜商人舎オフィス。
連載の原稿を書き終わって、
その校正をした。
さらにアメリカテキストをチェック。
大手町を歩いて、
大手町野村ビル。
ヘモグロビンA1cは6.4。
血糖値も中性脂肪も尿酸値も、
まったく問題なし。
ほんとうにありがたい。
「知識商人」と「トレードオン」
恥ずかしながら私の提唱する概念。
「知識商人」は、
ピーター・ドラッカー先生から借りた。
「あちらを立てればこちらが立たず」は、
1990年代から言い続けている。
そして「あちらを立てて、こちらも立てる」に至った。
それをコロナ禍のなかで、
「トレードオン」と表現した。
私が持論のように展開していることは、
野中郁次郎のデジャヴだったのかもしれない。
黙禱して、合掌。
〈結城義晴〉
1 件のコメント
分断、矛盾、混乱、争いの世界において、野中先生は昔も今も、統合、整合、秩序、平和の理想を諦めず、そこに理論と実証の裏付けを与え続けてきた方だと思います。むしろ、まずは理想ありきで、その理想を実現するのだという意志と結論ありきで、研究されていたようにも思えます。
「野中先生はもう89歳。しかし研究意欲は衰えない」という結城さんの言葉にもとても勇気づけられていました。きっと、後進たちによってその研究は延々と続けられていくものと思います。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。